第118話 公爵家が運営する店に着きました



「タクミ様、今回はレオ様に乗りますか? それとも馬車に乗りますか?」

「そうですね……今回は馬車にします。レオにはティルラちゃんを乗せてあげて下さい」

「畏まりました」


 ラクトスの街には、約1時間くらい。

 ちょっと緊張するけど、今回はクレアさんと一緒に馬車に乗ろう。

 街に行くのを楽しみにしてるティルラちゃんには、レオに乗ってもらった方が楽しんでもらえると思うしな。


「レオ、ティルラちゃんを頼む」

「ワフ」

「レオ様に乗れるんですか? 楽しみです!」

「キャゥー」


 レオは俺の頼みに応えて、ティルラちゃんの前で背中を向けて伏せをした。

 ティルラちゃんは、楽しそうな笑顔でレオに乗って喜んでる。

 シェリーもレオの背中に乗り、ティルラちゃんの横に座って楽しそうだ。


「タクミさん、ありがとうございます」

「いえ、ティルラちゃんとシェリーが楽しそうで何よりですよ」


 馬車に乗る時、クレアさんからお礼を言われた。

 ティルラちゃんやシェリーが楽しそうにしてるのを見るのが最近の楽しみになりつつあるからなぁ。

 子供の喜ぶ姿を見て笑う俺は、おじさんの心境になってるのかもしれない……一応まだ若い部類なはずだ……きっと……。


「それでは、出立いたします」


 クレアさんと一緒に馬車へ乗り込み、セバスチャンさんが手綱を操って馬を走らせ始める。

 護衛さん達は以前と同じようにそれぞれ馬に乗り、レオはティルラちゃん達を乗せて立ち上がる。

 門を抜けたあたりで、レオが馬車を追い抜いた。


「レオ、あんまりはしゃぎすぎるなよー」

「ワウ!」



 馬車を追い抜いた後、戻って来て馬車の周りを走り回ったり、護衛さん達の方へ近づいたりしていたレオに一応声を掛ける。

 まぁ、レオの事だからティルラちゃん達を振り落とす事はないだろうし、はしゃぎすぎて疲れる事もないだろうけど、一応な。


「楽しそうですね」

「そうですね。最近は鍛錬もあってレオは思いっきり走れていませんでしたからね。この機会にストレス解消をしているんでしょう」


 楽しそうなレオとティルラちゃん達を見ながらクレアさんと話す。


「いえ、私はタクミさんの事を言ったのですけど……」

「え?」


 その言葉に横を見ると、隣に座ってるクレアさんは俺の顔を見ていた。

 俺、そんなに楽しそうにしてたのか……?


「ははは、レオもそうですけど……ティルラちゃんやシェリー、子供が楽しそうにしてる姿を見るのが最近、楽しくなってきましたからね」

「そうですか……」


 何故か、クレアさんは俺の言葉に眩しそうに眼を細めた。

 何なんだろう?

 俺の疑問の答えが出る事も無く、馬車は順調にラクトスの街へ向かって行った。

 途中、御者をしているセバスチャンさんが、声を漏らして笑っていたが、クレアさんといいセバスチャンさんといい……何だったんだろう……?

 そんな疑問を抱えながら、クレアさんと談笑して過ごした。


「到着いたしました。以前と同じく、馬車を預けて参りますので少々お待ち下さい」

「……はい」


 結局、俺の疑問が解消される前にラクトスの街へ到着してしまった……。

 クレアさんと一緒に馬車から降り、馬車や馬を連れて行くセバスチャンさんとニコラさんを見送った。

 ヨハンナさんはクレアさんに付いている。

 ティルラちゃんはレオから降りて、クレアさんの所へ、レオはシェリーを乗せたまま俺の横へと来た。


「よしよし、走れて満足したかー?」

「ワフワフ」

「キャゥキャゥ」


 横に来て、満足そうな顔をしているレオをガシガシと撫でる。

 レオに乗ったままシェリーも嬉しそうに鳴いている。

 ……シェリー、レオに乗るのが本当に気に入ったんだな……けどフェンリルとして、自分で走ったりしなくて良いのか……?


「お待たせしました。では、店の方へ参りましょう」

「はい」


 馬や馬車を預けて来たセバスチャンさんが戻り、以前と同じように先導されてラクトスの街を歩く。

 前回来た時通った大通りの半ばで横道に入り、少しだけ進んだ所にその店はあった。


「こちらです」

「これが公爵家の店なんですね?」

「はい。この他にもありますが、まずはこの店から薬草を販売致します」


 セバスチャンさんに聞きながら、店を眺める。

 その店は、ラクトスの街では珍しく、石造りで結構な大きさだ。

 以前に行った雑貨屋程ではないが、2階建てで1階が販売をするスペースになっているみたいだ。

 ゆったりとした大きさで、日本で言うとちょっとしたスーパーくらいの大きさがありそうだ。

 当然ながら、レオは店の中に入れそうにないのでシェリーと一緒に外で待機だ……ニコラさん、よろしくお願いします。


「失礼します」

「おぉ、セバスチャン殿。お待ちしておりました。クレアお嬢様もわざわざ来て頂き、ありがとうございます」

「今回は公爵家にとっても重要な話ですから。私が来るのは当然ですよ」


 セバスチャンさんを先頭に、店の中に入った俺達は、中で待っていた中年の男性と対面した。

 その男性は、半ば禿げ上がった頭を撫でつつ、セバスチャンさんやクレアさんに挨拶をしている。


「そちらが……例の?」

「ええ、そうです。ですがこの事は……」

「承知しております」


 セバスチャンさんと何事か小声で話した中年の男性は、俺に近付いて腰を折った。


「初めまして、私このお店を任されているカレスと申す者です。タクミ様、ですな?」

「はい、タクミです。カレスさん、ですね。俺の事は……?」


 カレスさんは俺の名前を知ってるようだ。


「はい、前もってセバスチャン殿から聞かされております」

「タクミさん、カレスにはタクミさんの事は話してあります。販売をする責任者となりますので。ですが、他の方に漏らす事は無いでしょう」

「そうですか」

「クレアお嬢様に誓って、タクミ様の事を他言する事は致しません」

 

 セバスチャンさんがここに来る前に連絡をして教えてくれてたみたいだ。

 クレアさんの言うように、カレスさんは、俺の事を他に言う事は無いと誓ってくれた。

 まぁ、俺の能力を狙う輩が出ないように情報を秘匿するためって事だろう。

 カレスさんには、薬草を直接販売するから教えたようだな。

 公爵家の事は信用しているから、誰に教えて、誰に教えないとかはお任せだ。

 ……俺じゃ判断できない事が多いからな。


「こちらが今回販売する薬草です」


 セバスチャンさんが、屋敷から持って来た薬草をカレスさんに渡した。



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