第101話 『雑草栽培』で公爵家に卸す薬草を作りました



「タクミ様、こちらを」

「これは……注文書ですか?」

「はい。まずは……となりますが、タクミ様に栽培してもらう薬草を纏めました」


 裏庭に出てすぐセバスチャンさんから渡された用紙には、薬草の種類と個数が書かれており、それを納品する事でいくらの報酬が得られるかも書いてあった。

 ふむ……ロエが葉っぱ1枚で金貨1枚……か……この世界の通貨価値がどうなってるのかわからないから、高いのか安いのかわからない……。

 今度暇な時に誰かに聞いておかないとな。

 しかし、この注文書に書かれてる個数は……。


「セバスチャンさん、数が少ないような気がするんですが?」


 俺が『雑草栽培』を使えばほんの数秒……かかっても数十秒で一つの薬草が出来る。

 それは良く見ているセバスチャンさんもわかってるはずなんだけど……。

 ロエも含めて薬草の種類が8種類、数がそれぞれ10個だとすぐに終わると思う。


「それに関しては、先日タクミ様が倒れられた事を考えましてな」

「タクミさんに無理をさせないためですね。どれだけ能力を使えば限界が来るのかがまだわかっていません。安全のためにも、様子をみながらが良いと思います。それに、タクミさんは『雑草栽培』の研究をしようと考えてます。それなら研究をするためにも余力は残しておいた方が良いと考えました」

「……そこまで気遣ってくれていたんですね。ありがとうございます」


 契約内容で俺に有利な条件といい、俺をこの屋敷に住まわせてくれてる事といい、ほんとにありがたい限りだ。

 以前の研究から考えると、もっと数が多くても大丈夫だろうが、今はクレアさんとセバスチャンさんの気づかいに甘えよう、無理して前の仕事の時のようになったらいけないからな。


「何だ、クレア……タクミ殿には随分優しいんだな?」

「そ、そんなんじゃありません! これはセバスチャンと相談して決めた事です!」

「いえ……これはクレアお嬢様が……」

「セバスチャン!」

「……失礼しました」


 エッケンハルトさんの言葉に顔を真っ赤にさせて叫ぶクレアさん。

 エッケンハルトさんはニヤニヤしてるし、クレアさんに言葉を止められたセバスチャンさんも同じような顔をしてる……何だか二人とも似たような雰囲気だ……これは危険な気がする。


「ええと、それじゃあ『雑草栽培』をお見せしますね」

「ワフ!」

「レオは……ティルラちゃんやシェリーと遊んでなさい」

「ワフ……」

「レオ様と遊びます!」

「キャゥ!」


 俺が話しを中断させ、『雑草栽培』を試そうとすると、レオが急に主張して来た。

 レオは『雑草栽培』を使う俺を心配してるのかもしれないが、大丈夫だ。

 少ししょんぼりしてしまったレオだが、ティルラちゃんが体に抱き着き、シェリーもそこが気に入ったのか、レオの背中にジャンプして乗った。

 そのままレオは俺達から離れ、ティルラちゃんとシェリーを背中に乗せて裏庭を走り始めた。


「……ほんとにティルラを乗せて遊ぶんだな……シルバーフェンリルなのに」

「レオは人懐っこいうえに子供好きですからね」

「よくティルラの遊び相手をしてくれてますよ」


 レオが主張して来た時に、体をビクッとさせて俺から少しだけ距離を取ったエッケンハルトさんが、改めて俺に近付きながら呟く。

 まだレオに対して恐怖心があるんだろうな……シルバーフェンリルの怖さというか、強さを知ってる人程レオは恐怖の対象なのかもしれない。

 そのうち慣れてくれると良いな、レオがいつまでも怖がられていたらかわいそうだ。


「さて、では『雑草栽培』を使います」

「……わかった」


 俺は部屋から持って来ていた薬草について書かれた本を片手に持ち、少しだけエッケンハルトさん達から離れる。

 まだ薬草について全て覚えたわけじゃないから、本を見ながら栽培しないとな。

 まずは本を見なくても覚えてる薬草、ロエの栽培だ。

 ロエの形と効果を思い浮かべながら地面に手を付き、『雑草栽培』を使う。

 それから約1時間後、俺の周りには薬草の小さい草原のような、薬草畑が出来ていた。


「えっと……これで書かれてた薬草全部ですかね?」

「確認します」


 薬草を踏まないように気を付けながら小さな薬草畑から離れ、セバスチャンさんに聞く。

 セバスチャンさんは、俺に渡した用紙と同じ物を取り出し、それを見ながら薬草の種類と個数の確認を始めた。


「タクミさん、体の方は大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよクレアさん。これくらいなら、森に行く前の研究で試してますから」


 あの時はもう少し広い草原になったんだっけな。

 色々試すために自分で食べたり、森に持って行ったりして全部無くなったけどな。


「『雑草栽培』とは凄い能力なのだな。あの珍しいロエがこんなに簡単に生えて来るとは……」


 エッケンハルトさんは、セバスチャンさんが確認している小さな薬草畑を見ながら呟く。

 ロエがどれ程珍しい植物なのかはまだよくわからないが、エッケンハルトさんも驚くくらい、ロエを一気に葉っぱ10枚栽培したのはすごい事らしい。


「興味が強かった事だが、この能力……本当に公爵家の利益が大きいな……タクミ殿、改めて契約を結んでくれた事、礼を言う」

「いえそんな。俺の言ってる事を信じてくれて、このお屋敷で暮らさせてくれるだけでもありがたいのに、俺に有利な条件の契約にしてくれたんです。お礼を言うのはこちらの方ですよ」


 お世話になった人達のためにこのギフトが使えるのならそれで良いと思う。

 さらに生活が出来る程の報酬がもらえるのだから、俺としては十分過ぎる程だ。


「タクミ様、確認できました。注文書の内容ぴったりでございます。ありがとうございました」

「良かったです。数とか種類も間違えて無かったんですね?」

「はい。全て注文書の通りでした」


 本でしか見た事の無い薬草もあったから、間違えないようには気を付けてた。

 セバスチャンさんに確認してもらって、間違えて無かった事を聞くと安心出来た。

 さて、あとは採取して栽培した物の状態を整えるだけだな。

 『雑草栽培』を使えば単純に栽培するだけじゃなく、薬等のその植物が一番効果を示す状態に出来るからな。


「それじゃ、セバスチャンさん。採取してしまいますね」

「はい、お願いします」

「ん? タクミ殿が自ら採取するのか?」

「ええ。俺が採取した方が都合が良いんです」


 エッケンハルトさんにそう言いながら、俺は小さな薬草畑に近付いた。



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