第155話 ライラさんとゆっくりお茶を飲みました




「タクミさん、昼食後はどうなさるんですか?」

「また薬草を作る事に集中ですかね。まだ考えていた数を揃えられていないので」

「……無理はなさらないようにして下さいね」


 昼食を食べながら、クレアさんが心配そうに声をかけて来る。


「多分、大丈夫だと思います。限界がどれくらいかははっきりしていませんが……一応朝の早い時間は『雑草栽培』を、それから魔法の練習に切り替えて時間を稼ぎましたから」


 ギフトに使う力が何なのか判別はつかないが、自然回復するものであるのなら時間が経てば少しでも回復するはずだ。

 ライラさんのお茶休憩から魔法の練習、昼食と時間を空ける事で少しでも回復しているかもしれないからな。

 ……これで、眠る事でしか回復しないとかだったら的外れな考えになるんだろうが……。

 まぁ、倒れる程の事にはならないと思うから、大丈夫だろう……という希望的観測だ。


「そのあたりは、色々と研究の余地がありそうですな」


 今日は久しぶりに、俺達が昼食を取る食堂にセバスチャンさんが待機している。

 最近は例の店の件で忙しそうだったが、少しは時間が取れるようになったみたいだ……それだけ進展がないって事でもあるんだけどな。

 セバスチャンさんに今俺が考えたことを伝えると、考えながらそう答えてくれた。

 否定する材料も無いけど、肯定する事も出来ない、というところかな。


「倒れる程の無理はしませんから、安心して下さい」

「はい……もう目の前で倒れるタクミさんを見たくはありません。くれぐれも気を付けて下さいね」


 食後、笑って安心させるようにクレアさんに言って、また裏庭へ出る。

 ミリナちゃんは、使用人見習いのお勉強だ……頑張って美味しいお茶の淹れ方を覚えて欲しい。


「これからは、俺一人で薬草をまとめないとな」

「お手伝いしますよ」

「ライラさん、良いんですか?」


 薬草を栽培させているいつもの場所へ来ると、ミリナちゃんがいないから俺一人でまとめたりしないといけない事に気付く。

 だけど、一緒について来てくれていたライラさんが手伝いを申し出てくれた。

 お茶を淹れてもらったり、俺やティルラちゃんの様子を見守っててくれるのに、なんだか申し訳ない気がするけど……。


「もう少し、私達使用人に用を言いつけて良いんですよ?」

「……なんだか申し訳ない気がするんですよね」


 ライラさんからは、逆にもっと用を言いつけろと言われる。

 使用人、執事さんとかメイドさんとか、当然今まで使う事の無い生活だったから、何かの用をしてもらうのに慣れてない。

 でもライラさんがそう言うなら、次からはもう少し頼っても良いのかもしれないな。

 使用人さん達からすると、無理難題では無くちゃんとした用を任されるのは嬉しい事なのかもしれない。


「じゃあ、お願いします」

「はい」


 ライラさんに薬草の採取や種類ごとにまとめる役目を任せて、俺は『雑草栽培』を使う。

 ティルラちゃんは昼食後に勉強のため、裏庭にいない。

 日のあたる場所でシェリーと寝ているレオがいるだけだ。

 静かな裏庭で、俺とライラさんだけ動く音がしている。


「タクミ様……もうよろしいのでは?」

「……もう少し欲しいですね……ラクトスの街の分もありますし……ランジ村のラモギも作らないと……」


 日が傾き始めた頃、心配したライラさんに薬草作りを止められる。

 気付けば予定していた数よりも、多く作ってしまっていたようだ。

 俺がランジ村に行く数日、ラクトスの街に薬草を供給出来ないから出来るだけ多く用意しておきたいんだよな……。

 予定では8割程度だったが、ランジ村のラモギも出来るなら揃えてから出発したい。


「ですが……疲れが見えます。せめて少しでも休憩をなさって下さい」

「心配をかけてしまってますね……すみません。わかりました、休憩しましょう」


 俺の顔色を窺うライラさんの表情に根負けし、休憩する事にした。

 お茶の用意をしているライラさんは、どこか嬉しそうだ。

 昼食の後からずっとだったからな……ライラさんも疲れたのかもしれない……かくいう俺も、腰が少し痛い。

 ギフト使用での疲労は感じないのだが、地面に手を付いて薬草を栽培させたり、採取をしたり等々で畑作業のような感じだからな。


「どうぞ、少しでも疲れを癒して下さいね」

「んー……ありがとうございます。ライラさんも休んで下さい」

「いえ、私は……」

「ずっと手伝ってくれたおかげで、考えてたよりも早く作業が進みました。俺だけじゃなく、ライラさんにも疲れがあるでしょう? ほら、遠慮せずに」

「……わかりました……ふぅ」


 固まった体を伸ばしながら、お茶を淹れてくれたライラさんに礼を言って、椅子に座る。

 ずっと一緒に作業をしていたライラさんにも、疲労は当然あるだろう。

 俺は一度座った椅子から立ち上がり、ライラさんの背中を押して座らせる。

 渋々ながらも座ってくれたライラさんは、自分の淹れたお茶を飲んで溜め息を漏らす。

 やっぱり結構疲れてたみたいだな……ずっと休み無しで付き合わせてしまって、申し訳ない事をした。


「そう言えば……ライラさんとこうして、ゆっくりテーブルにつくのは初めてですね?」

「そうですね。私は屋敷のメイドでございますので……クレアお嬢様はもちろん、お世話をする方々と同じテーブルにつくという事は致しません」


 使用人として考えると、それが当然なのかもしれないな。

 俺はそういう事に慣れていないから、逆に同じ場所にいるのに立ったまま待機してるライラさん達が気になってしまう。

 とは言え、無理を言って同じテーブルにつくようにしてもらっても、ライラさん達の居心地が悪いかもしてないな……。


「それじゃあ、これからはたまにで良いので、こうして一緒にお茶を飲んでのんびりして下さい」

「……メイドとしてはお断りするべきなのでしょうけど……タクミ様がそれで良いと仰られるのであれば……」


 クレアさん達がいないところだとか、休憩する時間程度なら大丈夫だろう。

 俺は別に屋敷に世話になってるだけで、貴族でもなんでもないわけだしな。

 一般人と変わらない俺となら、ライラさんもそのうち慣れてくれるだろうと思う。

 そうして、しばらくの間ライラさんと休憩して談笑した。


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