第119話 薬草販売の準備をしました
「予定していた薬草ですね」
カレスさんはセバスチャンさんに渡された麻袋を受け取り、中を確認する。
俺が作った薬草だから、実際に商売する人に確認されるとなると少しだけ緊張するな……。
「ふむ……これは非常に品質がよさそうですな……薬草の販売はした事がありませんが、私も長く商売をして来た商人の端くれ……商品としての薬草を見た事はありますが、これ程の物は早々お目にかかれません」
「そうでしょう」
薬草を確認していたカレスさんは、いくつか手に取っては感嘆の息を漏らしている。
何故かセバスチャンさんがカレスさんの言葉を聞いて誇らし気にしていたけど……もちろん俺も誇らしい気持ちだ。
この能力を何故授かったのか等の理由はわからないが、もう既に俺の一部になって来てるからな。
その能力で作った物を褒められるのは嬉しいもんだ。
「確かに、薬草を受け取りました。おーい、誰か!」
「はい!」
カレスさんが店の奥へ声を掛けると、数人の男女が奥から出て来る。
その男女に薬草を渡しながら、細かな指示を出してるカレスさん。
多分、この店の店員さんなんだろうな。
「では、頼んだぞ」
「はい!」
「何かするんですか?」
薬草の入った袋を店員さん達に渡したカレスさん。
店員さん達はやる気に満ちた返事をした後、近くにあったテーブルに薬草を袋から出した。
「あのままだとまとめて売る事になりますからね。小分けにするんですよ」
「成る程……個人向けに……という事ですね?」
「そうです」
袋に入ってた薬草は、種類毎に纏められて、粉末の物や乾燥した物等、他の種類と混じったりする事が無いように布で包まれているが、個別には分けられていない。
1種類の薬草が全部一つになってるので、買いに来た人達がまとめ買いをするのでも無い限りは不便なんだろう。
個人で買うのに薬草1種類を纏めて買う事は少ないと思うからな。
店員さん達は、袋から出した薬草をそれぞれ紙に包んだり、布でくるんだりとした作業を始めた。
それを横目に、カレスさんの方は奥から細長いテーブルを出して来た。
「それは?」
「よっこらせ……ふぅ……これは販売用のテーブルですよ。今回は初めての薬草販売ですからね。外で売り出そうと考えています」
そう言ってカレスさんは重そうなテーブルを持って店の外に出て行った。
成る程ね……薬草を販売してる事を通りがかる人に知らせる事も含めて、外で販売するみたいだ。
確かにその方が通行人にわかりやすいと思う。
薬草販売を初めてする店だから、周りに宣伝する意味もあるんだろう。
知られていないのに、わざわざ店に入って薬草を求める人はいないからな。
「ひぃ!」
そんな事を考えて、外にテーブルを置きに行ったカレスさんを見送ると、店の外から悲鳴が聞こえた。
……カレスさんか? 何かあったんだろうか?
「……タクミさん、外に出て見ましょう」
「はい……」
「はぁ……前もって知らせておいたんですが……」
顔を見合わせて俺とクレアさんは店の外に向かう。
何かあったのなら助けないといけないしな……ヨハンナさんも一緒だから多少の事は何とかなるだろうし……外にはレオもいるからな。
何故か後ろでセバスチャンさんが溜め息を吐いていたが、それには構わず外に出る。
「カレスさん? 何か……」
「フェ……フェンリルが!」
「……レオ様ですよね」
外に出た時俺達が見たのは、何かに驚いてテーブルを離し、尻餅を付いてるカレスさんと、それを心配したのか顔を寄せてるレオだった。
……もしかして、レオを見て驚いたのかな……?
「カレス……前もって伝えておいたでしょう。タクミ様はレオ様というシルバーフェンリルを従えてると……」
「……た、確かに聞いていたが……」
俺とクレアさんの間から、セバスチャンさんが進み出てカレスさんに声を掛けた。
どうやらカレスさんは、本当にレオに驚いて尻餅を付いたみたいだな。
……こんなに可愛いレオを見て驚くとは……まぁ、体が大きいから仕方ないと思うけど。
「カレス、レオ様は人に危害を加える事は無いわ。安心して」
クレアさんはそう言って、カレスさんを心配そうに見ていたレオの顔に近付いて、その頭を撫でた。
「ワフゥ」
「キャゥキャゥ」
「あら、シェリーもなのね。わかったわ」
「私も撫でます!」
クレアさんに撫でられて、気持ち良さそうに鳴くレオを見て羨ましそうにするシェリーも一緒に撫でている。
レオとシェリーを撫でるクレアさんを見たティルラちゃんも一緒に撫で始めた。
どうでもいいが、シェリーの定位置がレオの背中になって来てるな……。
「……本当に大丈夫なのですか……?」
「ええ。ですよねタクミさん」
「はい、大丈夫ですよ。何ならカレスさんもレオを撫でてみては?」
クレアさんが撫でる様子を見て、何とか立ち上がるカレスさん。
レオの大きさや見た目にまだ怖がってる様子だけど、一度撫でてみると多少は恐怖心も薄れるかもしれないからな。
俺はカレスさんを後ろから促すようにしてレオの前に誘導、手を持ち上げてレオの体に触れさせた。
「おぉ……フカフカだ……本当に人を襲わないんですね……」
「ワフ」
レオの毛に触れたカレスさんは、すぐにフワフワな感触に感動して、人を襲わない事に感心した様子。
レオはそのカレスさんの言葉に頷きながら一鳴きして返事をしている。
……まぁ、まだカレスさんの方は腰が引けてるんだけどな……少しづつ慣れてくれれば良いだろうと思う。
エッケンハルトさんのように荒療治が必要そうな程じゃないと思うし、もしそうでも街中で人を乗せて走り回れないしな。
……街でレオが疾走したらラクトスの住民が騒然とすることは間違いないと思う……。
「ふぅ……申し訳ありません、タクミ様」
「いえ。レオの見た目が恐いのは確かですからね。少しづつ慣れて行けば良いんですよ」
レオから手を離したカレスさんに謝られつつ、店の前で薬草を販売する準備を進める。
驚いた拍子に横倒しにされていたテーブルを起こして設置し、紙に色々書かれた物を置いていく。
紙には、薬草の説明と値段が書かれていた。
相変わらず、日本語じゃない文字で書かれているが、問題なく読めた。
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