第116話 ラクトスの街販売分の薬草を作りました



 食後、お茶を飲んでいると食堂にセバスチャンさんではない執事さんが一人、用紙を持って入って来た。

 それを受け取ったセバスチャンさんは、内容を確認するように目を通した後、執事さんを下がらせた。

 執事さんは俺達に一礼して食堂を後にする、それを眺めていた俺にセバスチャンさんが近づき、用紙を渡してくる。


「タクミ様、こちらが今回お願いする薬草のリストになります」

「はい、確認します」


 執事さんが持って来た用紙は注文書だったみたいだ。

 セバスチャンさんから注文書を受け取り、内容を確認。

 えっと、ロエが1つに他の薬草がそれぞれ……。

 前回栽培した薬草と種類は変わらないようだな、多分よく使う薬草がこれらなんだろうと思う。

 珍しい薬草も見たかったが、それはまたそのうち注文があるかもしれないな。


「ロエの数はこれで良いんですか?」

「はい。最初にタクミ様が『雑草栽培』を試用した時に栽培された物もあります。それに、高価な薬草は多くの数を用意しない方が良い事もあるので」


 初めて『雑草栽培』を試した時、ロエを結構な数栽培したんだっけな、そう言えば。

 それに、公爵家との契約の話になった時、大量に市場に流せば混乱を招きかねないと言われてたから、その調整もあるんだろう。

 高価な物の価値を保つためには、数を出さない事も一つの手だからな。


「これなら倒れる心配は無さそうですね。前回よりも少ないですから」

「そうですか。良かったです」


 注文書を見る俺を、心配そうな表情で見てたクレアさんに笑って話す。

 ちょっと心配し過ぎな気がするが……。

 注文書は前回の薬草より少ない数だ、エッケンハルトさんが持って行かなかった分もあるからだろうと思う。

 剣の素振り後にでも簡単に出来そうな量だが、クレアさん達をこれ以上心配させないためにも、無理せず今日と明日で分けて栽培しよう。

 ……いずれ、どれくらいが1日でギフトを使える限界なのか研究しておかないとな……持続時間とかもあるから、すぐにわかる事じゃないかもしれないが。


「それじゃ、ティルラちゃん。素振りに行こうか」

「はい、頑張ります」


 注文書を持って椅子から立ち上がり、ライラさんに預けていた剣を受け取る。

 さすがに食堂で剣を持ったまま食事というのは行儀が悪いからな。

 同じように剣を受け取ったティルラちゃんを連れて裏庭に出る。

 先に素振りを済ませ、体力回復の薬草を作るついでに注文書を見ながら薬草を栽培させる。

 体力回復の薬草と、熟睡薬草をティルラちゃんに分けつつ、栽培された薬草を採取して一緒に来ていたライラさんに渡す。

 いつも素振りの間、見守ってくれてるライラさん、ありがとうございます。

 その後は、風呂に入って汗を流した後、熟睡薬草を食べてベッドに入った。

 今日はレオの機嫌が良く、体の半分をベッドに乗せていたので、フワフワの毛を枕に出来た。

 薬草と相俟って、今日は気持ち良く寝られそうだな。


―――――――――――――――――――


 翌日、いつものように朝食を食べた後は昨日と同じようにレオとの鍛錬。

 ティルラちゃんと二人で一生懸命剣を振るが、今日もかすりもしなかった。

 ……レオ、ちょっと動きが速過ぎないか……?

 まぁ、手加減され過ぎても鍛錬にならないんだが……ちょっと悔しい。

 ティルラちゃんと一緒に、どうやればレオに剣を当てられるかを相談しつつ、日課になったランニング等の基礎鍛錬をこなす。


「タクミさん、昼食の時間ですよ」

「はい、ありがとうございます」


 鍛錬に集中して時間を忘れそうになった俺に、クレアさんが昼食の時間を知らせてくれた。

 集中するのは良いけど、ちゃんと食べないと体に悪いからな。

 裏庭から屋敷へ戻り、昼食を食べる。

 昼食後は、ティルラちゃんとは別行動だ。

 俺はまず、昨日頼まれた薬草の残りを『雑草栽培』で作り始める。

 ティルラちゃんの方は勉強だ。

 明日の分も頑張って終わらせるって言ってたから、明日は一緒にラクトスの街へ行けるだろう。


「……こんなもんかな」


 薬草を栽培し終え、採取を始める。

 採取するついでに、『雑草栽培』の状態変化の能力でいつでも薬として使える状態に変える。

 段々この作業にも慣れて来たな……使い過ぎると危ないかもしれないが、これくらいなら大丈夫だ。

 エッケンハルトさんの前で栽培して見せた時より時間を短縮出来たと思う。


「タクミ様、どうですかな?」

「セバスチャンさん、ちょうど出来た所ですよ」


 様子を見に来たセバスチャンさんに、出来上がった薬草や薬を渡しながら答える。


「ふむ……さすがですな。どれも品質として確かな物です」

「それなら良かった」


 セバスチャンさんは色々な知識を持ってるから、一般的な薬は見ただけで良い悪いの判断が出来るんだろうな。

 セバスチャンさんのお墨付きなら安心だ。


「では、今回の報酬は後程。ありがとうございます」

「いえいえ、これくらいならいつでも大丈夫ですよ。『雑草栽培』も使い慣れて来ましたからね」


 報酬は後との事だけど、今の所すぐに使う予定も無いからいつでも良い。

 こういう事はしっかりとした仕事をするセバスチャンさんだから、今夜にでも持って来るんだろうけどな。

 薬草作りが終わったら後は鍛錬の時間。

 明日は街に行って鍛錬を休むから、少しだけ多めにこなした。

 疲労は蓄積されるけど、俺には『雑草栽培』があるからな。

 薬草をいくつか栽培しておいて、鍛錬に疲れたら薬草を食べるの繰り返しだ。


「ワフ」

「タクミ様、あまり無理はなさらない方が……」


 途中、俺の鍛錬を見ていたレオとライラさんに止められてしまった。

 薬草で体力を回復してるとは言え、無理してるように見えたみたいだ。

 ……ちょっと鍛錬をする事ばかりに気を取られてしまったようだな……。

 心配してくれたレオとライラさんに感謝しつつ、今日の鍛錬を終える。

 気付いたらもう夕食の時間だ。

 時間を気にしない程打ち込んだと考えるべきか、休憩を考えずに無理して鍛錬をしてしまったと考えるべきか……。

 ペース配分が難しいなぁ。

 何て考えながら、レオやライラさんと一緒に食堂へ向かった。



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