第163話 魔物を退治して後処理しました



「よし、レオ頼む!」

「ワフ!」


 俺の言葉に気合の入った声で鳴くと、レオはすぐさまトロルドに向かって走り出した。

 まだこちらに気付いてないトロルド……ここから見える数は……7体か。

 そのトロルドたちの真ん中に突撃したレオは、目で見えないくらいの速度で前足を振るい、鋭い牙で噛み付き、あっというまに4体を肉の塊に変えた。


「GYUGYU!?」

「GYUOWAAAA!」

「GYUUUUUU!」

「ガウ!」


 4体が倒された事でレオに気付いた残りのトロルドは、慌てて棍棒を振り回すが、その動きはレオと比べると格段に遅い。

 人ならざる叫び声をあげて棍棒を振り回すトロルドの攻撃を、レオは余裕が窺える動きで避けた。


「GYUWAAAAA!」

「GYU!」

「GYUWA!」


 レオが攻撃を避けながら、再び前足を振るう。

 その動きに、トロルド達は成すすべもなく切り刻まれて行った。

 ……オーク相手の時より、素早い動きに見えるな……確かあの時はまだ目で動きを追えたはずだ。

 レオが本気を出すとこうなるのか……シルバーフェンリルが恐れられる理由の一端が見えた気がした。

 まぁ、レオは人を襲ったりしないけどな。


「ワフゥ」

「お疲れ、レオ。ありがとうな」

「ワフワフ」


 トロルドを倒して俺の所に戻って来たレオの頭を撫でながら、礼を言う。

 撫でられて尻尾を振りながら、レオはどことなく自慢気だ……きっとトロルドを倒した事を誇ってるんだろう。

 これだけの事をほんの1分足らずでやってのけるんだから、それも当然か。


「しかし、今回は派手にやったんだな」

「ワフーワフワフ」


 レオがバラバラにしたトロルドの残骸を眺めながら呟く。

 それに対しレオは、食べられないからつい……と言ってるようだった。

 オークの時は食べられるから、真っ二つにしただけだったのか……。

 トロルドは食べる事が出来ないから、確実に倒したという事らしい。


「……倒したのは良いが、これ……どうしよう?」

「ワフ?」


 俺の視線の先には、バラバラになったトロルドの肉塊。

 当然、血も飛び散っていて十分スプラッタな状況になっている。

 グロ耐性が無かったら、気分が悪くなること間違いなしだ。

 今更だが、ホラーは苦手でもこういう事は何とか大丈夫だ……オークが倒されるのを見たりと、多少慣れて来てるのかもしれない。。

 得意というわけでも、平気というわけでもないけどな。

 大丈夫とは言ってもさすがに気分の良いものじゃないしな……。


「このままだと、腐ったりするから……放っておけないよな……焼くか?」

「ワフ?」


 俺の言葉に、レオは出番? とばかりに口を開ける。

 トロルドは巨体だから、バラバラになったとはいえ7体分……それは結構な量がある。

 森が近いから、一気に燃やそうと思ったら延焼が怖いな。


「……焼くのは止めよう……素人が適当に焼いたら大変な事になりそうだ」

「ワフゥ」


 魔法が使いたかったのか、レオがちょっと残念そうだ。

 しかしこのトロルド、どうした物か……。

 このまま放っておくと、腐ってしまうだろうし、そうしたら疫病のような病が発生するかもしれない。

 トロルドの肉に他の魔物が寄って来る可能性も考えられる。

 街道から多少離れてるが、こんなところに魔物が群がるのは、あまり良い事にはならなさそうだ。


「……埋めるのが一番良いかな?」

「……ワフ」


 レオが面倒だとばかりに声を漏らすが、焼けないから仕方ない。

 大量の肉を持ち運んで別の場所に捨てる、というのも現実的じゃないしな……埋めるのが一番簡単な方法だろうと思う。

 土の中に埋めてしまえば、肥料のようになってくれるだろう。


「あ、でも……スコップとかは……当然無いよな……」

「ワフ! ワフワフ」


 地面を足でつつくと、少し硬めの感触だ。

 この地面をスコップ等の道具も無しに、素手で掘るのはちょっと出来そうにない。

 どうしようかと考えた時、レオが何かを思いついたように吠えた。


「どうした、レオ?」

「ワフワフー。ワウワウ」

「ふむ、出来るのか?」

「ワフ」


 レオは足をせわしなく動かして、思いついた事を俺に伝えようとする。

 えーと、魔法で穴を掘る? かな。

 出来るのかどうかわからないが、それを聞いたレオは自信があるように頷いた。


「それなら、済まないが任せるよ。……頼り切りでごめんな」

「ワフ!」


 トロルドを倒す事から、その後の処理まで全てレオ任せになった事を謝る。

 ……俺も何か出来る事があったら良いんだけどな。

 そんな俺に、レオは気にするなとばかりに声を上げて、トロルドに近付いて行った。


「ウー……ガウ!」

「おぉ」


 トロルドに近付いたレオは、顔を別の方に向けて力を溜めるようにした後、力強く吠える。

 その瞬間、ドォン! という音と共に、レオが顔を向けてる方向の地面が破裂した。


「爆発の魔法……か?」

「ワフー」


 その爆発で巻き上がった土埃が収まるのを呆然と眺めていると、レオが一仕事終えたと言わんばかりの表情で鳴きながら戻って来た。


「こんな事も出来たんだな……凄いな、レオは」

「ワフワフ」


 レオの魔法に驚きながら、爆発で地面に大きな穴を開けてくれたレオを撫でる。

 尻尾を振りながら喜んでるな。

 しばらく撫でた後、レオが開けた穴に近付いて様子を窺う。


「結構大きいな」

「ワフ」


 頑張った! という表情のレオ。

 開けてくれた穴は、人間が数人潜っても余裕がある大きな穴だった。

 これなら、トロルドを埋める事が出来そうだ。

 ……幸いなのか、トロルドはバラバラで穴に入れやすい状態だしな。


「ふぅ、結構な重労働だったな……それに、汚れも付いたか」


 しばらく後、トロルドの塊を全て穴に放り込んで一息吐く。

 まだレオが切り刻んで時間が経ってないからか、トロルドの肉からは血が滴っているのもあって、結構手が汚れてしまった。

 それに、いくらバラバラとは言っても、元々巨体なだけあってそれぞれが結構な重さだったからな。

 さすがにこれまでレオには任せられないと、一人で頑張ったんだが……手伝ってもらうべきだったかもしれない。


「よし、これで綺麗になった。あとは……レオ、何度も済まないが……頼めるか?」

「ワフワフ!」


 水筒の水を使って、手に着いた血を洗い流して綺麗にした後、レオに頼んで穴を埋めてもらう。

 穴が大きいから、俺一人で埋めてたら日が暮れてしまうからな。



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