第100話 『雑草栽培』を見せる事になりました



 翌日、朝の支度を済ませた頃に部屋を訪ねて来たティルラちゃんと一緒に食堂へ向かう。


「ワフ、ワフー」

「キャゥキャゥ」

「レオ様綺麗になったねー」


 レオはティルラちゃんを背中に乗せてご満悦だ。

 シェリーもティルラちゃんに抱かれながら、レオに乗れて喜んでるようだ。

 ティルラちゃんは風呂に入って綺麗になったレオの毛を触りながら喜んでる。

 嫌がるレオをちゃんと風呂に入れて良かったな。

 そういえば、フェンリルはシルバーフェンリルより小さいとは聞いてるけど、もしシェリーが育って人を乗せられるようになったら、ティルラちゃんは喜ぶだろうか?

 今はシェリーを抱き上げたり出来る事が嬉しいようだけど、大きくなった時に喜んでるティルラちゃんを想像しながら、屋敷の廊下を歩く。

 まぁ、シェリーがそこまでになるのにどれだけの時間が必要なのかわからないし、そもそもそんなに大きくなるのかもわからないけどな。


「どうぞ」


 客間に到着し、レオに乗ったままのティルラちゃんが俺の代わりに扉をノックして声を掛けてくれる。

 クレアさんの声で許可が出て、先に来ていたライラさんが中から扉を開けてくれた。

 ライラさん、さっきまで俺の部屋の前で待機してたはずなんだけどなぁ……挨拶した後は先に食堂へ向かったけど、もうお茶を用意し終えて扉を開けるまでやってるなんて……。

 本当にこの屋敷の使用人達は移動をどうしてるんだろう?

 なんて事を考えつつ、食堂に入り中ですでに待っていた人達に挨拶をする。


「おはようございます、クレアさん、セバスチャンさん」

「タクミさん、おはようございます」

「おはようございます、タクミ様」


 いつものようにテーブルについたあたりで、朝食が運ばれて来る。


「あれ? エッケンハルトさんは?」

「……お父様は昨日までの疲れを取るとかで、まだ寝ています」

「旦那様は朝が弱いですからなぁ……朝食を抜かれる事もよくあります」

「そうなんですか」

「お父様は寝坊助さんです」


 食堂にいないエッケンハルトさんの事を聞くと、クレアさんとセバスチャンさんがやれやれといった様子で教えてくれた。

 失礼かもしれないが、歳を取ると疲労が抜けにくくなるらしいからな……エッケンハルトさんがいくつなのかは知らないけど。

 見た目的には30前後くらいだが、クレアさんくらいの子供がいるから、40代くらいかもな。

 しかしティルラちゃん……寝坊助なんて言葉、この世界にもあるんだね……。


「お父様の事は放っておいて、朝食を頂きましょう」

「はい。……頂きます」

「はーい」

「ワフー」

「キャゥ」


 父親で公爵家の当主様であるエッケンハルトさんを放っておくのは少し気が引けたが、起きて来ないのなら仕方がない。

 クレアさんからの当たりが強い気もするけど、年頃の娘さんは父親に対してこういうものなのかもしれないな。

 元気に返事をするティルラちゃんとレオ、シェリー達に続くように、俺も美味しそうな朝食を頂く事にした。

 ヘレーナさん、今日も美味しい料理ありがとうございます、

 心の中でお礼を言って、お腹いっぱいになるまで朝食を楽しんだ。

 食後のデザートには、昨夜と同じくヨークプディンにバタークリームを乗せた物が出た。

 多分、またクレアさんのリクエストなんだろうけど……クレアさんが太ったりしないか少しだけ心配だ。

 デザートも食べ終え、食後のティータイムになろうかという時、食堂の入り口が勢いよく開いた。


「ワフ!?」

「キャゥ?」


 レオとシェリーは音に驚いて、そちらの方に顔を勢いよく向ける。

 俺も驚いた。

 大きく扉を開いて入って来たのはエッケンハルトさんだ。


「おはよう! クレアにティルラ。それにタクミ殿も揃ってるな!」

「おはようございます、お父様」

「お父様、おはようございますー!」

「おはようございます、旦那様」

「……おはようございます、エッケンハルトさん」

「……ワフゥ」

「キャゥ」


 朝が弱いとは思えないくらい高いテンションで食堂に入って来て、皆に大きな声で挨拶をした。

 クレアさんとセバスチャンさんは溜め息でも付きそうな雰囲気で、ティルラちゃんは元気よく挨拶を返してる。

 シェリーもティルラちゃんと同じように元気に返してるが、レオだけは「何だお前か……」とでも言うようにやれやれと言った返事になってる。

 ……レオ、一応この屋敷の一番偉い人なんだから、ちゃんとした挨拶を返した方が良いぞ?


「旦那様、朝食はどう致しますか?」

「いや、朝食はいい。それよりだタクミ殿」

「はい?」


 セバスチャンさんから朝食をどうするか聞かれたエッケンハルトさんは、それを断りつつ俺に声を掛けて来た。

 俺は扉が開く大きな音に驚いた事を落ち着かせるように飲んでいたお茶をテーブルに置き、エッケンハルトさんへと顔を向ける。


「タクミ殿の『雑草栽培』なのだが、実際に見せてもらう事は出来るか? 昨日はその能力を確かめもせずに契約してしまったからな」

「お父様……」

「旦那様……」


 クレアさんとセバスチャンさんが溜め息を吐きながらエッケンハルトさんを見ている。

 契約を結ぶのに、実際の能力を見ずに決めるなんて、当主様として良いのだろうか……。

 まぁ、クレアさんやセバスチャンさんの勧めや、何故か気に入られたという事があったからなのだと思うけどな。


「わかりました。それではこれから裏庭で見せますよ」

「おお、そうか! 見せてくれるか!」


 エッケンハルトさんのワクワクするような輝いた目を向けられて断れるわけがない。

 断る気も無かったけど。

 俺が見せる事に頷くと、エッケンハルトさんは満面の笑みで喜ぶ。

 クレアさんやセバスチャンさんが溜め息を吐くのもお構いなしだ。

 豪快という話は聞いていたが、どちらかと言うと、興味を持った事以外の細かい事は気にしない少年みたいな人だなと思った。

 もしかしたら、こういう所はクレアさんに遺伝してるのかもしれない。

 クレアさんも好奇心旺盛だからなぁ……セバスチャンさんも興味を持った事には前のめりな感じもするし……何だろう……公爵家……大丈夫かな……?

 俺が心配しても仕方ない事だろうけど、近くにいる人達だから心配せざるを得なかった。

 30分後、食後のお茶をしっかり楽しんでから俺達はエッケンハルトさんを含め、いつもの皆で裏庭に出た。


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