第120話 レオは子供たちに大人気でした



「説明が無いと、どんな薬草か知らない者もいますからね」


 薬草を買うには、その薬草がどんな効果か知らないといけない。

 知らずに薬草を買っても、役に立たせられないからな。

 当然、説明を読まずに直接聞いて来る人もいるだろうが、そういう人には店員さんがしっかり説明するらしい。

 テーブルのセッティングが完了した頃、店の中からさっきの店員さん達が出て来た。


「作業、終わりました」

「ご苦労様。ではこちらに並べてくれ」

「はい」


 店員さん達はカレスさんの指示の元、小分けにされた薬草を並べ始める。

 それぞれの種類毎に並べられた薬草を見て、一つ足りない事に気付いた。


「ロエがありませんが、どうしたんですか?」

「ロエは高価な薬草ですからね。お客様が求められたときに出すようにしました。それに、人が込み合う可能性のある場所に並べていると危ないかもしれませんからね」

「かすめ取ろうとする輩がいたりしますからな」


 カレスさんとセバスチャンさんの二人から説明されて納得する。

 高価な薬草だから、並べてると勝手に盗って行こうとする輩がいるんだろうなぁ……。

 以前、クレアさん達とこの街に来た時に絡まれた集団を思い出した。

 そう言えば、あの人達はあの後どうなったんだろう?

 そんな事を考えてる間に、準備は終わったようだ。


「これで、後はお客様を待つだけですね」


 準備が整ったテーブルの奥に、店員さん達が待機。

 いつお客さんが来ても良いように備える。

 俺とクレアさん、ティルラちゃんとセバスチャンさんは販売員では無いので、店の中のテーブルについて待機する。

 外の様子はわからないが、近くに集団で固まって見守るわけにもいかないからな。

 レオとシェリー、ニコラさんは店の外で待機だが、カレスさんから客寄せに使えるかもしれないと言われ、販売するテーブルの近くにいる。

 一応、俺からレオにカレスさんの言う事を聞いて、おとなしくしてるように言っておいたから、大丈夫だと思う。

 店員さん達も初めて見るシルバーフェンリルに最初は驚いていたが、レオに触れるとそのフワフワな毛と、大人しい事に安心したようだ。


「ずっと触っていたい……」

「シルバーフェンリルがこんなにおとなしいなんて……」

「これで枕やベッドは作れないかしら……」


 口々に感想を漏らす店員さん達だが、レオの毛を枕に出来るのは俺だけだ。

 たまにティルラちゃんもレオに抱き着いて寝てるけど……。

 そんな事もありながら、店の中でお茶を頂いてしばらく待つ。


「外が騒がしくなって来ましたな」

「そうね。人が多くなる時間だからかしら?」


 セバスチャンさんとクレアさんの言葉に、耳を澄ませてみると……確かに店の外からざわざわとした喧騒のようなものが聞こえて来た。

 昼前で、人通りが多くなって来たんだろうか?


「ちょっと見て来ます」

「はい」


 クレアさんに断ってテーブルを離れ、店の入り口に向かう。

 入口のドアを少しだけ開けて外を覗き見ると、店の前に置かれたテーブルに人々が群がっている光景が見えた。


「薬草だけでここまで人が群がって来るものなのか?」


 そう呟きながら、外をじっくり見ると、カレスさんがレオの周りで声を出して列の整理をしていた。

 レオの周囲には、ティルラちゃんくらいの子供達が群がっていて、その周りに親と思われる大人達が囲んでいるような状態だ。

 人が多すぎるために、薬草の置いてあるテーブルからは離れたようだ。

 それを見た俺は一旦ドアを離れ、クレアさん達の所へ戻る。


「何やら、レオが子供達に人気のようですけど……」

「レオ様が? でもどうして……」


 俺の言葉に首を傾げるクレアさん。

 レオはシルバーフェンリルだから、その姿を見た人達は恐れる事が多かったんだが……これは一体。


「カレスが上手くやったようですな」

「どういう事ですか?」

「タクミ様、ティルラお嬢様と一緒ですよ」

「ティルラちゃんと?」

「私ですか?」


 セバスチャンさんの言葉が何の事を言ってるのかわからず、ティルラちゃんを見る。

お茶に息を吹きかけて冷ましていたティルラちゃんは、自分の名前が出た事を不思議に思って首を傾げた。


「子供達がレオ様に人気なのでしょう? 恐らく、おとなしいレオ様に触れさせることで子供達を惹きつけて、その親たちも集めようという事なのだと思います」

「……ティルラちゃんの時と同じように、レオと遊んで客寄せをするという事ですか?」

「そういう事ですな。カレスはおとなしく、タクミ様の言う事を聞くレオ様を見て考えたのでしょう」


 成る程な……家族連れを狙ったわけか……。

 レオを見せ、子供達を引き寄せてる間に、その親へと薬草を売り込む算段なのかもしれないな。

 子供がいるなら、薬草は常備しておきたい物かもしれないしな。

 ティルラちゃんの時と同じように熱を出した時、すぐ使える薬草や薬があれば安心だろうからな。


「ちょっと外に出て来ます」

「はい。お気を付けて」


 俺はセバスチャンさんに言って、外に出る事にした。

 子供達に群がられてるレオがどうなってるか気になるからな。

 子供好きなレオではあるが、大勢の子供達に来られたら、対処に困る事があるかもしれない。


「カレスさん、大丈夫ですか?」

「おぉ、タクミ様。思った以上にレオ様の効果が出てしまいましてな。申し訳ありません」


 カレスさんに声を掛けながら、レオの様子を窺う。

 レオは子供達に撫でられたり、抱き着かれたりしているがおとなしくお座りしたまま動かない。

 しかし、その表情は俺を見付けて助けを求めるような目をしていた。

 ……多分、ここまで大勢の子供達に来られるのが初めてで、どうすればいいかわからないんだろう。


「初めての事だから戸惑っているようですね」

「そうなのですか? 怒らないかと私は心配してましたが……おっと、順番ですよー! 一気に詰め寄ってはいけません!」


 子供達の対処に追われて、レオにどう接すればいいのかわからない様子のカレスさん。

 カレスさんは、勢いに任せてレオに飛びつこうとしている子供達を押さえようとしているが、子供の集団はそれだけじゃ止められない。

 親達も、何人かは子供を止めようとしているが、一度はしゃぎ始めてテンションの上がった子供は、簡単には止まらない。

 レオの方も、前の世界で子供達に囲まれた事はあるが、その時はせいぜい4~5人くらいだ。

 ここには20人以上の子供達がいるから、どうしていいかわからないんだろう。


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