第84話 公爵家と薬草の販売契約を結ぶことを決めました



「それでタクミさんは森の中で『雑草栽培』を使った時、役立つ薬草を栽培出来たのですね」

「そうですね、出発前日に研究してたおかげですね。あの場面で使える物が出来て良かったです」

「あの薬草には助けられましたからなぁ」

「そうね。正直、もう歩きたくないと思う程疲れていました。ですが、タクミさんの薬草のおかげでその後も探索を続けられましたし、フェンリルを見つける事も出来ました」

「そんなに凄かったのですか!?」


 クレアさんとセバスチャンさんが、森の中での事を思い出すように話してるとティルラちゃんが食い付いた。


「ええ。タクミさんの薬草のおかげで、今ティルラが抱いているフェンリルも助かったのよ?」

「やっぱりすごいです、タクミさん!」

「キャゥ?」


 クレアさんが俺を褒めるように言ったおかげで、ティルラちゃんから尊敬の眼差しが……。

 俺は『雑草栽培』で色々試しただけだからなぁ……疲労回復や感覚強化はまだしも、フェンリルの怪我を治した薬草なんて、あれ程上手く行くと思って無かったしな。

 そのおかげで倒れたみたいだが……。


「しかしタクミ様、持続時間での能力過剰使用の仮説と言い、まだまだ考えなければいけない事が多いようですな」

「そうですね……とりあえず、どういった効果の物が持続してしまうのかを考えようと思います。それとは別に、クレアさん達の方で売ってもらえる薬草も作って行きますよ」

「タクミさん、それじゃあ?」


 セバスチャンさんに答えつつ、クレアさんに以前話していた薬草販売の契約の事を言う。

 研究してた時には考えてたんだが、森に行ったりでまだクレアさんに言えなかったな。

 クレアさん達リーベルト家に薬草の販売をお願いすれば、俺の収入になる。

 『雑草栽培』を使ってだから、研究も一緒に出来て一石二鳥だ。

 収入の面だけで見れば、俺が自分で売った方が良いとは言われたがクレアさん達には凄くお世話になってる。

 こんな事くらいしか出来ないけど、少しでも貢献出来たら良いなと思った。

 まぁ、前の世界での仕事みたいに詰め込んだりせず、マイペースにのんびりやらせてもらおうと考えてるけどな。


「俺が倒れない程度に、ですけどね。それで良ければ薬草販売の契約をお願いしたいと考えています」

「ありがとうございます、タクミさん。公爵家を代表してお礼を言わせて下さい」

「そんな、いいですよお礼なんて。むしろ売ってもらう俺がお礼を言いたいくらいですから。実際の販売を始め、色々面倒な事を公爵家で引き受けてくれるんですから。それで報酬が出るなら楽して儲けるようなものですよ」

「報酬を出すのは当然の事です。我がリーベルト家は不正を許しません。タクミさんにも正当な報酬を約束します。ギフトを使っての事とは言え、リスクがある事が今回タクミさんが倒れた事で証明されました。決して、楽して儲けるなんて事はございません」


 クレアさんが言いたい事はわかるが、俺としては元々この能力は持って無かったものだ。

 何故か急に授かった能力で収入を得る事になるんだから、楽して儲けるという感覚が抜けないんだよなぁ。

 そのうち慣れるかな……慣れると良いな。


「ではセバスチャン、お父様にも話さないといけないわね」

「そうでございますね。旦那様の許可も無しに販売は出来ません。ですがクレアお嬢様……」

「わかってるわ……お父様と話すという事は、お見合いの断りも考えておかないといけない、でしょう?」

「はい。クレアお嬢様は旦那様と会わないよう、リーベルト家の別荘であるこの屋敷に滞在しておりますが……会わない間にどれだけのお見合い話が来ているのでしょうか……?」


 セバスチャンさんが途端に遠い目になった。

 クレアさんは何やら決意してるような雰囲気を出してるし……多少は無しを聞いてはいたが、クレアさんの父親、公爵家の当主様はそんなに……なのか?


「きっと断って見せます! タクミさんのためですもの、それにこれは我がリーベルト家のためにもなるわ!」

「そうですな。タクミ様には私共も恩ある方。その方のためになる事ならば、このセバスチャン……協力を惜しみません!」


 何だろうこのノリ……急にクレアさんとセバスチャンさんが熱血モードになった。

 そこまで気合を入れる事なのか……お見合いを断るって……。

 まぁ、俺は生まれてこの方お見合い話なんて一度も無かったから、わからない事だな。

 ちなみに、他の皆を見てみると、ライラさんとゲルダさんはやれやれといった雰囲気。

 レオとフェンリルは我関せず、ティルラちゃんは……あれ、ティルラちゃんがテーブルに突っ伏してる。

 前に、ティルラちゃんにもお見合い話を持って来るって言ってたから……かもしれないな。

 一部が熱くなってる中、突然客間にグゥーという間の抜けた音が響いた。

 あぁ……。


「……この音は?」


 クレアさん、真っ先にティルラちゃんを見るのは辞めてあげた方が良いと思う……さっきまでテーブルに突っ伏してたティルラちゃんがクレアさんに疑われて、顔をブンブン横に振りながら否定してるじゃないか。

 仕方ない、恥ずかしいがティルラちゃんが疑われたままじゃかわいそうだ。


「……すみません、俺のお腹の音です……」


 恥ずかしさのあまり、最後の方は蚊の鳴くような声になってしまった。

 いや、これだけの人の前でお腹の音が鳴った事を自白するなんて、一体何の罰ゲームだろう……?


「……タクミさんだったんですね……失礼しました」

「仕方ありませんな。タクミ様は倒れられて2日も寝たままでしたから。お腹がが減って当然でしょう」

「ずっと寝てたんですね……え? 2日も!?」

「はい。タクミ様は倒れられて丸2日、ずっと寝ておりました」


 倒れてから2日も寝てたのか俺……。

 そりゃお腹すくよな。


「それでは、時間も良いころ合いですし、食事にしましょう。ライラ、ゲルダ」

「畏まりました」

「はい!」


 随分と長く話し込んだみたいで、窓の外を見てみるともう日がほとんど沈みかけていた。

 これから用意するなら、夕食にちょうどいい時間だな。


「タクミ様、今日はこのまま客間にて食事をなさって下さい」

「わかりました」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る