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第158話 セバスチャンさんが楽しそうでした
第158話 セバスチャンさんが楽しそうでした
「おはようございます。ティルラちゃんも、ミリナちゃんも……レオもおはよう」
何故か動かない体をそのままにして、セバスチャンさんやティルラちゃんとミリナちゃん、レオに挨拶をする。
体が動かないから見えないが、ティルラちゃん達はもう起きていて、元気良さそうに挨拶をして来たから、よく眠れたようだな。
……しかし、何で体が動かないんだろう……?
「しかしタクミ様……どうやら本当に女性に囲まれるのがお好きなようですな」
「セバスチャンさん……何を言ってるんですか……そんなわけ……」
セバスチャンさんがおかしな事を言って来たので、否定しようと声を出してる途中で止める。
なんだか良い匂いがするような……。
俺の体からはこんな匂いが出るはずがないんだが……そう思いながら、動かない体をそのままに視線だけを動かして左右を見る。
「……クレアさん!? ライラさん!?」
「ん……」
「……ふぁ」
「……昨夜は……随分とお楽しみだったようで……」
左右を見た視線の先にいたのは、右にクレアさん、左にライラさんだ。
二人共、俺の体に抱き着いている。
……だから体が動かなかったのか……良い匂いの正体もこれか……なんて納得してる場合じゃない!
女性特有の柔らかさとか、その他色々な部分がくっ付いてて色々と色々な感じで色々とヤバイ!
「セバスチャンさん! これは違うんです!」
「何が違うのですかな?」
「二人と同じベッドで寝た事は確かですが……寝る時はこんなにくっ付いていなかったはずなんです! 決して、決しておかしなことはしてませんから!」
「……おかしな事とは……一体どのような事ですかな?」
「いえその……」
セバスチャンさんに、変な誤解をされないように弁明してる時、ふと気付いた。
……セバスチャンさんの顔が、ニヤニヤとこの状況を楽しむように笑っている事を。
「……セバスチャンさん……わかってて言ってますね?」
「何の事か……私には寡聞にして存じません」
そう言いながらも、セバスチャンさんはニヤニヤを止めない。
完全に今の状況を楽しんでるようだ……この悪趣味執事め!
「ん……セバスチャン?」
「……ふぁ……何かあったのえすか?」
俺とセバスチャンさんが話してる声で、クレアさんとライラさんが起きたようだ。
二人とも、いつもでは出さないようなぼんやりした声を出している。
特にライラさんは、少し呂律がおぼつかないようだ。
「……今だ!」
「おぉ、素早い動きですな。鍛錬の成果が出てるようで何よりでございます」
二人が起きた事で、俺の腕に抱き着いていた二人の拘束が緩んだ。
その隙に体を素早く動かし、何とか二人の拘束から逃れてベッドの隅に移動する。
セバスチャンさんが感心するように言っているが……この状況を楽しんでるのは間違いない。
主人であるクレアさんが混じってる事は、もはや関係無いようだ……それで本当に良いのか、執事というのは?
「……朝ですか。おはようございます、タクミさん」
「……おはようございます……おや? 寝る前と場所が違いますね」
「……おはようございます」
むくりと体を起こして、二人が挨拶をして来る。
ライラさんは、俺のいる位置が寝る時と違う事に疑問を感じてるようだけど、それはあまり気にしないで欲しい。
「タクミさんの寝相はあまり良くないのですかね?」
「そのようですね。ベッドから落ちる事は無かったようですが」
「ほっほっほ」
「……それで良いです」
俺がベッドの端にいるのは、二人から離れるためなんだが……それに気づかず、クレアさん達は俺の寝相が悪いと考えたようだ。
セバスチャンさんの笑い声に、反論する気も失せた……。
「では私達は身支度を整えて参りますね。また食堂で」
「はい。俺も支度を整えたら食堂に行きます」
朝日の差す部屋で、寝起きのクレアさんは恥ずかしそうにしながら部屋を出て行った。
やっぱり女性は、寝起きすぐの姿を見られるのは恥ずかしいものなのかもしれない。
クレアさんに続いて、ライラさんも部屋からいなくなり、ここにいるのはミリナちゃんとティルラちゃんの二人だ。
セバスチャンさんは、ひとしきり俺をからかって遊んだ後、何やら忙しそうに出て行った……忙しいならわざわざここまで来なくても……と思うが、忙しい合間の楽しみなのかもしれない。
……いささか悪趣味が過ぎると思うけどな。
「……ミリナちゃんは朝の支度をしなくていいの?」
「しないといけないのですが……中々ここから離れがたいのです……」
「レオ様は特別にフカフカですからね。気持ちはわかります!」
寝る前から今まで、ずっとレオに抱き着いたままのミリナちゃんとティルラちゃん。
レオの毛に包まれていると、柔らかい毛布にくるまっている時よりも気持ち良いからな……。
起きてすぐ離れたくないと思うのも無理はないのかもしれない。
「さて、朝の支度を……今日からランジ村へ行くんだったな……そっちの準備もしておくか」
「ワフゥ」
少し経って、名残惜しそうにレオから離れたミリナちゃん達を部屋から見送り、朝の支度を始める。
ランジ村に行くのは数日の予定だから、その分の着替えなんかを持って行かないといけない。
ずっと同じ服というのはあんまりね……。
あくびをしているレオを見ながら、荷物をまとめて支度を済ませる。
「ワフゥ、ワフゥ」
「あんまり寝られなかったのか?」
支度が終わっても、まだ何度もあくびをしているレオに問いかける。
昨夜はずっとミリナちゃん達二人に抱き着かれたままだったから、寝にくかったのかもしれない。
俺は薬草のおかげで、緊張していてもしっかり寝れたので、すっきりしている……レオにもこっそり薬草を分けてあげれば良かったかもしれない。
「ワフワフ。ワフー」
「……何だって?」
ベッドの上がどうなるのか気になってあまり寝れなかった……だって?
どうやらレオは、クレアさんとライラさんに挟まれた俺がどうなるのか、気になったせいで熟睡出来なかったらしい。
ミリナちゃん達に抱き着かれた事が原因じゃ無かったみたいだが、何故そんなにもレオは俺の事を気にしていたのか……?
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