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第122話 騒ぎを起こした男と対決しました
第122話 騒ぎを起こした男と対決しました
「せっかく逃げだして来たのに、あの独房にまた入ってたまるかよ!」
「っ!」
どうやら男は独房から逃げ出して来たらしい。
男はそんな事を叫びながら、俺にむかって拳を振り上げ、持っているナイフで突いて来た。
俺は腰に下げていた剣を抜き、そのナイフを目前で横に払う。
……男の動きが遅かったから対処出来たな……エッケンハルトさんの動きをしっかり見ていて正解だった……。
「なんだと!?」
俺にナイフを横に流されて驚いた男に、さらに蹴りを浴びせる。
俺に横腹を蹴られて地面に転がった男は、なおも反抗するために起き上がろうとするが、それに対して眼前に剣の先を突き付けた。
「まだやるのか? それならこの剣をさらに突く事になるが?」
「……ちっ」
敵わないと悟ったのか、男は手に持っていたナイフを地面に落とし、おとなしくなった。
ここまで動けるようになってたんだな……俺。
鍛錬をして良かったと、剣を教えてくれたエッケンハルトさん、鍛錬に付き合ってくれているレオに感謝、だな。
「ふぅ……」
「……っ! ぐぇ……」
「ワフ」
俺が息を吐いて剣を引いた時、男が手を動かしてナイフを地面から拾い上げた。
油断するのを狙ってたらしい……しかし、俺がヤバイと思うよりも早く、人混みを飛び越えたレオが男の腹を踏みつけた。
大きなレオの足に踏みつけられた男は、潰れたカエルのような声を出して動かなくなる。
どうやらレオは俺より先に男の様子を察知して動いてくれたらしい。
「ありがとうな、レオ。助かったよ」
「ワフワフ」
男を踏んだままのレオに感謝をして、頭を撫でる。
気を付けろと注意をするように鳴くレオだが、撫でられて気持ち良さそうにしてるからちょっと迫力が足りないな。
ふと、レオを撫でてる時に周りから拍手が聞こえた。
最初はまばらだった拍手は、段々と広がって行った。
どうやら、遠巻きに見ていた人達が俺やレオが男を押さえた事に対して拍手してるようだ。
拍手の合間から人の声も聞こえる。
「すげぇぞ兄ちゃん!」
「レオ様の颯爽と助けに入る姿……格好良いわ」
「ありがとうよ、兄ちゃん」
「レオ様可愛いわぁ」
等々、色んな声が聞こえる。
大半が俺達を褒める内容だった。
「タクミさん!」
「タクミ様!」
周囲の人々に感謝を述べられていると、騒ぎを聞きつけたのか、店の中からクレアさんとセバスチャンさんが飛び出してくる。
カレスさんも一緒に近付いて来た。
店員さん達は、テーブルの片づけと、地面に落ちた薬草を拾っている。
「タクミさん、無茶しないで下さい。こういう事は護衛のヨハンナ達に任せれば良いのに」
「そうですぞ。タクミ様程重要な人物にもしもの事があってはいけません」
男に立ち向かった俺を心配してくれた二人から、怒られるように言われるが、俺自身なんで男の前に一人で出たのか……。
頭は冷静だったんだが……多分、地面に落ちた薬草を見たからかな。
能力のおかげとは言え、自分で作った薬草が無下に扱われるのが許せなかったのかもしれないな。
思ったより頭に血が上ってたのかもしれない……反省しないと。
「すみません……薬草を滅茶苦茶にした男が許せなかったようで……」
「どうして他人事のようなんですか?」
「この男の行動が許せないというのはわかりますが……」
他人事のように言う俺に対し、クレアさんは首を傾げてる。
何か、自覚無く怒ってたみたいで、俺自身も実感が無いんだよなぁ。
「それよりも、この男はどうしますか?」
クレアさんとセバスチャンさんを押し止めて、俺はレオに踏まれたままになっている男を示す。
このまま、衛兵達に知らせて捕まえてもらっても良いんだが、また抜け出してきたりしたら面倒だからな……。
「ちっ」
男は腹を踏まれて苦しそうにしながらも、俺達を睨んで舌打ちをしている。
反省してないな……というかレオ、あまり体重をかけて無いのか?
巨体のレオがそのまま体重をかけたら、人間なんて潰れてもおかしくはないか。
子供達もいるような場所で、男が踏みつぶされて色々な物をぶちまけると言うのは見せたくないな……そのためのレオなりの配慮なのかもな。
「そうですな……」
「どうするのセバスチャン?」
セバスチャンが考えるようにしながら男に近付く。
クレアさんの問いには答えず男に接近したセバスチャンさんは、顔を男の顔に近付けた。
「貴方は、ここが公爵家の運営する店だと知っていましたか?」
「あ? そんな事は知らねぇよ」
「それなら、何故貴方はここで暴れたのですか?」
尋問かな?
セバスチャンんさんが問い詰める姿を、俺やクレアさん、集まった人達はじっと見ている。
レオは足元だから見にくそうだけどな。
カレスさんだけは、かわいそうなものを見るような目で地面に倒れてる男を見ていた……何故?
「金が欲しかったんだよ……くそっこんな事なら別の場所に行けば良かったぜ!」
「そうですか……ただお金のためにこのような働きをしたと……」
問い詰めていたセバスチャンさんが、男の言葉に少しだけ考え込むような仕草。
「貴方は、公爵家に逆らった事になります。領内での出来事……当然、公爵家に裁く権利があります」
「なんだってんだ! それがどうしたってんだ!」
男はセバスチャンさんの言う事が理解できないようで、まだ喚き散らしてる。
よく考えようよ……公爵家の領内で、公爵家に逆らう……この国の法律なんかには詳しくない俺でも、どうなるか想像出来るぞ。
「公爵家に絡んで来た事……公爵家の運営する店に対する妨害と恫喝……これは……死罪でも生温いですな……」
「なっ!?」
セバスチャンさんの言葉に、男は顔を青ざめて言葉を失う。
ここまで言われてようやく自分の置かれた状況がわかったようだ。
しかしセバスチャンさんは楽しそうだな……男を脅すように声を低くしてるから、丁寧な口調が逆に恐怖心を煽って来る。
もしかして、カレスさんはセバスチャンさんがこうなる事を知ってたから、男に憐れむ視線を向けていたのか?
「……そろそろ、自分のしでかした事、置かれた状況がわかりましたか? あぁ、逃げようとしても無駄ですよ貴方を押さえつけているレオ様は、かの有名なシルバーフェンリルですからね……貴方を逃がすようなヘマはしません」
「……シルバーフェンリルだったのか……」
「グルルルル……」
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