第161話 ラクトスから出発しました



「妨害に関しては、屋敷の護衛を何人か連れて来ます。ある程度の相手ならそれで十分でしょう」

「そうですな。公爵家で訓練された方々なら安心です。それに、公爵家と言えば現当主のエッケンハルト様ですから、当然その練度は信頼をおけます」


 エッケンハルトさんは剣の達人らしいから、その人が訓練をした人達ならそこらのゴロツキに負けるなんてことはあり得ないだろう。

 フィリップさんやヨハンナさん、ニコラさん等、俺と行動を共にした護衛さんは多くないけど、どの人もしっかりとした動きをしてるように思う……実際戦った所は見た事が無いが、物腰がな。


「買い占め対策ですが……どのような事がよろしいかな?」


 珍しく、セバスチャンさんがカレスさんに意見を求めている。

 色んな知識があって頼りになるセバスチャンさんだが、商売に関しては万能ではないようだ。


「……そうですな……買える数に制限を設ける、というのはどうでしょう? 聞いた限りでは、疫病に対してラモギの数はそれほど必要が無いとの事。であれば、その事を説明し、1人で買える数を1つか2つに制限するのです」

「成る程……それなら買い占める事が出来ませんな。ですが、家族の分も含めて複数欲しい人にはどう対処するのですか?」

「その場合は、手間ですが事情を聴き、店の店員に確認を取らせます」


 カレスさんの提案で、色々な対策が決まって行く。

 そうして、例の店に関する対策を色々と考えた。

 1人に対する販売数は最大2つ、家族等がいてそれ以上必要な場合は店員が確認をする。

 例の店が複数の人を使って、数を買うかもしれないとの意見も出たが、それはそれで例の店に関する情報となる。

 一応、カレスさん達には無理をしない範囲で制限を行うと決めた。

 もし難癖付けて、暴力的な手段に出て来たら危ないからな……その時は屋敷の護衛さん達の出番だろうけど。


「それじゃ、これが俺が屋敷を離れている間の薬草になります」

「はい、承りました。しばらくはニックをこの店で集中的に働かせる事にします」

「お願いします。屋敷に戻る際には連絡しますので」

「畏まりました」


 対策が決まって、持って来ていた荷物の中から数日分の薬草をカレスさんに渡す。

 これでしばらくはニックが屋敷に来なくても良くなる。

 カレスさんの店でしっかり働いて、接客を学んで欲しいと思う。

 用件を終え、俺とセバスチャンさんはカレスさんの店を離れる。

 ランジ村に行くためには、この街の東から出て行かなくてはならないので、東門へと足を向けた。


「タクミ様、こちらがランジ村までの地図になります」

「……ありがとうございます」


 セバスチャンさんから、ランジ村に行く道筋は聞いていたが、念のためと地図を渡された。

 運が良いのか何なのか、ちょうど街中で売っていた物をセバスチャンさんが目ざとく見つけ、今買って来た物のようだ。


「聞いていた通り、ほとんど一本道なんですね」

「そうです。途中、街道を逸れる事がありますが、複雑な道ではありません」


 1枚の用紙になっている地図を広げて中を見ると、ラクトスの街周辺の詳しい地理が書き込んであった。

 ランジ村は、ラクトスから東へほぼ真っ直ぐ進んだ場所にある。

 セバスチャンさんの言う通り、街道を逸れて少し北へ行く事があるので、そこさえ間違えなければほぼ迷いようがないくらいだ。


「それでは、タクミ様。お気を付けて。お早いお帰りをお待ちしております」

「セバスチャンさんも、気を付けて調査して下さい」

「はい、心得ております」


 東門の近くで、例の店へ探りを入れると言うセバスチャンさんと別れる事になる。

 俺に深々と礼をしたセバスチャンさんには、出来るだけ気を付けて欲しい。

 例の店の全容がまだわからないから、セバスチャンさんが公爵家に仕えてる人間で、色々調べてる事が知れたら、何をして来るかわからないからな。


「それと、タクミ様。魔法をお教えする際に伝えた事、忘れないで下さい。タクミ様にもしもの事があればクレアお嬢様も……ライラも悲しみますからな」

「悲しませる気は無いので、大丈夫だとは思いますが……まぁ、色々考えてどうしても、という時は逃げる事にしますよ」


 セバスチャンさんの別れ際の忠告……もしどうしても倒せない相手なら、逃げる事も考える。

 命があれば何とかなるからな。

 後半の、楽しそうに笑いながら言ったセバスチャンさんの言葉は適当にスルーしておく。


「それじゃ、行くぞ。レオ!」

「ワフ!」


 東門を出てすぐ、レオの背中に乗り、走り出す。


「カレスさんの店で少し遅れたから、少しだけ早く頼む!」

「ワウワウ!」


 1時間も遅れてはいないが、ラモギを出来るだけ早くランジ村に届けてあげたい。

 レオに頼んでいつもより少し速度を上げて走ってもらう。

 俺は荷物をクッションに、振り落とされないようしがみつく。

 気合の入ったレオの返事と共に、走り出したスピードは、いつもの倍近くあるように感じた。

 ……ちょっと早すぎじゃない?

 これでも振り落とされない自分にも驚くが……鍛錬のおかげで多少体が鍛えられてるからかもしれないな。


「……レオ、もう少し街道から離れた場所を走ってくれ!」

「ワフ?」

「すれ違う人達が驚いてるからな!」

「ワフワフ」


 レオにしがみついたまま、俺は街道から離れるように叫んで伝える。

 凄い速さで移動してるから、叫ばないとレオに聞こえそうにないからな……レオの耳の良さなら聞こえるのかもしれないが。

 レオは最初どうしてそんな事をするのか疑問に感じたようだが、俺の説明で納得してくれて街道から少し離れた場所に移動する。


 ラクトスから出発して約1時間、ラクトスへ向かう人達も、ラクトスから離れる人達も、総じてすごいスピードで走るレオに驚いていた。

 大きな体のシルバーフェンリルが、街道を疾走してたら誰でも驚くから仕方ないよな。

 中には、馬が暴れ出したり、持っていた荷物を放り投げて逃げ出そうとする人までいたように見えたから、レオの姿はよっぽど怖かったんだろうと思う。

 事情を知らない人から見たら、シルバーフェンリルがいる事は恐怖の対象なのかもしれない。

 まぁ、シルバーフェンリルとわかった人が多いかどうかわからないが、それでも大きな魔物に見えるからな……。



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