第80話 心配をかけてしまっていたようでした



 段々と浮き上がって行くような感覚。

 俺はどうしたんだっけ?

 夢の中から覚めるような感覚。

 あれ、俺は寝てたのか?

 ……なんだろう……体の感覚はある。

 考える事も出来る。

 えーと……?

 少し手や足を動かして確認してみる。

 うん、ちゃんと動く……でも態勢としてこれは横になってるな。

 横になってるって事はやっぱり寝ていたんだろう。


「……ん」


 目を開けてみる。

 うん、見える。

 ここは……多分、屋敷の俺に宛てがわれた部屋だ、見覚えがある。

 視線を変えるため、顔を横に向ける。


「あれ、クレアさん?」


 向けた視線の先に、クレアさんがいた。

 クレアさんだけじゃない。

 セバスチャンさんも、ライラさんも、ゲルダさんも、レオもフェンリルもいた。


「タクミさん!?」

「ワフ!?」

「目が覚めましたか、タクミ様!」


 俺が皆を確認したところで、クレアさんやレオ、セバスチャンさんから大きな声があがった。

 んー? どうしたんだろう、皆驚いたような顔をして。

 それにしても、何で皆俺の部屋にいるんだ?


「皆、どうしてここに?」

「タクミさん、覚えて無いのですか?」

「タクミ様は客間で倒れられたのです」


 客間……そういえば客間でクレアさんと話してた事は覚えてる。

 確か、森から帰って来てすぐだったな。

 うん、色々思い出して来たぞ。

 何故かはわからないが、急に視界が真っ白になって意識が途切れたんだ。

 ここで寝てるのは、誰かが運んでくれたんだろう。

 

「……おはようございます」

「はぁ……まったくタクミさんは……。おはようございます、よく眠っておられましたね」

「心配していたこちらが拍子抜けしますな。おはようございます、タクミ様」

「ワフワフ!」


 クレアさんやセバスチャンさんから呆れた口調で挨拶を返された。

 レオからも溜め息を吐くような声で返されるし……起きて最初の挨拶はおはようじゃないの?

 そんな事を考えつつ、ティルラちゃんやライラさん、ゲルダさんにフェンリルにも挨拶をしておいた。

 やっぱり目が覚めて最初の挨拶はおはようだな。


「タクミさん、起きれますか?」

「はい」


 クレアさんの言葉に、俺は体を起こしてベッドから降りる。


「特に問題は無いようですな」


 そのまま立ち上がった俺を見て、セバスチャンさんが安心するように言った。

 体の調子は特に悪くないな、しっかり寝た後のすっきりした感覚だ。


「ワフー」

「よしよし」


 レオが俺の体に顔を摺り寄せて来たので、頭を撫でておく。

 なんか、心配させちゃったのかな?


「タクミ様、とりあえず客間の方へ移動できますかな? タクミ様が倒れた状況も話しておきたいので」

「わかりました」


 さすがにこの部屋でこのまま話し込むわけにもいかないよな。

 椅子もないから立ったままか床へ直に座る事になる。

 レオやフェンリルはそれで良いかもしれないが、クレアさんやティルラちゃんは貴族のお嬢様だから、行儀の悪い事はセバスチャンさんが許しそうにない。

 セバスチャンさんが先にライラさん、ゲルダさんに客間の用意をさせるよう伝えて部屋から出す。

 クレアさんは心配そうに俺を見ながら、客間で先に待ってますと言ってティルラちゃんを連れて客間に向かった。

 セバスチャンさんとレオは俺に付いていてくれるようだ。

 理由はわからないが、俺は倒れたみたいだからな。

 今は普通に立って歩けるはずだが、念のためという事だろう。

 俺はササっと身支度を整え、セバスチャンさんやレオと一緒に客間へ向かった。

 セバスチャンさんが客間をノックして、中からクレアさんの声で許可が出てから入室。

 中にはクレアさん、ティルラちゃんが座っており、フェンリルはティルラちゃんに抱えられてた。

 ティルラちゃんとフェンリルはちゃんと仲良くなってるようだな。

 ライラさんとゲルダさんは扉の横で待機、セバスチャンさんはクレアさんの横へ移動した。

 俺とレオがテーブルにつくと、ライラさんが俺のお茶を淹れてくれる。


「さてタクミさん、倒れる前の事は思い出せますか?」


 俺がテーブルについて一口お茶を飲んだところでクレアさんから声がかかる。

 んー、倒れる前の事……。


「確か、森から帰って来た後、この客間に来たのは覚えています」

「そうです。そこでレオ様と一緒にお寛ぎになられていました。その後はどうですか?」


 その後?

 俺とレオがここでのんびりしてるとクレアさんが来たんだよな。


「クレアさんとティルラちゃんがここに来て……話をしてたと思います」

「しっかり覚えているようですね。私と話をしている時に倒れられたのです」

「……そうですか」


 何の話をしてたっけな……確か……『雑草栽培』についてだ。

 そうそう、『雑草栽培』で研究した事とかをクレアさんに話そうとしたら、いきなり視界が真っ白になったんだ。

 その時の事を思い出したが、視界が真っ白になる感覚も思い出し、少しだけ身震いする。


「大丈夫ですか? 顔色が悪いですけど」

「……いえ、大丈夫です。ちょっと倒れる間際の事を思い出したので……」

「倒れる間際……それはどういった感覚だったのですか? あ、いえ……思い出したく無い事ならば言わなくても良いのですが」


 クレアさんは心配そうな顔をして聞いて来るが、俺が顔色を悪くした事を気にして言わなくても良いと言ってくれた。

 あの視界が真っ白になる感覚はあまり思い出したいものじゃないが、心配してくれた皆に言うくらいは大丈夫だ。

 段々とあれを思い出すのにも慣れて来てる……うん、もう何ともないな。


「大丈夫です、話せます」

「ワフ?」

「レオ、心配してくれてありがとう。大丈夫だから」


 レオが横から顔を覗き込んで来て、俺を心配するように鳴いたが大丈夫だ。

 心配してくれたレオに感謝をするため、頭を撫でておく。


「タクミさんが大丈夫と仰るなら……」

「はい。えっと……あの時は急に視界が真っ白になったんです」

「視界が真っ白……何も見えないのですか?」

「白以外は何も見えませんでした。一応、耳は聞こえてたようで、レオやクレアさん、ティルラちゃん達が俺に声を掛けてくれたのは聞こえてました」

「何も見えない……それは恐ろしいですね」


 クレアさんやティルラちゃんがその時の俺の状況を想像したのか、顔を青ざめさせた。

 何であんな事が起こったのかはわからないが、普通起こる事じゃないからな、いきなり視界が奪われるってのは怖いもんだ。


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