第157話 皆で一緒に寝ました




「……何故、お二人はベッドで?」

「……皆が皆レオ様にくっ付いて寝るのは……レオ様に迷惑が掛かってしまうので……」

「あ……私は隅で構いませんので……」


 問題はクレアさんとライラさんだ。

 二人が指定した場所は、俺がいつも寝ているベッド。

 部屋の広さに見合うベッドは十分な大きさがあるから、3人くらいなら並んで寝ても、余程寝相が悪くない限り体が触れ合う事は無いだろう……。

 けど、同じベッドで女性が二人も寝ているという状況は精神衛生上、非常に良くないと思うんだ。

 二人共、遠慮がちに言ってるけど、考えを変える気が無さそうな気配もあるし……。


「姉様はタクミさんと寝るんですか?」

「そうよ、他に場所が無さそうだしね」


 ティルラちゃんがレオに抱き着きながら無邪気に聞いて、クレアさんはそれに何でもない事のように答えている。

 クレアさん……貴族のお嬢様が、男と一緒のベッドに入るのは良いのですか?


「ライラもそうよね?」

「……私は隅で十分です」

「二人とも、ベッド以外で寝るという考えは無いですね……」


 クレアさんい問いかけられたライラさんも、隅の方でと遠慮をしている様子ではあるが、ベッドで寝る以外は考えてない様子だ。


「……はぁ……それじゃあ二人はベッドで寝て下さい。俺はそこらへんで適当に寝ますので。シェリー、おいで」

「キャゥ!」


 シェリーを呼んで、抱き上げながら部屋の隅へ移動する。

 俺は男だから、シェリーがいれば十分に暖かく寝られるだろう。

 女性を床で寝させるわけにもいかないから、ベッドは好きに使ったらいいと思う。


「それでは意味が無いのです!」

「タクミ様が床で寝ると言うのであれば、私も床で寝ます!」


 床へと座る俺に、二人がすごい剣幕で叫んだ。


「へ? いや、年頃の女性が男と同じベッドで寝るのはどうかと思うんですが……」

「今日だけは特別なのです!」

「タクミ様もベッドで寝て下さい!」


 そう言って二人は、シェリーを抱いていた俺の腕を両側から掴み、ベッドまで連行された。

 えっと……何で俺は二人にベッドで寝る事を強制されてるんだろう……?


「タクミさんが中央で、私が奥、ライラが手前。これで良いわね?」

「はい、よろしいかと思われます」

「いや、俺の意見は……?」

「ワフゥ」


 クレアさんとライラさんに、寝る位置を強引に決められた。

 レオが溜め息を吐いている気がするが、俺はそれどころじゃない。

 俺は男だから、美人二人に囲まれて寝る事自体は嫌じゃない。

 だけど、それで安眠できるかというと……緊張してちゃんと寝られそうに無いな……。


「レオ様、邪魔じゃないですか?」

「ワフワフ」

「大丈夫そうですね、ティルラお嬢様」


 ティルラちゃんとミリナちゃんは、レオに両側から抱き着いて寝る姿勢だ。

 あのフカフカな毛を抱き枕にして寝られるなら、ぐっすりと安眠出来そうだなぁ。

 ……俺とは違って、ゆっくりと寝られそうな二人を見る。


「タクミさん、ティルラ達はレオ様に任せていれば安心ですよ」

「タクミ様がしっかり寝られるかを見るのも、お世話係としての役目です」


 クレアさんの言う通り、レオに任せていればあの二人は大丈夫なのは良いんだけど……俺が大丈夫じゃ無さそうなんだよなぁ……明日はランジ村への出発なのに、寝不足はいただけない……どうしよう。

 それとライラさん、お世話係だからとそこまでしなくても良いと思うんですけどね?


「えーと、二人共ちょっと落ち着いてください……すみませんが、少し準備があるので……」

「どうかされたんですか?」

「何か、寝る前の準備でも?」


 クレアさんとライラさんに断って、少しだけ離れる。

 首を傾げて不思議そうな二人を置いて、部屋にある机まで移動し、そこにある小さな袋から薬草を取り出した。


「よし、安眠薬草が残ってるな……これを……ゴクッ」


 皆に聞こえないよう小さく呟いて、薬草を食べる。

 森の探索でお世話になった、寝付きが良くなり熟睡出来るこの薬草があれば、二人と一緒に寝ても何とか寝られるだろうと思う。

 大事な用事がある明日に、疲れを残すわけにはいかないからな。


「タクミさん?」

「タクミ様、どうされたのですか?」

「ははは、何でもないんです。気にしないで下さい」


 俺の様子が気になったのか、二人共何をしてるのか聞いて来る。

 緊張して寝られそうにないから、薬草に頼ったとは言いづらいため、なんとか笑って誤魔化す事にした。

 薬草を食べて、眠気を感じ始めたところで、ベッドへと寝転がる。

 当然、クレアさんとライラさんは宣言通り、俺の両側に陣取って横になった。

 クレアさんはともかく、ライラさんは隅でと言ってたはずなんだけど……。

 ……近くで横になってる二人を見ると、妙に心臓が騒ぐが……何とか落ち着かせる事に集中した。


「タクミさん、良い夢が見られると良いですね。ふふふ」

「タクミ様、ゆっくりお休み下さいませ」

「……はい」


 右を向いても左を向いても、落ち着く事が出来そうになかったので、仰向けの体制で下手に動かないよう体を緊張させつつ、目を閉じた。

 両側から聞こえる二人の囁き声に、また心臓が跳ねた気がしたが、薬草の効果のおかげでそのまま眠りに就く事が出来た。

 ……こんな状態で、薬草があっても疲れが取れるのだろうか……?


――――――――――――――――――――


「タクミ様は、中々楽しんだようですな」

「そうですか? 寝る前は場所決めに揉めてたようですけど……」

「皆で一緒に寝られて楽しかったですね!」

「ワフワフー」


 何やら話声が聞こえる……。

 女の子の声は、ミリナちゃんとティルラちゃんかな? ワフワフ言ってるのはレオだろう……お腹がすいたのか?

 でも、男性の声が聞こえるのはどうしてだろう?

 ……確か……昨日はティルラちゃんだけじゃなく、他の女性陣も押しかけて来て、皆で一緒に部屋で寝たんだったっけな……俺の他に男性はいなかったはずだが……。


「んー」

「おや、起きましたか?」

「おはようございます、師匠」

「タクミさん、おはようございます」

「ワフ」


 意識がはっきりして来て、目を開けると同時に声が出た。

 俺の声に反応して、男性が覗き込んで声を掛けて来た。

 この男性は……セバスチャンさん?

 目を開けて視界に入って来たのはセバスチャンさん……どうやらさっき聞こえた話し声はセバスチャンさんだったようだ。



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