第164話 ハンネスさん達と合流しました


「ガウ! ガウ! ワフー!」


 レオは穴の周囲の地面を、さっきよりも小さい爆発で土を巻き上げる。

 何度も爆発させ、土をばら撒いて穴を埋める事にしたようだ。

 効率はあまり良さそうじゃないが……それでも、何度も爆発をさせてるうちに、穴が半分程まで埋まった。


「それくらいで良いかな。レオ、もう良いぞ。ありがとうな」

「ワフ」


 さすがに全て埋まるまで爆発させてたら、周囲が穴だらけになってしまう。

 今でも十分穴が開いてるのは気にしないようにしつつ、トロルドの破片が見えなくなったあたりでレオを止めた。

 色々やってくれた感謝を伝えるように、レオの体を撫で、落ち着いたところで、また荷物を括り付ける。


「結構時間を取られたな……レオ、もう少しスピードを上げられるか?」

「ワウ。ワーウ?」


 レオの背中に乗りつつ懐中時計を見て、スピードを上げて走れるかを聞く。

 スピードを上げられる事には頷いたレオだが、俺が振り落とされるか心配らしい。


「大丈夫だ、しっかりしがみついておくよ。今日中にランジ村に着きたいからな、頼む」

「ワウ!」


 色々な事に時間を取られてしまって、このままだとランジ村に着くのが明日になる可能性もある。

 地図の縮尺がわからないから、あとどれだけかかるのかわからない……というのもあるんだがな。

 出来るだけ、今日中にランジ村に到着したい。

 早くラモギを届けたい……というのはもちろんだが、野宿するための道具をあまり持って来てないからな……フェンリルの森探索の時のようにテントを張るなんて事も出来ないから、快適に寝る事も出来ないだろう。


「ワフワフ……ワフ!」

「うぉ!」


 レオが声で合図をした瞬間、体が浮かび上がるような感覚と一緒に走り始めた。

 周りの景色の流れが速過ぎてわからない程の速度だ。

 これは思ったよりもしんどいな……けど、しっかりしがみついていれば何とか大丈夫そうだ。

 剣の鍛錬をして、体を鍛えて無ければ振り落とされてたかもしれないな……。


「ん?」

「ワフ?」


 しばらくそのままで走り続け、そろそろ腕がつらくなって来た頃、前方に馬が2頭走ってるのが見えた。

 ぐんぐん近づいて行くその馬達に、俺だけじゃなくレオも気付いたようで、速度を落とす。


「あれは……ハンネスさん達か? 1頭が二人乗りで、もう1頭に鎧を着た人が乗ってる……フィリップさんか」

「ワフワフ?」


 まだ遠いから、馬に乗っている人達をはっきりと判別できないが、後ろ姿は屋敷を出る時見送った三人の姿のように思える。

 ハンネスさんは馬に乗れないロザリーちゃんと、1頭の馬に同乗していたはずだ。

 鎧を着て兵士風の姿のフィリップさんは一人で乗っているから、合計で馬が2頭。


「そうだな……馬を驚かせないようにゆっくり近づいてくれるか!?」

「ワフ!」


 どうするか窺うように聞いて来るレオにそう伝える。

 レオが思いっきり走れば、馬に近付いたり追い越したりするのは簡単だろうけど、馬を驚かせてしまったらいけないからな。

 叫んだ俺の声を聞いたレオが、速度を落としつつ返事をするように鳴く。

 速度を落としても馬より早く、少しづつ前を走るハンネスさん達に近づいて行った。


「ハンネスさん! ロザリーちゃん! フィリップさん!」

「む? ……タクミ様!」


 大分近付いて、3人の姿がはっきり見えた頃、後ろから叫んだ。

 馬を操りながら後ろを振り向いたフィリップさんは、俺がレオに乗って追いついた事に気付いたようだ。


「レオ、馬の横に行ってくれるか?」

「ワフ」


 俺に気付いたフィリップさんが、ハンネスさん達に何事か伝えて、馬が止まる。

 レオも、馬を驚かさないようゆっくり近づいて、その横で止まってくれた。


「タクミ様。随分早かったんですね。私達が村に着いてから合流すると考えてましたよ」

「レオが頑張って走ってくれましたからね。何とか追いつけました」

「シルバーフェンリルとは、やはりすごい魔物なのですね……数日早く出発した私達に追いつく事が出来るとは……」

「レオ様凄い!」

「ワフゥ」


 止まった馬から、フィリップさんが下りて来る。

 俺もレオから降りながら、フィリップさんと話す。

 ハンネスさんとロザリーちゃんも、馬から降りて追いついて来た事に驚いてる様子だ。

 レオの方は、ロザリーちゃんに褒められてるようで自慢気な表情をしてるな。


「途中、少々迂回したとはいえ……追いつかれるとは考えていませんでしたよ」

「迂回したんですか?」


 フィリップさんは、セバスチャンさんがいないにも関わらず、見られてる時と同じように丁寧な話し方だ。

 ハンネスさん達がいるからだろうと思う。

 そんなフィリップさんだが、どうやらここまでの道のりで迂回をしたりしていたらしい。

 それで、レオが追いつけたのかもしれないな。


「途中、森からトロルドが複数出て来ているのを見かけました。私一人では対処が難しいので、避けるように迂回したんですよ。幸い、トロルドは私達に気付いていませんでしたからね」

「成る程……そんな事があったんですね」


 途中でみかけたトロルドというのは、もしかするとレオが倒したあのトロルド達かもしれないな。

 フィリップさんは戦えるだろうが、一緒にいるハンネスさんとロザリーちゃんは戦えない。

 それに、トロルドは7体いたから、フィリップさん一人だと危なかっただろう……迂回するのは当然だ。


「タクミ様は、トロルドに遭遇しなかったのですか?」

「あー、発見したんですけどね……レオが簡単に倒しましたよ」

「森の中でもそうでしたが、さすがはシルバーフェンリルと言わざるを得ませんな……」

「ワフゥ」

「シルバーフェンリルの強さは、昔から伝わていますが……凄まじいのですね」


 ほんとに、レオは簡単にトロルドを切り刻んでいたからなぁ……。

 3メートルを越える巨体で、棍棒を振り回していたから、俺だと1体相手でも厳しいと思う。

 レオは特に苦労しなかったとでも言うように鳴いているが、ハンネスさんの方は驚いている。


「……村に移動する途中ですから、このままここで話してもいられませんね。出発しましょう」

「そうでしたな」

「ありがとうございます、我々の村のために」


 このまま話していたら、村への到着が遅れてしまう。

 俺達はそれぞれ、またレオや馬に乗り出発しようとしたとこで、視線に気付いた……。



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