第115話 薬草販売を見る事になりました



 夕食時、体作りと疲労回復のため、レオと並んで勢いよく料理をがっついていた俺にクレアさんから声がかかる。


「タクミさん、明後日になるのですが……鍛錬を一旦お休みして頂けますか?」

「鍛錬をですか? それは大丈夫ですけど、何かあるんですか?」


 鍛錬は毎日続ける事に意味がある……とまでは言わないが、1日休むと取り返すのに数日かかると言われてる。

 とはいえ、最近は鍛錬ばかりだったから1日くらい休んでもいいかもしれないな。

 しかし、明後日はなにがあるんだろう?


「明後日に、ラクトスの街でタクミさんに栽培して頂いた薬草の販売を開始します。タクミさんには一応ラクトスの街でその様子を見て頂きたいのです」

「薬草を……成る程……」


 薬草の販売に関しては公爵家が担当してくれるから、基本的にはお任せだ。

 でも、どういう風に販売されるのか見れるのなら見たいと思う。


「わかりました。それでは明後日、ラクトスの街に行きましょう」

「ありがとうございます」


 クレアさんがお礼を言ってるが、元々俺が公爵家にお願いして薬草を売ってもらってる側だから、お礼を言いたいのはこちらだ。


「私も行きたいです!」


 クレアさんの話を隣で聞いていたティルラちゃんが、手を挙げながら言った。

 以前ラクトスの街へ行った時は、ティルラちゃんを連れていけなかったからな、今回こそは行きたいと思うのも当然か。


「ティルラ、貴女には勉強があるでしょう? 鍛錬が無いからと言って、何も無いわけでは無いのよ?」

「勉強なら明日のうちにやっておきます! 今回は一緒に連れて行って下さい!」


 クレアさんは勉強を理由にしているが、ティルラちゃんは街へ行くために前もって勉強を終わらせる気だ。


「でも今回は、タクミさんの薬草を販売する場を見るためなのよ……遊びでは無いのよ?」

「わかっています。でも屋敷にずっといるだけというのも……」


 俺がここに来てから、ティルラちゃんが屋敷を出た事は無かったな。

 以前街に行った時もそうだが、森探索の時も留守番だった。

 森へ行く時は危険もあったから仕方ないと思うが、今回は魔物に遭遇する事もないから大丈夫だろう。

 鍛錬や勉強とやる事があっても、たまには外に出たいと思うのも仕方ないな。


「クレアさん、ティルラちゃんを連れて行ってあげても良いのでは? 今回は危険も無いですし……勉強もしっかりやると言ってますから」

「……タクミさんまで……仕方ないわね。ティルラ、一緒に行きましょう」

「やったー! ありがとうございます、タクミさん、姉様!」


 ティルラちゃんは、許可が出た事に両手を万歳させて喜んでいる。

 これだけ喜ぶんなら、もっと早く街に一緒に行く機会を作れば良かったな。


「ワフワフ」

「キャゥ、キャゥ」


 ティルラちゃんが喜ぶ姿を見て、レオとシェリーが騒ぎ始めた。

 何だ……お前達も行きたいのか?


「クレアさん、レオやシェリーも行きたがっているようなんですが……」

「レオ様は前回も街に同行して頂いて、街の住民にもある程度受け入れられていますが……シェリーは……」

「ワフ」

「キャゥ?」


 クレアさんの言葉に、レオの方は安堵の息を漏らしているが、シェリーは首を傾げてる。

 多分、「連れてってくれないの?」と言いたいんだろう。

 レオもよく似た表情をするからな……仕事とは言え留守番ばかりさせてしまってすまなかったな……。


「クレアお嬢様。シェリーは仮にもフェンリルです……まだ子供のようですが、十分護衛の代わりとなってくれると思います」

「キャゥ!」


 シェリーを連れて行くべきか悩むクレアさんに、セバスチャンさんがシェリーの助け舟を出す。

 レオが護衛として十分なのはわかっている事だが、シェリーはどうなのか……子供だがフェンリルなのだから、もしかしたら戦えるのかもしれない。

 森の中で見つけた時は複数のトロルドにやられていたが、あれは囲まれていたから仕方ないだろう。

 1対多数って力の差が無いと難しいと思う。


「……シェリー、大丈夫? 街に行ったら人がいっぱいいるから当然、襲い掛かってはいけないし、はしゃぎまわってもいけないのよ?」

「キャゥ!」

「ワフワフ」


 セバスチャンさんの言葉を聞いて、クレアさんはシェリーに問いかける。

 シェリーの方は大丈夫とばかりに頷き、レオがちゃんと見ておくと言うように頷きながら鳴いていた。


「レオも見てくれるようですし、大丈夫でしょう」

「そうですね……わかったわ。シェリーも街に行きましょう」

「キャゥキャゥ」

「シェリーも一緒なんですね」

「ワフ」


 最後に俺の後押しで、クレアさんはシェリーを連れて行く事を許可。

 それを受けて、シェリーは喜びを表すように尻尾をブンブン振りながらクレアさんの周りを駆け回る。

 ティルラちゃんもレオも、シェリーが一緒で嬉しそうだ。

 遊びに行くわけじゃないが、皆一緒ってのは楽しい事だな。


「すみません、タクミ様。今回ラクトスの街で薬草を販売するため、追加で栽培して欲しい物があるのですが……」


 駆け回るシェリーを微笑ましく見ていたら、セバスチャンさんに声を掛けられた。

 前回栽培した物はほとんどエッケンハルトさんが持って帰ったようだから、ラクトスで販売するには数が足りないんだろう。


「わかりました。注文書……というより、必要な薬草はすぐにわかりますか?」

「夕食が終わる頃には注文書を用意させます」

「それなら、夕食後と明日に分けて用意しておきます」

「お願いします」


 夕食後には、剣の素振り前後にでもやればいいだろう。

 鍛錬のため、すでにティルラちゃんの分も含めて『雑草栽培』を使ってるから、今日と明日で半々ずつ作れば倒れる事も無さそうだしな。


「タクミさん、無理はなさらないで下さいね」

「ははは、大丈夫ですよ。鍛錬をして体も鍛えてますからね。多分、以前より倒れにくくなってると思います。それに、心配をかけないよう無理はしませんよ」

「……それなら良いのですけど……」


 クレアさんは、以前にも増して俺が無理をしないか心配してるようだ。

 まぁ、クレアさんの目の前で倒れたからなぁ……心配になるのも仕方ないのかもしれないな。

 セバスチャンさんから、「体を鍛えるのと、ギフトで消費される体力は違うと思いますよ?」と言われてるような視線を受け流しつつ、クレアさんを安心させるように笑って食事を続けた。




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