第160話 カレスさんにラモギ値下げを伝えました




 公爵家直轄の店だから、方針を理解していないといけない事は確かだろう。

 セバスチャンさんの言う通り、カレスさんが貧しい人達にも何かを……と考えているのであれば、今回の値下げにもすぐ納得してくれるはずだ。

 重要な事だから、書面だけで知らされて命令される感じだと納得しがたいというのも理解出来る。

 やっぱり、顔を合わせて話し合わないと色々伝わらないよな。


「では、私はこれで……」

「あぁ、カレスさんの店には俺もついて行きますよ。俺に無関係な事じゃありませんからね」


 ラクトスの街に着き、いつも馬車を預ける広場で俺と別れて、カレスさんの店に行こうとしたセバスチャンさんに声を掛ける。


「……ですが、あまり時間が無いのでは?」

「街を出たら、レオに少し頑張ってもらいますから」

「ワフ」


 セバスチャンさんにだけ全て任せると言うのも、気が引ける。

 販売に関してはほとんどお任せなのだが、やっぱり出来る事くらいはしたいからな。

 ランジ村へは、レオにしがみついてちょっと早めに走ってもらえば時間の遅れも取り戻せるだろうから。

 レオが頷いてるのを見て、セバスチャンさんは俺と一緒にカレスさんの店に行く事を決めてくれた。


「おぉ、これはタクミ様、ようこそお越し下さいました。セバスチャン殿も一緒で……本日はどうなされましたか?」

「カレス、本日は重要な案件の相談に参りました」


 セバスチャンさんと一緒に、レオを連れてカレスさんの店へ。

 まだ時間が早いためか、店の準備はされておらず、店内には他の店員数人とカレスさんだけだった。

 ……ニックもまだいないな……これから出勤か。


「相談とは……どのような事ですかな?」

「ラモギの販売に関して、少々値段を下げようと思いましてな」

「ラモギの値段を、ですか? ですが、ラモギを含めた薬草は全て順調に売れております。値段を下げてままで客を呼び込まなくてもよろしいかと思いますが……」


 セバスチャンから要件を聞いたカレスさんは、その内容に難色を示す。

 確かにカレスさんからしたら、順調に売れている物の値下げをする意味はあまり理解出来ない事だろう。

 特別な事情が無い限り、売れているのに値段を下げるなんて事は、商売として悪手になるだろうからな……商人として当然の反応だ。

 それに、ラモギ自体も1日の販売量が決まっていて、いつも品薄なはずだから、尚更値下げする意味は無いと思うだろう。


「この街……いえ、公爵家領内で流行している疫病の対策ですな。それと、例の店への牽制の意味もあります」

「疫病対策と牽制ですか?」


 セバスシャンさんが、カレスさんにラモギの値下げをする意味と、効果を説明する。

 相変わらず、説明となると途端に表情が輝き出すセバスチャンさん。

 心なしか、その目も朝日を反射していつもより輝いてる気がするな……。


「ふむ……成る程。公爵家の方針と併せて考えると、有効な手立てだと思われますね。しかし……このことはタクミ様も了承済みなのですか?」

「ええ。俺も、セバスチャンさんの言うように、貧しい人達にもラモギが行き渡る機会が増えればと思います」

「タクミ様は、そのためにラモギを作る報酬も低くすると言って下さいました」

「なんと! 報酬は多めによこせと言う薬師が多い中、タクミ様はそのような事を……わかりました。公爵家やタクミ様がそのようにお考えなのであれば、このカレス、異論はございません。……少々期間が終わった後、通常価格に戻した時に反発が来そうですが……」

「あぁ、それに関しては確かにそうですね……」


 カレスさんが言うのは、ラモギの値下げが終わった時の事だろう。

 客というのは、値下げした時に群がるように買い求め、値下げが終わって通常価格に戻るとあまり買わなくなる。

 一度値下げした物は、元の価格に戻すのに苦労するんだよなぁ……値下げ幅が大きければ特にだ。


「値下げした事による市場への影響は、それほど考えなくても良いでしょう。現状、ラモギが出回っていないので、影響は少ないはずです」

「例の店が買い占めてるから、ですね」

「はい。例の店は買い占めたラモギを含めた薬や薬草を、混ぜ物をしたりとかさ増しをして販売しております。この状況では、ラモギの値段を下げたところで影響は少ないでしょう。……実物が少ないですからね。値段を戻した時の対応は、私が責任を持って承ります」

「すみません、面倒をおかけしてしまって」

「いいえ、良いのですよ。貧しい者達への販売に関しては、目からうろこの思いでした。利益だけを求める商人は長続きしませんからな。商人として公爵家や領民へ貢献できるのであれば、この程度苦労とも思いませんよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


 値段がもとに戻った時も、カレスさんなら何か対策をしてくれるだろう。

 それに、ラモギ自体は一般的で普通に買われてる薬草のはずだから、売れなくなるという事もあまりないと思う。

 カレスさんに任せておけば大丈夫だろうな。


「それでカレス、値段を下げる事が決まったのは良いのですが……」

「例の店がどう動くか……ですな?」

「ええ。ここは公爵家の店という事は広く知られているはずですが、もしかすると例の店から何かしら動きがあるかもしれません」

「妨害も考えられますし、他の店と同じように買い占めに来る可能性もありますなぁ」


 そうか、そう言う事も考えておかないといけないよな。

 元々、街中の薬を買い占める資金力があるんだから、値段を下げたらこれ幸いと例の店に関係する人が買い占めに来るかもしれない。

 それに、ニックは違うだろうが、同じように店先や店内で暴れて営業を妨害して来る可能性というのもある。

 そこまでの事をしてくる相手なのか、俺には判断がつかないが……卑怯な商売をしている相手だ、色々と考えて対策をしておくのは悪い事じゃないと思う。

 どんな対策を考えるのか、セバスチャンさんの言葉を待った。


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