第117話 薬草販売へ出発しました



「タクミさん、レオ様。明日街に行けます。頑張りました!」

「良かったね、ティルラちゃん」

「ワフワフ」

「今日のティルラはよく頑張っていました」


 食堂に着くと、ティルラちゃんが嬉しそうに言って来た。

 無事、明日の分の勉強を終わらせることが出来たようで、改めて街へ行く許可が出たようだ。

 俺とレオは、ティルラちゃんを褒めるように声を掛ける。

 クレアさんの方も、優しい目でティルラちゃんを見ながら褒めている。


「タクミ様、こちらが今回の報酬になります」

「はい、ありがとうございます」


 料理が運ばれて来る前、食堂のテーブルについた俺に後から来たセバスチャンさんから革袋を渡される。

 一応中を見て、注文書に書かれていた報酬額と一緒だとの確認をした。


「タクミさん、ありがとうございます。これで明日はラクトスの街で薬草販売を開始できます」


 クレアさんからの感謝も受けつつ、運ばれて来た料理を食べ始める。

 皆が料理を食べ終わった頃、俺はセバスチャンさんに声を掛ける。


「セバスチャンさん、以前ラクトスの街で買った物は合計でいくらになりましたか?」

「タクミ様、気になさらなくても良いのですよ?」


 セバスチャンさんはそう言うが、身の回りの物全てを買ってもらったままだとちょっと落ち着かないんだよな。

 あの時は、お金を借りたつもりで買い物をしたから、ちゃんと支払っておきたい。

 厚意なのはわかってるけどな。


「タクミさん、あのくらいでしたら気になさらなくても大丈夫なのですよ?」

「いえ、あの時買った物に使ったお金は借りたと考えています。借りた物は返さないと落ち着かないので……」

「律儀な方ですな……」


 そうなんだろうか?

 お金にしろ何にしろ、借りた物は返すのが普通だと俺は考えてるんだけど……。

 まぁ、クレアさん達は俺に貸したと考えて無さそうだからなぁ。


「こうしてクレアさん達のおかげで、お金を稼ぐ方法も出来ましたから。せめてあの時のお金は返させて下さい」

「……仕方ありませんね」

「そうですな。薬草販売に関しては公爵家の利益の方が多いので、あの時の代金程度は何てことの無いものだったのですが……」


 公爵家にとっては微々たるものでも、俺にとってはありがたい事だったからな。

 あの買い物が無かったら、俺は未だにセバスチャンさんに借りた服のままだっただろうし、森に入る時にも色々困ってたかもしれない。


「それでは……あの時の代金ですが……」


 セバスチャンさんがそっと、俺に買い物で使った金額を教えてくれた。

 あまり大きな声で言うのは、行儀が悪いからかもしれないな。


「成る程……それじゃ……」


 セバスチャンさんから聞いた金額を、さっきもらった薬草の報酬から取り出す。

 ここにあるお金だけで払える金額で良かった。

 まぁ、部屋に戻れば以前にもらったお金があるから、払えない事はないんだけどな。

 しかし、仕立てた服って高いんだなぁ……。

 貨幣価値を知った今では、あの服がどれだけ高い物かわかってしまった。

 日本で考えたら、オーダーメイドの高級スーツくらいかな……大事に使おう。


「それでは、お休みなさい」

「タクミさん、お休みなさい」

「ティルラちゃん、ちゃんと寝るんだよ? それじゃ、お休みなさい」

「ワフワフワフー」

「キャゥキャゥー」


 支払いも終わり、夕食後のティータイムの後、明日のために早く寝る事になった。

 今日は剣の素振りもお休みだ。

 ティルラちゃんは街へ行くのが楽しみなようで、すぐに寝られるか怪しかったけどな。

 それぞれとお休みの挨拶をして、部屋へ戻る。


「それじゃ、風呂に行って来るからな」

「ワウワウ」


 レオに声を掛け、風呂に入るため部屋を出る。

 相変わらず風呂嫌いなレオは、興味無さそうに鳴いて部屋で丸くなっていた。

 ……今度、何で風呂が嫌いなのか聞いてみても良いかもな。

 意思疎通がある程度出来る今なら、理由がわかるかもしれない。

 嫌いな理由が改善出来るなら、レオの風呂嫌いも治るかもしれないから。


「そう言えば、シェリーが風呂に入るのを嫌がるかどうか聞いてなかったな……」


 そんな事を考えつつ、風呂へと向かった。

 風呂から上がった後は、熟睡出来る薬草を食べてから湯冷めしないようベッドに入る。


「明日は街に行くけど、大人しくしてるんだぞ、レオ」

「ワフ」


 ベッドからレオに声を掛け、当然わかってると言うような返事を聞きながら、俺は眠りに入った。


―――――――――――――――――――


 翌日の朝食後、屋敷を出る準備を終えた俺は、レオを連れて玄関ホールへ。

 今日はラクトスの街で薬草販売の初日という事もあって、いつもより少し早めの朝食だった。

 販売する店に薬草を持って行かないといけないから、早めにラクトスの街へ行かないといけないかららしい。


「クレアさん、お待たせしました」

「ワフ」

「いえ、まだティルラも来ていませんから」


 先に玄関ホールで待っていたクレアさんに声を掛ける。

 まだティルラちゃんが来ていないようだ……準備に手間取ってるのかな?

 そんな事を考えていると、玄関ホールから繋がっている階段の上からドタドタと走る音が聞こえて来た。


「お待たせしました!」

「キャゥ!」


 走って階段を降りて来たのはティルラちゃん。

 シェリーはティルラちゃんに抱かれている。


「ティルラ、時間はあるのですからもう少し落ち着きなさい」

「すみません」

「少し遅れてたようだけど、何かあったのかい?」

「これを持って行くのを忘れそうになりました!」


 クレアさんに謝ってるティルラちゃんに、遅れた理由を聞くと腰に下げてる剣を示した。

 ……まぁ、危ない事は無いと思うけど、一応持っておくのも悪くないのかな。

 俺も腰に剣を下げてるしな。


「皆様揃いましたね。それでは出発致しましょう」

「ええ」

「はい」

「ワフ」

「楽しみです」

「キャゥキャゥー」


 薬草の入った袋と思われる荷物を持ったセバスチャンさんに促され、俺達は屋敷を出る。


「「「「「行ってらっしゃいませ!」」」」」


 いつものように、見送りに集まった使用人さん達の声を聞きながら。

 ……さすがにもう慣れたな。


「クレアお嬢様、タクミ様。今日は私が護衛に付きますので、よろしくお願い致します」

「お願いね」


 屋敷を出ると、馬を連れて来た護衛さんがクレアさんと俺に一礼。

 今回の護衛は、森にも一緒に行ったヨハンナさんとニコラさんの二人だ。

 今日もお願いします。



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