第124話 男の処遇を考えました


「カレスさんの店は人手、足りてますか?」

「そうですな……このように薬草を販売するとなると、少々足りないかもしれません。今日の反響次第ではありますが……しかしタクミ様、それを聞くという事はもしかして?」

「まぁ、この男をここで働かせたらどうかと考えてます。この男もお金が無くて困ってる様子ですしね」

「それは……」


 俺の作った薬草を販売するのなら、人手は十分では無いようだ。

 しかし、カレスさんの方は、目の前で暴れたこの男を雇う事に反対するような雰囲気。

 テーブルを壊されたり、恫喝されたりしたもんな……当たり前か。

 それならこういう事ならどうだろうか?


「俺が雇うという扱いにするのはどうですか? 薬草を販売する事を専門に働いてもらいます」

「タクミ様が、ですか?」

「タクミさん、どうするんですか?」

「タクミ様が雇う事に意義があるとは思えませんが……?」


 俺の言葉に、カレスさんを始め、クレアさんもセバスチャンさんも驚いている。

 まぁ、暴れた男……しかも自分に刃を向けて襲って来た男を雇うと言うのは普通じゃないのかもしれないな。


「セバスチャンさん、カレスさん。薬草を作れば、当然この店まで運ばなければいけませんよね? しかも、頻繁に」

「そうですな」

「はい。今日の売れ行きを見るに、薬草を度々運ばなければ供給が間に合わないと思われます」


 セバスチャンさんもカレスさんも頷いてくれる。

 俺が大量に薬草を作って一気に運んでもらっても良いんだが、俺を心配してくれるクレアさん達は、俺が一気に薬草を作る事に賛成してくれないだろう。

 また倒れる心配があるからな……それに鍛錬のための薬草も作りたいから、あまり無理は出来ない。

 だったら、こまめに薬草を作ってこの店まで運ぶ必要がある。


「頻繁にここまで運ぶと言うのは、当然ですが手間がかかります」


 さすがに毎回俺やクレアさん、セバスチャンさんが運んで来ると言うわけには行かないだろう。

 俺は鍛錬があるし、クレアさんやセバスチャンさんにも、やらなければいけない事があるはずだ。

 今日は初めての薬草販売という事だから皆で来ただけだしな。


「だったらこの男を俺が雇って、毎日ここと屋敷の往復をしてもらって、薬草を運ばせるというのはどうかと考えました。まぁ、それ以外の時間はこの店でこき使ってもらう事になるでしょうが……」

「成る程……この男に運ばせるのですか……しかし、この男が薬草をまともに運びますかね?」


 俺の言葉に納得しつつも、疑問を感じて首を傾げてるカレスさん。

 確かに、充分な恐怖を与えたから逆らう事はもう無いと思うが、逃げ出したりという事も考えられる。

 そこの所をどうクリアするかまでは考えて無いんだよなぁ……思い付いた事を言っただけだから、ちょっと詰めが甘かったかもしれない。


「ふむ……タクミ様、この男がもし逃げ出した時、どうするのですか?」

「それが……そこについてはあまり考えていませんでした……」


 セバスチャンさんが、今まさに考えて無い事を反省していた内容を言い当てる。

 そこに考えが行くのは当然だろうけどな。


「そうですか……それなら私からも一つ、良いですかな?」

「何でしょう?」

「基本的には、タクミ様の案に賛成です。直接この男を使う事で、反省の様子も見る事が出来るでしょうからな。しかし逃げられる恐れもある……そこで、魔法を使いましょう」

「魔法ですか?」


 魔法で何をするのだろう?

 攻撃するわけじゃないだろうし……というより、この世界の魔法でどんな事が出来るのかよく知らないからな……。

 セバスチャンさんはどういった魔法を使うのだろうか?


「魔法には、掛けた相手を追跡するものがありましてな。それを掛ければ逃走しても追いかける事が出来るのです。捕まえた罪人に掛ける事に使われる魔法です」

「逃走防止ですか?」

「逃走防止と言うよりは、逃走した後に捕まえるため……ですかな。どうやらこの男は、その魔法が掛けられる前に逃げ出したようですが」


 成る程ね、それを使えばもし薬草を持って逃げ出したとしても、追い掛けて捕まえる事が出来ると言うわけか……。

 しかし、追い掛けるのは面倒かもしれないな……。



「ワフワフ」

「ん? どうしたレオ?」


 俺がセバスチャンさんから教えられた魔法の事を考えていると、レオが俺に顔を近づけて来た。


「ワフワフ。ガウー」

「成る程、それなら良いかもしれないな」

「レオ様はなんと?」

「男にその魔法を掛けて、追い掛けるのは任せてくれとの事です」


 レオなら男が逃げ出したとわかってすぐに追い掛ければ、馬より早いから追跡は楽だろうからな。


「成る程……それでしたら、レオ様にも逃走した時にわかるように致しましょう」

「そんな事も出来るんですか?」

「はい。この魔法は、複数人が対象になった者がどこに行ったのかわかるようになっております」


 それなら、レオがすぐに察知して捕まえてくれるだろうな。


「……という事だが、それで良いか?」


 俺はセバスチャンさんとの話を終え、座ったままで縛られている男に問いかける。

 今の話は聞いていたはずだ、だからその魔法を掛けられるという条件でなら男を雇う事が出来る。

 男が承諾すれば……だがな。

 反省もせず、承諾もしないのなら、もう衛兵やセバスチャンさん達に任せるしかないな。


「…えっと、つまりどういう事で?」

「俺がお前を雇うという事だ。安心しろ、こき使うとは言ったが、ちゃんと報酬は払うぞ」

「こんな俺を雇って下さるんですかい?」


 男は俺が雇うという事に意外そうな様子だ。

 確かに、自分にナイフを向けて襲い掛かって来た相手を雇うと言うのは、普通では無いのかもしれない。

 でも、目の前にいる男が悪い事をしたとは言え、猶予も与えずに処刑というのはなんだか目覚めが悪い気がするからな。

 公爵家に逆らったという事は、この国だと厳しい処罰が下されるのかもしれないが、俺は日本で生まれて育った人間だ。

 まだ取り返しのつかない事をしていないうちに、更生する余地を残しておきたい。

 ……一応……後で他に余罪が無いか聞く事はするけどな。


「まぁ、お前が更生して真っ当に生きたいと思うならだけどな。あと、追跡の魔法? はしっかり掛けさせてもらうぞ。もし逃げたら……」 

「ワフ!」

「に、逃げません! 決して逃げたりはしません!」



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