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第133話 師匠と呼ばれてしまいました
第133話 師匠と呼ばれてしまいました
「タクミ様は、何をしたいのか悩んでいた私の悩みを解決してくれました。私はタクミ様から言われた事でやりたい事を見付けたのです」
「そう……なの?」
俺がさっきミリナちゃんに行った言葉で、今まで悩んでいた事は解決されたらしい。
薬の事を学ぼうと、やりたいと思える事が出来たからかもしれないな。
立派な大人とは言えないが、こんな俺の言葉が若者の指標になってくれるのであれば嬉しい。
いや、俺もまだ若いけどな。
「はい。これからはタクミ様……師匠の言葉を胸に、一生懸命薬の知識を学んで行こうと思います!」
「師匠って……そんな偉いもんじゃないよ? 薬の知識は俺も学んで行かないといけないんだし……」
「それでもです。私にとっては人生の師匠とも言える方なのです」
……アニキに続いて師匠か……。
呼ばれて嫌という訳じゃないが、今までそんな呼ばれ方をされた事が無いから慣れないな……。
「それじゃあ、これでミリナちゃんはタクミさんの弟子ね」
「はい。クレア様も師匠も、これからよろしくお願いします!」
「はい、よろしくね」
「……まぁ、良いか。よろしくね、ミリナちゃん」
俺とクレアさんに向かって勢いよくお辞儀をするミリナちゃん。
慣れないから師匠と呼ぶ事を改めさせたかったが、この様子を見ると今言うのは無粋かな。
まぁ、これから俺の方が慣れれば良いか。
「では、そろそろ庭の方へ戻りましょう。そろそろ子供達も遊び疲れた頃でしょうから」
セバスチャンさんの言葉で、俺達はミリナちゃんを連れて庭へと戻る。
そこでは、レオの背中に乗ったり、もたれかかったりして眠りこけている子供達の微笑ましい姿があった。
一緒にティルラちゃんやシェリーも寝てるのが見える。
「レオ、お疲れ様」
「ワフゥ」
子供達を起こさないよう、小さな声でレオを労うと、レオの方も小さく鳴いて応えた。
子供達と一緒に遊んで、レオの方も楽しかったみたいで表情は朗らかに見える。
「クレアお嬢様、ミリナとの話はお済に?」
「ええ。ミリナちゃんは我が屋敷に来る事になったわ」
「そうですか。中々身の振り方が決まらなかったミリナを受け入れて下さって、ありがとうございます」
「お礼はタクミさんに言ってね。タクミさんがミリナちゃんを説得してくれたんだから」
「はい。もちろんタクミ様にも感謝しております」
アンナさんにお礼を言われながら、これからミリナちゃんがどうするのかを話し合う。
屋敷に来る事が決まったからと言って、今日今すぐ屋敷に来る事は出来ないだろうからな。
まだ病み上がりだし、荷物なんかもあるだろう。
それに、孤児院を離れるんだから、他の子供達との挨拶なんかもあるかもしれない。
屋敷とこの街は近いから、いつでもここを訪ねる事は出来るけどな。
「それではそろそろお暇しましょう」
「そうね。日も暮れ始めた事だしね」
「はい。本日はありがとうございました。タクミ様も、ありがとうございます」
寝ている子供達を、孤児院の人と手分けして部屋に運んで、屋敷へと帰る事になった。
孤児院の外まで見送りに来てくれた、アンナさんとミリナちゃんに挨拶をして、屋敷への帰路に就く。
ちなみにミリナちゃんが屋敷に来るのは、1週間後になった。
荷物や別れの挨拶を考えると、十分な期間だろう。
帰り道、セバスチャンさんが途中で何度か小道に消えたりしながら、俺達は真っ直ぐ馬車を預けた広場に向かう。
「中々、情報が集まって来ませんね……」
小道から戻って来たセバスチャンさんが呟く。
どうやら、帰り道の途中でさっき情報収集していた報告を聞きに行っているようだ。
まぁ、ちゃんとした報告は明日以降になると言っていたから、今日のところはあまり情報が集まって来ないのだろう。
まだ数時間くらいだしな……その程度で全ての情報が集まるとは思えない。
「では、出発致します」
「レオ、ティルラちゃんとシェリーを落とさないようにな」
「ワフ」
クレアさんと馬車に乗り、セバスチャンさんのが手綱を操って屋敷へと走らせる。
レオの背中には、眠ったままのティルラちゃんとシェリーが乗っているので、落とさないよう一応注意しておいた。
レオならしっかり考えてくれるだろうし、念のためロープでレオの体に、苦しくならないよう気を付けながら括り付けたから、落ちる事は無いと思うけどな。
帰り道は、行きと違ってレオがはしゃぐ様子は無く、おとなしく馬車の横を並走してくれた。
「「「「「……お帰りなさいませ」」」」」
屋敷に着き、馬と馬車をヨハンナさんに任せて屋敷の中に入る。
先にセバスチャンさんが入って、ティルラちゃんを起こさないよう使用人さん達に注意をしていたから、いつもの出迎えも小声で行われた。
……それでも皆で一斉に言うんだなぁ。
「レオ様、お預かりします」
「ワフ」
出迎えてくれた使用人さん達の中から、ゲルダさんともう一人がレオに声を掛けた。
レオは応えるように小さく鳴いて、伏せの体勢をしてティルラちゃんとシェリーを降ろしやすいようにする。
ゲルダさんがティルラちゃんを横抱きにして、もう一人の方がシェリーを抱いて連れて行った。
「セバスチャン、苦労を掛けるようだけど……」
「わかっております」
ティルラちゃん達が連れて行かれるのを見送りながら、クレアさんはセバスチャンさんに声を掛けていた。
もしかして、悪質な業者への対応かな?
俺には関係無いと言えないが、出来る事は無いからな……セバスチャンさんに任せよう。
セバスチャンに任せるという安心感は何だろうか……何でも出来そうな人だからなのかもしれないな。
「クレアお嬢様、夕食の準備が整っております」
「わかったわ。タクミさん、食堂に行きましょう」
「わかりました。……まずは荷物を置いてからですかね」
「……そうですね」
俺はレオを連れて、部屋に一度戻って剣等の持っていた物を置いて食堂へ向かう。
買い物をして来たわけじゃ無いから、荷物は少ないが、これを持ったまま食堂に行くのもな。
「では食べましょうか」
「ティルラちゃんはまだ寝てるんですか?」
食堂には俺とレオ、クレアさんとライラさんだけだ。
セバスチャンさんは色々と動く事があるのだろう、食堂に来る前に忙しそうに動き回っていたのを見かけた。
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