第132話 ミリナちゃんに『雑草栽培』を見せました



「いや、クレアさん。クレアさんの許可を取らないと屋敷を自由には出来ないでしょう?」

「タクミさんはどうしようと考えておいでですか?」

「そうですね……正直、薬の知識は教えられる程ではありません。ですが、ミリアちゃんのせっかくの決心を無駄にはしたくも無いのです。なので……お願いになるのですけど、もし良ければ……」

「屋敷に住まわせたいのですね。そうしないと教える事も難しそうですからね」

「はい……」


 まぁ、実際には教えると言うよりも、一緒に学んでいくという事になると思う。

 以前の世界で得た知識はあるが、こちらの世界の医療とか薬に詳しくないからな。


「そうですね……ミリナは一度、我が屋敷の使用人として採用しようと考えた子なので、住むのは問題ありませんが……」

「何か問題でも?」

「さすがにタクミさんと同じ部屋と言うのは……」

「いや、そこは別の部屋にして下さい。俺も、若い女の子と同じ部屋に住むなんて出来ません」

「……私も若い……けど……いえ、もう年が……過ぎてるのかしら……タク……の好みは若い……?」

「クレアさん?」


 俺がクレアさんに、別の部屋でと言ったら俯いてブツブツと言い始めた。

 何を言っているのか聞こえないが、何やら俺の名前も出てきたような?


「いえ、何でもありません!」

 

 俺がクレアさんに問いかけると、顔を上げたクレアさんが首をブンブンと横に振る。


「部屋が別であるなら問題は有りません。……使用人達と同じ部屋になると思いますが……」

「そこは大丈夫でしょう。孤児院で複数の人と暮らす事に慣れてると思いますから」


 クレアさんとの内緒話を終えて、自分のこの先がどうなるのかと真剣な目で俺を見ていたミリナに向き直る。


「ミリナちゃん、クレアさんの許可が取れたよ。屋敷で使用人達と一緒の部屋に暮らす事になると思うけど、それで良いなら一緒に薬の知識を学ぼう」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「タクミ様、良いのですか?」

「ええ。まぁ、俺もまだまだ未熟なので、ミリナちゃんが満足いく知識を教えてあげられるかわかりませんけどね」


 そう答えて、アンナさんには笑っておく。

 アンナさんは、ミリナちゃんの事が決まったと喜び、二人で一緒に頭が地面に付くんじゃないかと思うくらい深々と頭を下げた。


「タクミ様、そうするとあの事も伝えておかなければなりませんな」

「セバスチャンさん……戻ってたんですか……」


 いつの間に戻って来ていたのか、セバスチャンさんが俺に小声で話しかけて来た。


「今戻りました。クレアお嬢様、調査の方は専門の方に任せましたので。後は報告を待つだけになります。……早ければ、明日か明後日にでも」

「そう、わかったわ。ありがとう、お疲れ様」


 しれっと俺に今戻って来たと言って、クレアさんに向いて報告を済ませる。

 ……今戻って来たにしては、ミリナちゃんの状況とか知ってる様子だけど……本当にこの人は謎だな。


「セバスチャンさん、クレアさん、良いですか?」

「ええ、タクミさんが良いと思う方であれば」

「そうですね。知らずにいられるわけも有りませんからな。私も異論はありません」


 クレアさん達は頷いて俺に答えてくれる。

 という事で、ミリナちゃんとクレアさん達を連れて、孤児院の入り口へ。

 アンナさんには、子供達とレオの事を頼んでおいた……教えるのはミリナちゃんだけだ。

 孤児院の入り口横……孤児院を囲む人の腰くらいある塀の内側、そこで『雑草栽培』を見せる事にした。


「こんな所で、何をするんですか?」


 連れて来られたミリナちゃんは、何が行われるかと不思議顔だ。

 何も話さず連れて来たんだから、当然か。


「ミリナちゃん、これから起こる事は皆には内緒だよ?」

「え? は、はい!」

「ミリナちゃん、これからタクミさんのする事は公爵家が秘匿とする事なのよ。だから、アンナも含めて、誰にも言わないでね」


 俺の言葉に頷いたミリナちゃん。

 補足するように付け加えるクレアさんにも、ミリナちゃんは何回も首を縦に振って頷いている。

 公爵家って言ったから、ミリナちゃんが恐縮してるな……クレアさん、そこは言わなくても良かったんじゃないか?


「じゃあ、やって見せるよ。……何が良いかな……ついでだから屋敷の皆用にラモギで良いか」


 俺が何をするのか窺っているミリナちゃんの視線を感じながら、俺は地面に手を付いて『雑草栽培』を使う。


「え?」


 俺が付いた地面にラモギが生えて来たあたりで、ミリナちゃんが声を出す。

 初めて見るんだから、驚くよな。


「こんなもんかな」

「これは一体何なんですか、薬師様?」

「見ての通り、ラモギだよ」


 驚いて目を剥きながらも、ミリナちゃんは目の前で起こった事を理解出来ないようだ。


「ミリナちゃん。俺にはこんな能力があってね。……まぁ、これのおかげで皆に薬を用意出来たんだよ」

「はぁ……」

「ミリナ、ここからは私が説明しますね」


 未だ理解できない様子のミリナちゃんに、セバスチャンさんが進み出て説明をしてくれる。

 喜々とした様子のセバスチャンさん……やっぱり説明好きだなぁ、と思いながらミリナちゃんが理解してくれるまで待つ。


「つまり、薬師様……いえ、タクミ様は薬師では無い……という事ですか」

「そうなるね。……幻滅したかい?」


 セバスチャンさんからの説明を受けて、ゆっくりと理解してくれたミリナちゃん。

 そこに、俺が問いかける。

 さっきまで俺が薬師だと思って、それに憧れてた部分があるからな。

 これで俺に薬の知識が無い事がわかっただろう……夢を潰すようで悪いが、屋敷で一緒に暮らせばいずれわかる事だしな。

 もしこれが原因で、俺に師事したくなくなったと言われればそれまでだ。

 俺が騙してたような部分があるんだから、仕方ないと思う。

 しかし、そんな俺の考えを否定するようにミリナちゃんはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ、幻滅なんてしません。こんな素晴らしい能力がこの世にあった事に感動しています。それを使えるタクミ様は特別な方なのですね!」

「え? いや……えっと、特別かどうかは……」

「そうよ、ミリナ。タクミさんは特別な方なのよ」


 ミリナちゃんは、ギフトという能力に感激した様子で、さらに尊敬した目を向けて来る。

 しかもクレアさんまで混じって俺を持ち上げる始末……。

 クレアさん……ちょっと恥ずかしいんですが……。



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