第104話 レオは鍛錬に賛成なようでした

「……それに……クレアを守るのにも必要かもしれんからな……」

「お父様、それは一体どういう事ですか?」

「いや……もしクレアと一緒になったら、男であるタクミ殿が守るべき事だろう?」

「そんな!? 私とタクミさんが一緒になるなんて!?」


 エッケンハルトさんの言葉に、クレアさんが真っ赤になっている。

 ……んークレアさんは美人だから、俺よりもっと相応しい人がいると思うんだけどなぁ、それに俺なんかじゃクレアさんに申し訳ない。

 というかエッケンハルトさん、まだクレアさんにお見合い話を持ってくる癖みたいなのが治ってないのかな……? 今まで長い間そうして来たからかもしれないけど……。


「姉様とタクミ様ならお似合いです!」

「ティルラまで!?」


 話を聞いていたティルラちゃんまで、クレアさんを俺に推して来た。

 セバスチャンさんも、ニヤリとした笑みを隠そうとしていない……皆して俺とクレアさんをくっつけようとしてるのかね?

 ……なんでこんな話になったんだろう……。


「……それはともかく、エッケンハルトさん。俺が武器を学ぶ場合、どうしたら良いですか?」

「あぁ、そうだな……」


 俺が話しを変えるためにエッケンハルトさんに声を掛ける。

 ちょっと強引だったかもしれないが、話しが変わった事にクレアさんはホッとした表情で、セバスチャンさんは不満そうな表情だ。

 この執事さんは……まったく。


「タクミ殿にはまず、私が剣を教えよう」

「エッケンハルトさんが?」

「……お父様の悪い癖がまた……」


 どうやら俺にはエッケンハルトさんが教えてくれるらしい。

 公爵家の当主が自らっていいんだろうか……?

 見た目がゴツイ山賊風なのもあって、剣が扱えるのは何も不思議じゃないけどな。

 クレアさんの方は溜め息を吐くような仕草だ。


「タクミさん、お父様は見込みのある人を見つけるとすぐに剣を教えたがるんです。この屋敷の護衛の方達も何人かはお父様に教えてもらった経験があります」

「それは凄いですね。エッケンハルトさんはそんなに剣の扱いが上手いんですか?」

「そうですな……旦那様は王都の騎士団長に勝つ程の腕前です。この国ではトップクラスの実力でしょう」

「はっはっは。騎士団長は日頃の鍛錬が足りて無いようだったからな。全く、団長だからと事務仕事ばかりやってるからだ」

「旦那様、騎士団長はその名の通り騎士団を纏める者なのです。裏方仕事が多くなるのも無理はありませんよ」


 エッケンハルトさんは凄い剣の達人だったみたいだ。

 そんな人に教えてもらえる俺は運が良い……のかな……厳しそうだけど……。


「剣は全ての武器の基礎だからな。剣が扱えるようになれば他の武器も慣れるのが早くなる」

「……お父様の持論です」


 剣が全ての基礎というのを俺がわかるわけじゃないが、どれか一つの武器でも扱えるようになれば、他の武器に慣れるのが早くなるというのはわからないでもない。

 刃物を扱うという事にまず慣れないといけないけど。


「よし、食事が終わったら早速鍛錬だ!」

「……お父様、タクミさんは先程までギフトを使っていたのですよ。ギフトの過剰使用による弊害は伝えたはずですけど」

「……確か、急に倒れるんだったか?」

「その通りです。ギフト使用がどう作用するのか、わかってる事は少ないのです。今日は止めておいた方が無難でしょうな」

「うぅむ……しかしな……武器は出来るだけ早く鍛錬を始めた方が……」


 食後にすぐ鍛錬を開始しようとしたエッケンハルトさんを、クレアさんとセバスチャンさんが止める。

 さっきまで『雑草栽培』を使って薬草を作ってたけど、今の所何も疲労とかは感じて無いから大丈夫だとは思う。

 けど、以前倒れた時も急な事で何も疲労は感じて無かったからなぁ。

 無理をしないために今日は止めておいた方が良いのかもしれない。

 鍛錬とギフトで使う体力的なものが同じかどうかはわからないけどな。

 エッケンハルトさんが、今すぐにでも鍛錬を始めたそうにしているのをクレアさんとセバスチャンさんに止められるのを眺めつつ、昼食は終わった。

 部屋に戻って一息。

 レオと一緒に戻って来て、さっきの話を思い出している。


「剣の鍛錬かぁ……レオ、俺に必要だと思うか?」


 ベッドの端に腰を下ろしながら呟く。

 剣というものに憧れみたいなのがあるにはあるが、実際に扱うとなるとしり込みしてしまう。

 剣を持つという事は相手を傷つける可能性があるという事でもあるからな。

 しかし、エッケンハルトさん達が言うように自分の身も守らなければならない。

 レオを残して俺だけ死ぬわけにもいかないから。


「ワフ」


 レオは俺の言葉に頷くように返事をする。

 レオも俺が武器を扱えるようになる事には賛成なようだ。

 確かにレオが付いてこられない場所もあるから、離れてしまう事もあるだろう。

 それにいつまでもレオにばかり守られるというのも気が引ける。


「そうだな、エッケンハルトさんもやる気になってるんだから、やるだけやってみるか」

「ワフワフ」


 俺が気を取り直して、剣の鍛錬に前向きになると、レオは嬉しそうに鳴きながら尻尾を振ってくれた。

 どうやら、レオは俺が戦えない事を心配してるみたいだ。

 レオに心配をさせてるままじゃいけない、か。


「ありがとうな、レオ。いつまでもお前に守られてるだけじゃ駄目だからな。頑張ってみるか」

「ワフ……ワフゥ」


 そんな事は気にしなくてもいいよとばかりに首を振るレオだが、いつまでもレオにばかり頼っててもいけないからな。

 やると決めたからには前向きに、だ。

 どこまでやれるかわからないし、そもそも素養が無いかもしれない。

 だけど、自分の身はある程度自分で守れるようになりたいと思う。

 剣を使うための決意をしていると、部屋の外から声が聞こえた。


「タクミ様、よろしいでしょうか?」

「はい? どうぞ」


 部屋の外からノックの音と一緒に聞こえたのはセバスチャンさんの声だ。

 どうしたんだろう……契約関係は昨日のうちに済ませたし、何か用がある事ってあったっけ?

 俺はベッドから立ち上がり、部屋の扉を開けてセバスチャンさんを部屋に招き入れた。


「ワフ」

「レオ様はご機嫌がよろしいようですな」

「ははは。俺が剣の鍛錬を受ける事を決めた事が嬉しいらしいです。自分の身を守る手段が無いのはレオに心配をかけてしまってたようなので」

「そうですか。これでレオ様の心配も少しは軽減されるかもしれませんな」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る