第156話 出発前夜は皆で部屋に集まりました




「タクミ様、夕食の準備が整いました。食堂までお越し下さい」 

「わかりました、ありがとうございます」


 夕食に呼びに来てくれたゲルダさんに答えて、薬草作りを終える。

 ランジ村のラモギも9割程度は用意出来たから、今日はこれで十分かもしれないな。

 付き合わせてしまったライラさんに、感謝をしながら食堂へ向かい、夕食を取った。


「明日からはレオ様もタクミさんもいないんですね……」

「そうだね。まぁ数日はかかると思うよ」


 夕食後、寝る前の素振りをしながら、ティルラちゃんが寂しそうに呟いた。


「ちょっと寂しいです。……最近はずっとレオ様やタクミさんと一緒だったので」

「そうだね……」


 ランジ村までは予想だが、レオで1日程度かかる。

 往復で2日、向こうでラモギを受け渡したりして1日とみると、大体3日はかかる見込みだ。

 余裕を見て、4日か5日は見ておきたいかな……1日レオに乗って走るわけにもいかないと思うし。


「でもティルラちゃん、俺やレオがいないからと言って、鍛錬や勉強をさぼっちゃダメだよ?」

「さぼったりはしません! タクミさん達が帰って来たら驚くくらい頑張ります」

「うんうん、その意気だ。帰って来たら、俺に稽古を付けられるように頑張って」

「はい!」


 さすがに数日でそこまで上達する事はないだろうが、それでも成長の早いティルラちゃんだ、もしかしたら俺がいない間に出来る事が増えているかもしれない。

 男子3日会わざれば……だな。

 ……ティルラちゃんは女の子だけど……このくらいの年頃ならむしろ男子より女子の方が成長が早い事も多いから、油断は出来ない。


「……今日はタクミさんの部屋で、レオ様と一緒に寝ても良いですか?」

「ワフ?」

「んー……どうだろう……一応クレアさんに許可が取れたら、かな?」

「わかりました! 聞いて来ます!」


 俺やレオが屋敷から数日とはいえいなくなるのが、よっぽど寂しいのか、素振りを終えたティルラちゃんは俺の部屋で寝たいと言って来た。

 可愛い女の子のティルラちゃん相手に、俺が何かをすることは無いが、公爵令嬢であるティルラちゃんが男の部屋で寝るというのは、何か不都合があるかもしれないからな……俺が勝手に許可して良い事じゃないだろう。

 クレアさんなら、ティルラちゃんを説得してくれるかもしれないという期待を込めて、許可が取れたらという事にしておいた。

 すぐにクレアさんのいるであろう部屋まで、駆けて行くティルラちゃんを、首を傾げたレオと一緒に見送りながら、俺は楽観視していた。


「楽観していたんだけど……どうしてこうなったのか……?」

「タクミさん、どうかされましたか?」

「いえ、何でもありません……」


 風呂に入って後は寝るだけという状態で部屋に戻って来たら、クレアさん、ティルラちゃん、ライラさんにミリナちゃんまでが集まっていたのだ。

 皆、いつもの服では無く、ネグリジェ? のようなものを着ていたりとラフな格好をしているので、目のやりどころに困る状態だ。

 寝やすいためなんだろうけど……免疫の無い俺にとっては毒になりかねないぞ……。


「ワフゥ」

「レオ、仕方がないだろう……?」

「レオ様は何と言ったんですか?」

「……いや、何でもないんだよ……ははは」


 レオの溜め息混じりの言葉に返したのを、ミリナちゃんに聞かれたようだが、何とか笑って誤魔化した。


「あ、タクミさん。これ、セバスチャンからです。なんて書いてあるんですか?」

「……えっと……」


 クレアさんから、セバスチャンさんからの手紙を受け取り、書かれている事を読む。

 クレアさんは、中を見ていないため、内容は知らないようだ。

 えっと……「この屋敷のキレイどころを揃えました。後はご自由にお過ごし下さい。 追伸……タクミ様は女性に囲まれるのがお好みですかな?」 だって……。

 何を言ってるんだあの爺さんは……!


「タクミさん?」

「……いえ、何でもないです……薬草の事で伝言があったみたいですね……ははは」


 首を傾げてるクレアさんにそう言って誤魔化しながら、手紙を丸めて誰にも見られないように捨てておいた。

 セバスチャンさん……キレイどころというのは否定しませんが……俺が手あたり次第女性に手を出すと考えないで欲しいんですが……。

 きっとセバスチャンさんはわかっててやってるだろうな……今頃ほくそ笑んでそうだ……。

 しかし、仕えてる相手であるクレアさんやティルラちゃんも混じってるのに、それで良いんだろうか執事……と思わなくもない。

 セバスチャンさん流のジョーク何だろうが……今の状況を目の前にすると、笑えないよ……。


「明日から、しばらくタクミ様がこの屋敷を離れるので……きっと皆寂しいのですよ」

「ライラさん……だからと言ってこれはどうかと……」


 俺がワイワイしてる皆を見ながら戸惑っていると、ライラさんが気遣ってくれて声をかけてくれた。

 寂しいというのはわからないでもないが……年頃の女性陣が男の部屋を占拠……泊りに来ると言うのはどうかと……。


「もちろん、私もそうなのですが……今日はタクミ様の旅立ち前の見送り会として、大目に見てくれませんか?」

「いえ、まぁ、皆が良いのなら、良いんですけどね……」


 小声で呟いた声ははっきりと聞こえなかったが、ライラさんも思う所があるのかもしれない。

 とりあえず言われた通り、俺が遠くへ出かける見送りのために集まってくれたんだと納得しておいた……無理矢理に。


「それで、皆どこで寝るんですか?」

「私はここですね」

「私はレオ様と一緒が良いですー」

「……失礼かもしれませんが、よろしければここが良いです……」

「師匠、私もレオ様と一緒が……」

「キャゥ!」

「ワフワフ」


 複数の女性が同じ部屋で寝る事には納得したが、実際どこで寝るかが問題だ。

 皆に聞いてみると……ティルラちゃんとミリナちゃんは、レオと一緒に寝たいようで、今もくっ付いてモサモサの毛に包まれてる。

 懐いてるようで微笑ましいし、レオの毛に包まれていれば夜寒くなる事も無いだろう……シェリーもいるしな……うん、それは良いんだ……レオも嬉しそうだし……だけど……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る