第85話 フェンリルの性別を確認しました



 今日は食堂じゃなくてここでの食事らしい。

 お腹が減って動けないとまでは言わないが、さすがにちょっと体がだるいと感じるくらいになって来たからありがたい。

 やっぱ栄養って大事なんだなぁ……と思いつつ、ライラさんが客間を出る前に淹れ直してくれたお茶を一口。


「すみません、タクミさん。起きた後、すぐに食事にすれば良かったですね」

「いえ、起きた時間が中途半端でしたからね。大丈夫ですよ。それに色々話してわかった事もあるので、これで良かったと思います」

「セバスチャンが特に、タクミさんのギフトに興味深々でしたからね」

「ははは」

「んんっ! クレアお嬢様、私はそのような……」

「あら? タクミさんが倒れてから、この屋敷に保管されて、ギフトの事を記してある文献を読み漁っていたのは誰かしら? それに、先程タクミさんの話にも身を乗り出すように聞き入っていたし」


 俺から見たら、クレアさんも十分身を乗り出して聞いてたと思うけどな……。

 まぁ、今はクレアさんがセバスチャンさんをからかう雰囲気だから、余計な事を言うのは辞めておこう。

 その後しばらく、クレアさんがセバスチャンさんをからかっていたが、ティルラちゃんがクレアさんも含めて、皆身を乗り出していたよねーと気軽に発言した事で収まった。

 子供って、時に大人が言いにくい事を平然と言うよな……。

 今回は別にどうでもいいような事だったけどな。

 ほどなくして、用意が出来た料理がライラさんとヘレーナさんによって運ばれて来た。

 俺が2日も寝たままだった事もあって、いきなり重い物を食べるのは体に良くないと気遣ってもらい、今日の夕食はオートミールをキャベツのような野菜で包んだ物だった。

 普段なら甘いオートミールは不味くてあまり好きじゃなかったが、ヘレーナさんの作ったロールキャベツの中身がオートミールになった物は、コンソメ風のスープとよく合っていて美味しかった。

 しばらく食事をしてない体の事を気遣ってもらっていながら、クレアさん達の倍食べてしまった。

 ……レオが呆れた溜め息を吐いていたのがちょっとだけショックだった……。

 食後、いつものように休憩のティータイム。

 ライラさんの淹れてくれたお茶が相変わらず美味しい。

 クレアさんと俺は、客間にあるテーブルについてお茶を楽しんでいるが、ティルラちゃんとフェンリルは食事が終わってすぐレオの所へ移動し、今はじゃれ合ってて楽しそうだ。


「そういえば、クレアさん」

「何でしょうか?」


 お茶のカップを置き、俺に答えるクレアさん。

 さすがは貴族令嬢、お茶のカップを持つ仕草も絵になるなぁ。

 おっと、今は置いておこう。

 話しかけておいて、クレアさんに短い時間だが見惚れてた俺を不思議そうな顔で見返しているからな、気を付けないと。

 後ろで控えているセバスチャンさんが俺を見てニヤリとしたような気がするが、気にしない。


「フェンリルの名前って決めてますか?」

「フェンリルの名前……そうでしたね……名前が無いと不便ですよね」


 まぁ、名前が無くてもフェンリルなんてレオ以外には今ティルラちゃんと遊んでるあいつしかいないから、呼ぶ事に困る事は無いと思うけど……でも名前って大事かなと思う。

 俺も、拾って来た子犬にレオって名前を付けてから家族の一員のような感覚になったからな。

 確かめもせずに勢いで付けたから……後で女の子とわかってちょっとだけ後悔したんだが……。


「不便という事はそこまで無さそうですけど、名前があった方が親しみやすいかなと思うんです」

「……そうですね……この子も名前があった方が良いと思いますし……ですが、どんな名前が良いでしょうか?」


 クレアさんはフェンリルの名前候補についてはまだ考え付いてないようだ。

 誰かの名前を付けるって結構考え込んでしまうよなぁ。

 なんて、勢いでレオの名前を決めた俺が考える事じゃないか。


「タクミ様は、レオ様の名前を決めた時、どういう事を考えて決めたのですか?」

「俺ですか? 俺は……」


 レオが隣にいる今の状況じゃ言いづらい……けどまぁ、いいか。


「あの時は、単なる勢いでしたね。しかも、レオって男の子の名前っぽいのに、決めた後にレオが女の子だってわかってしまって……」

「それは……」

「ワフゥ」


 レオに溜め息を吐かれた……。

 すまん、レオ。

 でも、今のシルバーフェンリルの姿ならレオって名前が相応しくて格好良いと思うぞ。


「セバスチャン、何かいい案は無いかしら?」

「そうですな……」


 おっと、クレアさんには俺が当てにならないと思われたようだ。

 そりゃまあ、女の子にレオって雄々しい名前を付けたら頼ろうなんて思わないか。


「それよりまず、このフェンリルって雄雌どっちなんですか?」

「それは私も確認しておりませんでしたな」

「そうでした。まずはそこの確認が必要でしたね」


 クレアさんもセバスチャンさんもどちらか確認をしていなかったようだ。

 これで俺と同じく性別とは合わない名前を付けられたらかわいそうだからな、気が付いてよかった。


「フェンリル、おいで」

「キャゥ?」


 クレアさんに呼ばれたフェンリルは、ティルラちゃんとじゃれ合っていたが、素直にクレアさんの所に歩いていく。

 ちゃんと言う事を聞きそうで、これなら躾とかも簡単そうだな。

 フェンリルに躾が必要かどうかわからないが、レオあたりが森にいる時から躾をしたそうにしてるからな……。


「どう、セバスチャン?」

「ええと……このフェンリルは雌のようですな」


 クレアさんはフェンリルを両手で持ち、お腹の方をセバスチャンさんに見せる。

 フェンリルって結構強い魔物なんだよなぁ……なのに無抵抗でお腹を見せるとは……子供だからなのか、クレアさんに懐いてるからか、それともレオの躾が行き届いているからか……。


「雌って事は、レオと一緒で女の子ですね」

「ワフ」

「女の子なら私とも一緒ですね!」


 フェンリルが女の子だとわかってティルラちゃんが嬉しそうな声を上げる。

 レオの方は、わかってたとでも言うように頷いていた。

 レオは知ってたのか、まぁ、似たような種族だからなのかもしれない。

 クレアさん達に言うと、フェンリルとシルバーフェンリルは別物だと言いそうだけどな。


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