第162話 途中で魔物を発見しました



「ありがとうな、レオ。これで少しは皆に怖がられる事も少なくなるとはずだ!」

「ワフー」


 レオにとっても人懐っこい性格から、人から恐れられるのは本意じゃないだろうしな。

 怖がられる事が多いとはいえ、俺としてもレオが誰かに恐怖されるのを見て気持ちの良いものじゃない。

 ……こんなに可愛いのにな……。


「ワフワフ」

「ん? どうしたレオ?」

「ワフーワフ。ワウゥ」


 それからしばらく、街道を辿るように移動してそろそろ道を離れる場所に来そうな頃、レオが速度を落としで何かを俺に伝えようとして鳴く。


「んー、ここなら良いか」


 街道から少し離れた場所、木が数本立っていてレオを道行く人から隠せる場所で止まる。


「一体どうしたんだ?」

「ワフ。ワーフワフ」

「成る程……そんな時間か……。もう少し進みたかったけど……仕方ないな」

 

 木陰でレオの背中から降りて、何を伝えようとしているのかを聞く。

 どうやらレオは、走り続けてお腹が減ったみたいだ。

 空を見ると、随分日が高くなっているな……懐中時計でも……ちょうど昼時か。

 お腹がすくのも当然だな。


「それじゃ、ここで昼にするか」

「ワフ! ワフ!」


 昼を食べる事を決めると、レオは尻尾を振って喜び始めた。

 よっぽどお腹がすいてるようだ……屋敷からラクトス、ラクトスからここまでと、走りっぱなしだからな。

 レオを労うように撫でながら、括り付けていた荷物を降ろす。


「えーと、食料は……と」

「ワフ?」


 唐草模様の風呂敷をほどいて、セバスチャンさんが用意してくれた食料を見る。

 レオも、となりで覗き込むようにしている。

 昼にどんな物が出て来るのか期待してるようだな……携帯食とかそういう物だろうから、あまり期待しない方が良いと思うんだが……。

 携帯食とかって、美味しいイメージが無いからな。


「お、これだな。……ふむ、セバスチャンさんには帰ったらお礼を言わないと」

「ワフ、ワフ」


 布に包まれた物をいくつか取り出し、中身を出す。

 パンと、結構な量のソーセージだ。

 それと、皮の水筒に入ったスープと水……か。

 これだけあれば、ちゃんとした食事が出来そうだ。

 携帯食じゃ無かったみたいだ……荷物の中には、干し肉のような物もあったから、移動が長引いたりもしもの時の携帯食も入っているんだろう。


「レオ、木を集めるから手伝ってくれ」

「ワフ」


 レオと一緒に、数本の木の周囲に落ちている小枝を集める。

 パンはまだしも、ソーセージはちょっと温めたいからな……鍋が無いから、スープは温められないが……。


「こんなもので良いだろう。レオ、すまないけど、よろしく頼む」

「ワフ。……ウー……ガウ!」


 小枝をある程度集め、それを焚き火の形にする。

 温めるだけだから、枝の量は多くない。

 レオに頼んで、火を付けてもらい、ソーセージに枝を刺して近くに並べる。

 ……今度セバスチャンさんに魔法を教えてもらう時は、焚き火に火を付けられるような魔法を教えてもらおう。

 ソーセージが温まるのを、楽しそうにしながら待ってるレオを見ながらそんな事を考える。


「よし、そろそろ良いだろう。食べて良いぞ」

「ワフ!」


 俺が許可を出すと、すぐに火の近くにあったソーセージを口で取り、食べ始めるレオ。

 俺もレオに遅れないようパンを食べる。

 パンには味付けや調理された野菜や肉が挟んであって、屋敷で食べる物と遜色のない味だ。


「これはヘレーナさんが用意してくれたのかもな。帰ったらお礼を言わないと」

「ワフワフ」


 パンを食べながら呟く俺に、レオも頷きながらソーセージを食べている。

 尻尾がブンブン振られてるから、さぞかし美味しいんだろう。

 木の陰に止まってから1時間程、スープとパン、ソーセージを食べた俺とレオは、荷物をまとめて準備を整える。

 ……レオは、まだ少し食べ足りないみたいだったが……移動中だから満腹になるまで食べるのはちょっとな……。

 屋敷に帰ったら、ヘレーナさんに頼んでたらふく食べさせてやろうと考えながら、土を掛けて焚き火を消した。

 火がしっかり消えている事を確認した後、レオに乗り込み出発。


「おっと、そこを左だ……街道から離れて行くぞ」

「ワフ」


 少し進んだあたりで、地図に書いてある通り街道を外れて、ランジ村への道へ向かう。

 日本とは違って、小さな村には大きな街道は繋がってないみたいだ。

 道路が舗装される事の無い世界だから、仕方ない事だな。


「結構、こっちは森に近いんだな……」


 街道から少し北に行ったあたりで、そこからまた東に向かって移動する。

 さらに北には森があり、フェンリルの森程じゃないが鬱蒼と生い茂った木々が見える。

 地図には詳細な地理が書き込まれてあるから、森が近い事はわかっていたが、ここまで近いとは思わなかった。

 ランジ村が森の近くにあるのなら、林業とかをやってる村なのかもしれないな。


「ワフ!?」

「どうした、レオ?」


 レオにしがみつきながら、走る速度に慣れて森の木々を眺める余裕が出来て来た辺りで、急に速度を落として止まった。

 どうしたんだろうか?


「ウゥゥゥゥゥ……」


 止まってすぐうなり始めるレオ。

 この反応は……フェンリルの森で見た事があるな……あの時はオークが出て来た時だったか……。


「ウゥゥゥゥ……ワウワウ! ガウガウ!」

「そうか、わかった」


 危険を知らせるレオの鳴き声、内容はトロルドが数体前方にいるようだ。


「ウゥゥゥゥゥ」


 警戒して唸り続けるレオは、俺を乗せたままゆっくりと歩いて、トロルドがいる場所へと近づいて行く。


「レオ、いつもの事になってしまうけど、任せても良いか?」

「ワフ!」


 トロルドの対処をレオに頼むと、任せろとばかりに頷く。

 そのまま少し先に進むと、俺もトロルドを確認出来た。


「あれか……森にいた奴と一緒だな」


 棍棒を持った、3メートルを越えるほどの巨体。

 俺が見た時は、既にレオが倒していたから、生きて立っているのを見るのは初めてだ。

 シェリーをいたぶってたやつらとは違うんだろうが、その姿に俺は少しだけ敵対心を覚えた。


「いつも任せっきりで済まないな、レオ」

「ワフー」


 レオの気にするなとでも言うような声を聞きながら、トロルドが見える位置で止まってくれたレオの背中から降りる。

 俺が乗ったままだと、思いっきり戦えないかもしれないからな。

 邪魔になりそうな荷物もレオからほどいて俺が持つ。

 トロルドは、この場所にいるだけで、まだ俺達に気付いていないようだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る