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第103話 自分の身を守る方法が必要との事でした
第103話 自分の身を守る方法が必要との事でした
「お父様、タクミさんが痛がっています。……その癖は治らないんですか?」
「おお、済まなかった。嬉しくなるとついな……治そうとは思ってるんだが……」
クレアさんに注意されてようやく俺を叩くのを止めたエッケンハルトさん。
やっぱり癖だったのか……これからは警戒しておいた方がいいかな? ……服の中に固い物でも入れてた方が良いかもしれない。
その後しばらく、『雑草栽培』の有用性を喜ぶエッケンハルトさんと、利用法を考えるセバスチャンさんに囲まれて過ごした。
途中、クレアさんから俺に無理はさせないと言ってくれたのは嬉しかったかな。
まぁ、セバスチャンさんやエッケンハルトさんも、無理な事は言って来ないだろう……きっと……多分。
メイドさんが昼食の準備が整ったと報せに来た事でその場はお開きとなった。
セバスチャンさんは俺が作った薬草を保管するために別れ、クレアさんとエッケンハルトさんは販売法等を相談しながら食堂に向かう。
俺はレオに乗ってるティルラちゃんとシェリーを相手に雑談しながらクレアさんについて行った。
レオはティルラちゃん達と遊べたことで満足そうだった。
食堂に入り、セバスチャンさんや配膳を待って昼食の開始。
相変わらず美味しいヘレーナさんの料理を食べてると、ふとエッケンハルトさんが呟いた。
「タクミ殿は剣が使えるか? いや、剣に限らず武器なら何でもいいのだが」
「お父様、急に何を?」
「……剣……ですか……」
剣……いや、武器か……。
竹刀すら持った事が無いからなぁ……一応木刀なら持った事がある……学生の時に行った旅行先に売ってた土産物屋でね………本当に持っただけだから何にも役に立たないが。
刃物は包丁くらいか……一応森の中でセバスチャンさんに借りたショートソードがあるが、あれは念のために持たされて露払いや枝葉を切るのに振り回してただけだ。
とてもじゃないが使えるとは言えないだろうな。
「武器類は……使った事がありませんね」
「ふむ……そうか……」
「何を考えてるんですか?」
俺が武器を使えないと聞いたエッケンハルトさんは、豪快に料理を食べる手を止め、片手を顎まで持って行って髭をさすりながら考え始めた。
クレアさんが疑問に思ってエッケンハルトさんに聞いてるが、それにも取り合わず何事かを考えてるみたいだ。
俺が武器を使えないと何か不都合でもあるのだろうか?
しばらくそのままエッケンハルトさんの様子を見ながら食事を進める。
皆が食事を終えた頃、エッケンハルトさんの考えが纏まったのか、食事を再開させながら言って来る。
「タクミ殿、武器は何か使えた方が良いと思うぞ」
「……武器をですか……?」
「そうだ。タクミ殿にはレオ様がいるが、いつでも一緒というわけではないだろう」
「ワフ」
エッケンハルトさんの言葉に反応するレオ。
俺と離れずに俺を守るとでも言いたげな表情だ。
そんなレオを撫でて感謝しつつ、エッケンハルトさんが話す内容を聞く。
「タクミ殿の栽培する薬草販売は成功するだろう。『雑草栽培』の能力を見れば成功しない方がおかしいとさえ思える。だがな、そうすると必ずどこかからタクミ殿の事を狙う輩が出て来るものだ」
「……そういうものなんですか?」
「まぁ、誰だって成功が約束された商売のタネは欲しがるものだろう。もちろん、我が公爵家からタクミ殿の事は広がらないよう徹底する……徹底はするが……」
「タクミ様、情報と言うのはどれだけ厳密に扱おうと、どこからか漏れるものでございます」
エッケンハルトさんの言葉を継ぐように待機していたセバスチャンさんが言う。
確かに、情報を秘匿しようとしても必ずどこからか漏れるものだと思う。
人の口には戸を立てられないとは言うが、ネットとかが無い分この世界で情報が広がる速度は速くないとは思う。
けど、その分口コミというか噂話はかなりの速度で広がって行くはずだ、良い事も悪い事も。
公爵家が管理していてもどこからか俺が薬草を栽培してる事は漏れてしまうのだろう。
「それはわかりますが……薬草程度で狙われるものですか?」
「薬草程度と言うがな、この国では病気や怪我等、薬草に頼らざるを得ない事が多いのだ。しかもタクミ殿は高価なロエも簡単に栽培が出来る……」
「それにですな、薬草が栽培出来るという事は毒も……という事もあります」
「毒……」
今まで毒になる物の栽培は試したことが無かったから確実とは言えないが、俺の『雑草栽培』なら出来てしまうだろう。
薬草の中にも、使い方を間違えれば毒になる物もあるし、毒がそもそも薬草という事もある。
「毒を欲しがる輩……ろくな相手じゃないのは確かだが、そういう連中に目を付けられる可能性もある。単純に商売の利益のためというのもいるだろうがな」
「逆に、薬草で商売している人に目の敵にされる可能性もありますね」
エッケンハルトさんとセバスチャンさんが言いたいのは、俺の利用価値が高いために色んなところから狙われる可能性があるという事だろう。
「だからな、タクミ殿。最低限身を守る方法。それか襲われても逃げる方法を考えておかなければいけない。この屋敷にいる間はここにいる兵士達が守ってくれるだろうが、外に出れば何があるかわからんからな」
「確かにそうですな。それに、今はいつもレオ様と一緒にいますが、もしレオ様と離れた時を狙われるとしたらと考えると、旦那様の考える事もわかって来ます」
「タクミさんは武器を扱えた方が良いのですね」
「ワフ……ワウワウ!」
成る程ね……ちょっとした時にレオと離れる時もあるだろう。
それこそラクトスの街に行った時は、店に入れないレオを外に置いてという事もあった。
そういう時に狙われたら俺だけじゃ自分の身を守れないかもしれない。
レオも同じように考えたのか、エッケンハルトさん達の言葉に頷いている。
……少しだけ、俺と一緒にいる時は絶対守ってみせると意気込んでる雰囲気もあるが……今はその時じゃないからな、落ち着いて良いぞレオ。
隣にいるレオを撫でながら、感謝を伝えつつ落ち着かせた。
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