第102話 エッケンハルトさんを驚かせることに成功しました



 エッケンハルトさんは『雑草栽培』が植物を栽培するだけの能力だと考えてるんだろう。

 だから俺は、実際に見せる事にした。

 説明するだけじゃなくて目の前に試せる物があるんだから、その方が早いしな。

 セバスチャンさんと場所を交代して、俺は小さな薬草畑に近付き植物の採取を始める。


「何が始まるんだ?」

「まぁ、見てて下さいお父様」

「タクミ様の『雑草栽培』は、本当に素晴らしい能力だと思いますよ、旦那様」


 俺が何をしようとしてるのかわからないエッケンハルトさんに、クレアさんとセバスチャンさんが俺に注目するよう言ってるけど、そんなに持ち上げられたらちょっとやりにくいな……。

 特にセバスチャンさんがべた褒めなのがなぁ……。

 集中が乱れないようにそちらから注意を逸らし、俺は小さな薬草畑で栽培させた薬草を種類毎に纏める。

 ロエだけは、特にやる事も無く、採取したら後は使用する時に切って葉の内部を出せばいいだけだ。

 他の薬草は、本に書かれてる効果を頼りにする。

 各種類をそれぞれ手に取り、乾燥させたり、すり潰した状態にしたりと、一番効果を発揮する状態にして行く。

 その途中で、一つ思い付いた事があったので片手間に今までとは違う薬草を生えさせる。

 その薬草も、効果が出る状態にして終了だ。

 時間にして大体30分くらいだっただろうか。

 採取する時間を短縮したらもう少し早くなりそうだな。


「……タクミ殿は何をしたんだ? 薬草を採取するのはわかるが、一瞬で乾燥したりしていたぞ」

「いつ見ても、驚きますよね……」

「これがあるおかげで、薬草栽培から販売までの時間がかなり短縮されるでしょうな」


 首を傾げて不思議がってるエッケンハルトさんをよそに、クレアさんは驚きながらも楽しそうにしている。

 セバスチャンさんは、俺の能力を使った販売方法なんかを考えてるようだ。

 確かにすり潰したり、乾燥させたりの手間が省ければ販売するまでの時間短縮にもなるな。

 俺は採取した薬草達をセバスチャンさんに渡し、エッケンハルトさんに近付いて、さっき思い付きで栽培した薬草を一つ、エッケンハルトさんに渡す。


「エッケンハルトさん、物は試しです。こちらを食べてみて下さい」

「これは何だ? 見た事の無い物だが……」

「これはあの時の薬草ですね、タクミさん」


 食べた事のあるクレアさんは気付いたようだ。

 エッケンハルトさんは、俺に渡された薬草を不思議そうに見ながら口にするのを躊躇っている。

 見た事も無い紫のまだら模様の葉っぱなんて、まだ会って間も無い男から渡されたら誰だって躊躇するのは当然か。

 俺がエッケンハルトさんに渡した薬草は、森の中でクレアさん達に食べてもらった疲労が回復する薬草だ。

 年齢のせいかはわからないが、エッケンハルトさんくらいの年になると寝ても疲れが取れないらしい。

 馬を飛ばしてこの屋敷に来たのなら、まだ完全に疲れは取れてないだろうからな。


「旦那様、その薬草は私もクレアお嬢様も食べた事があります。毒ではありませんのでお気になさらずお食べ下さい」

「……わかった。……ゴク」


 セバスチャンさんの勧めもあって、躊躇してたエッケンハルトさんも一気にその薬草を口に入れる。

 勢いを付けるために目を強く閉じて口に入れたが、その味の悪さから眉をしかめた。

 さすがにしっかり味わって噛んで食べるわけにはいかなかったのか、すぐに飲み込んだエッケンハルトさんは、目を開けて訝しがるように俺を見る。

 その数秒後、段々と驚いた顔になった。


「……なんだこれは……体の疲れが取れたような気がするぞ!? いや、実際に疲れを感じないのか……こんな薬草があるのか!?」

「それはタクミさんが『雑草栽培』を研究して作った薬草のようです」

「新しい薬草までも……そこまで凄いのか『雑草栽培』というのは……」

「しかも、先程タクミ様が採取した薬草にされていたのは、薬草をその効果が一番出る状態に変えるという事のようです。つまりタクミ様は薬草を瞬時に栽培、採取した後、時間をかけずに使える状態に出来るのです」


 セバスチャンさんは俺の『雑草栽培』の能力を補足してくれる。

 実際に俺が『雑草栽培』を使って薬草を栽培し、採取した薬草を使える状態にした事。

 さらに本にも載って無い薬草を作っただけでなく、効果が疲労回復と実感出来る物だった事。

 これらの事をエッケンハルトさんは頭の中で処理するのに四苦八苦してるようだ。

 表情が色々変わって見ていて楽しい。

 ちょっとエッケンハルトさんには悪い事をしたかな……ここまで一気に『雑草栽培』の事を伝えて驚かせなくても良かったかも知れない。

 でも、公爵家当主のエッケンハルトさんなら、もしかするとこの先色々な販売方法や使い方を考えてくれるかもしれない。

 信用できる相手には、しっかり情報を伝えておいた方が良いと思うんだ。

 人をだまして利用したりする人物には見えないし……クレアさんの父親というのが信用できる大きい理由かもしれないけどな。


「『雑草栽培』……ここまでのものとは……これは本当に契約してくれたタクミ殿には感謝しなければな……ギフト……凄い能力だ」

「旦那様、ギフトは未だ解明されていない能力です。全てがタクミ様のような役に立つ能力とは限りません」

「そうだな……タクミ殿、『雑草栽培』をここまで使える事、利用法を考える発想……益々気に入ったぞ! はっはっは!」


 ギフトが全て誰かの役に立つ能力とは限らないが、俺の能力はこうして誰かの役に立てる事が出来る能力なんだ。

 改めて、誰かは知らない、何故かもわからないこの能力を授けてくれた相手に感謝をしたいと思った。

 ……『雑草栽培』で作った薬草が役に立つのはこれからだが。

 エッケンハルトさんは、『雑草栽培』を大いに気に入ってくれたようで、疲れも取れた事もあり、豪快に口をあけて笑いながら、俺の肩をバシバシと叩く。

 ……これ癖なのかなぁ……相変わらず痛いんだけど……。

 肩を叩く音と、エッケンハルトさんの大きな声を聞いたレオとティルラちゃん、シェリーが離れた所から不思議そうな顔でこっちを見ている。

 こっちの事は気にせず、そのまま遊んでていいからなー。

 声には出さないから伝わってないだろうな。

 痛みを我慢していたら、クレアさんから制止が入った。



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