第81話 倒れた原因を考えました



「それからすぐですね、視界が白く染まって何も出来ないまま意識が無くなりました。気付いたら、先程のベッドで寝ていたという感じですね」

「わかりました。ありがとうございます、話して下さって」

「いえ、自分でどういう事が起こったのか整理する事も出来たので、ちょうど良かったですよ」


 最初に思い出した時は身震いするような感覚になったが、冷静になって皆に話してるうちにそういった事は感じなくなった。

 同じ事が起こるのは嫌だが、思い出すくらいならもう何ともない。


「しかし、何であんな事になったんですかね? 俺はそんなに疲れてる感じはして無かったんですけど」


 森を探索したり、野営でテントに寝たり等、そういう疲れは確かにあった。

 けど、『雑草栽培』で栽培した薬草で体の疲労はほとんど無かったはずだ。

 ……精神的なもの……なのかなぁ……しかし、あの状態は以前仕事で倒れた時に似てた。

 あの時は休む時間もほとんど無くて、睡眠なんて2,3時間取れれば良い方。

 レオに餌をあげるためだけに自宅に帰ってまたすぐ出勤とか、冷静に考えたら意味わからない働き方をしてたからなぁ。

 自宅に帰って視界が真っ白になり、その場で倒れてしまった。

 その時はすぐに気が付いて、さすがにマズイと思って会社に欠勤の連絡をして病院に行った。

 まぁ、翌日には出勤したうえ、欠勤した事を上司に散々怒られたんだがな……。

 そんな事より今は今回倒れた理由だ。

 森にしばらく行っていたとはいえ、そこまでの疲労は感じていなかったはずだ。

 皆の顔を見渡すと、意味があまりわかっていなさそうなティルラちゃん以外、難しい顔をしていた。

 レオすら考え込むような表情をしている……器用だな……。

 あぁ、フェンリルもわかって無さそうだ。

 首を傾げてティルラちゃんと同じく不思議そうにしている。

 まだ子供だから仕方ないな。


「タクミ様、その……倒れられた事なのですが」

「はい」


 セバスチャンさんが難しい顔をして話し始めたけど、何か理由を知ってるのか?


「これは推測でして、確証があるわけではありません。もしかしたら、という事ですが……」


 セバスチャンさんが言う推測というのは何だろう。

 とにかく、思い当たる事があるようだからちゃんと聞こう。

 真面目な話だから、少しだけ姿勢を正すようにしてセバスチャンさんに向き直った。


「もしかすると、ギフトの影響かもしれません」

「ギフトが、ですか? しかし、今まで使ってきましたが何かが起こる事はありませんでしたよ?」


 それに、倒れたのはギフトを使ってる時じゃない。

 森でギフトは確かに使ったが、それは森から帰って来る前日だ。

 ギフトが原因ならその時に倒れるんじゃないだろうか?


「はっきりとギフトが原因とはいえないのですが……ギフトの事を記した文献にはこうありました。――ギフトの過剰使用により、意識を失う者有り。ギフトの使用には注意が必要である。しかし、使う頻度の多い者が倒れる事無く使い続ける報告例も有り。ギフトの能力で違うのか、それともギフト使用者で違うのか、解明する事は今だ適わず――と」

「ギフトを使用する事で倒れた人もいたんですね」


 過剰使用で倒れる、か。

 でも倒れ無い人もいる……一体ギフトは何なんだろう……?


「ギフトの使用には魔力等は使われていない事はわかっています。魔力の過剰使用で倒れるという事もありますが、それとは別の……そうですね、ギフトを使用するための力がタクミ様の中にあり、それが枯渇したから倒れたのではないかと考えたのです」

「ギフトを使用するための力……そんなものがあるんですか?」

「確認はされておりません。以前にも言ったように、ギフトを使える人は少数なのです。それを研究して解明するには数が少な過ぎるのです」


 ふむ……前の世界でのゲーム的に考えるなら、体力がHP、魔力がMPとして、それとは別に特別な力……SPとかそういったものがあるって事かな?

 ……ギフトだからGP(ギフトポイント)とか?

 何か、誰かにプレゼントを上げたらもらえるポイントみたいで嫌だな……。


「タクミ様は森の探索中に『雑草栽培』を使われておりました。私はそれが原因ではないかと考えています。もちろん、確証の無い事ですが」

「……でも、俺が倒れたのは森から帰って来てからですよ? 『雑草栽培』を使ってから1日経っています。『雑草栽培』が原因で倒れるのなら、帰って来るまで……それこそ野営地で倒れてたんじゃないですか?」


 さっきも考えた事だが、倒れるならギフトを使った森の中で倒れているんじゃないだろうか?


「私共も最初はそう思いました。それならギフトは関係無いだろうとも。しかし、ギフトが原因ではないかと考えて、ギフトの事が記されている文献を調べている時、気になる記述を見つけたのです」

「それはどんな事だったんですか?」


 俺が寝ている間に色々調べてくれてたようだ。

 本当にギフトが関係あるのかどうかはわからないが、俺が倒れた事でセバスチャンさん達がそうやって動いてくれた事が少し申し訳ないな。


「古い文献だったので、意訳が入りますが……。ギフトを使用した時、その能力によって持続時間が変わる。持続時間が長い程使用者に負担がかかり、短い程負担が少ないと」

「持続時間……」

「これは仮説なのですが、タクミ様の能力は『雑草栽培』です。雑草を栽培する事にその能力は発揮され、雑草……森の中で使った例を考えると、薬草ですが、それらを栽培した時点で能力を使い終わったと考えられます」

「……そうですね。栽培する事が目的なら、それで能力使用は終わってると思います」


 『雑草栽培』で何かを栽培する時、手を地面に付いて使う。

 そして、すぐに植物が生えて成長し、数秒経てば成長は止まって完成する。

 だから、持続時間と言うのを考えると、植物が生えだして成長が止まるまでの数秒程度なはずだ。

 結局、この考えだと森の中じゃなく、帰って来てから倒れた説明にはなってないな……。


「その記述とセバスチャンさんの考えなら、やっぱり俺がここで倒れたのはおかしくないですか?」

「タクミ様はフェンリルの怪我を治す薬草を栽培致しましたね?」

「え? はい。あの時は他に手の施しようがありませんでしたから、出来るかどうかはわかりませんでしたけど、何とか栽培出来ました」

「私はそれが原因ではないかと考えています」


 それが原因、何でだろう?



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