第69話 魔物達が争っているようでした



「……え……?」

「なんと!?」

「本当ですか、タクミ様!?」

「しかし私達の感覚ではまだ何もわかりませんが……」

「レオは元々感覚が鋭いですからね。そこに先程の薬草を食べさせました」

「という事は……」

「更に感覚が鋭くなってるんです。だから皆さんにはわからない距離でも察知出来るんじゃないかと」

「……成る程」


 しかしフェンリル……本当にいたのか……。

 皆半ば諦めかけてたところだったから、驚いてるようだ。

 特にクレアさんとセバスチャンさんの反応が大きい。

 俺も驚いてるがな。


「レオ、フェンリルが何か魔物を襲ってるのか?」


 フェンリルは群れで襲う魔物だと聞いた。

 なら、群れで行動し、他の魔物を襲う事もあるのだろう。

 その場合、レオが居れば何とかなるかもしれないが、それでも迂闊に近寄ると危ないかもしれない。


「ワフワフ……ガーウワフワフ!」


 レオは俺の問いかけに首を振って否定する。

 フェンリルが何かに襲われてるのか?

 でもこの森でフェンリルを襲う魔物なんているのかどうか……。

 オークだとフェンリルにはかなわないだろうし、レオも否定した。


「クレアさん、セバスチャンさん。フェンリルが襲われているようです。この森にフェンリルを襲う魔物なんているんですか?」

「フェンリルを襲う魔物……」

「フェンリルが襲う魔物ならいるとは思いますが……もし、複数で単体のフェンリルを襲うとするならば……トロルド、でしょうか……」

「トロルド……どんな魔物ですか?」

「トロルドは3メートルはある体を持つ巨人です。怪力で片手で木を薙ぎ倒す力を持っています。フェンリルよりは弱い魔物とされていますが、複数いれば単体のフェンリルを相手に出来るかもしれません」

「成る程……レオ、フェンリルを襲ってる魔物はどんな奴だ?」

「ワフ……ガーウガウガウ」


 大きい体をして二足歩行の魔物が5体……多分セバスチャンさんの言う通り、トロルドだと思う。


「セバスチャンさんの言う通り、トロルドで合ってると思います。レオは5体いると言っています」

「そうですか……」

「フェンリルを助けに行きましょう!」


 話を黙って聞いていたクレアさんが突然叫んだ。


「ですがクレアお嬢様、トロルドが5体。とてもじゃありませんが、私達の手には負えません!」

「でも……!」

「ワフ」


 セバスチャンさんに止められたクレアさんがなおも言葉を続けようとしているところに、レオが割り込んだ。


「レオ様?」

「どうなされたのですか?」

「ワフワフ……ガーウガウ」


 レオが先程のように前足を挙げる。

 その前足の先からは鋭い爪が伸びていた。


「レオはやる気のようですよ」

「レオ様……ですがトロルド5体はさすがに……」

「ワフワフ!」


 またそれか……レオにとっての強敵っているのかね?


「えーと、レオからしたらトロルド5体いたとしても雑魚らしいので、簡単な事だそうです」

「……トロルドすらも、ですか」

「レオ様、お願い出来ますか?」

「ワフ!」


 クレアさんの言葉に、レオが任せておけと言うように力強く頷いた。


「わかりました……レオ様、そこまで案内してもらっても良いですかな?」

「ワフ!」


 もう一度、任せろとばかりに頷いたレオが、セバスチャンさんの前に陣取り、先導して行く。

 しばらく歩くと、レオしか気づかなかった気配を、薬草で鋭くなった感覚が捉える。


「これが先程レオ様の言っていたという魔物が争っている気配ですね」

「そうみたいね……」

「これって……一方的にやられてませんか?」


 片方の気配、おそらくフェンリルであろうそれは、あまり動いていない。

 しかしそれを囲むようにして5体のトロルドと思しき気配の方は、フェンリルの気配に近付いたり離れたりを繰り返している。


「どうやら、トロルドがフェンリルを囲んで少しずつ攻撃を加えているようですね」

「……何てこと……」

「早く助けないと!」

「急ぎましょう!」


 皆、襲われてるフェンリルの方に同情的だ。

 1体を複数で襲ってるって状況のせいかな?

 それか、身近にレオというシルバーフェンリルがいて接しているからかもしれない。


「レオ、先に行ってくれ!」

「ガウ!」


 俺はレオに声を掛け、先に走ってもらった。

 俺達がその場へ駆けつけるよりもレオが走った方が早いのは間違いない。

 一声吠えて、風のような速度でレオは先行した。

 見えなくなったレオだが、鋭くなった感覚で気配がわかる。

 ひときわ大きな気配が、フェンリルとトロルドの居る場所にすごいスピードで近づいていく。

 気配はあっという間にその場に到達した。

 そう思った瞬間から、トロルドと思われる気配が一つずつ消えて行く。

 おそらく、レオが駆けつけてすぐに倒して行ってるんだろう。


「私達も急ぎましょう!」

「はい!」


 クレアさんの声で、皆一斉に走り出す。

 木々が邪魔だから全速力は出せないが、それでも歩くよりは早い。

 クレアさんも草木に当たる事を構わず走っている。

 数分も走った頃、俺達はフェンリルが襲われていた場所に到着した。


「ワフー」


 レオが俺達が来たのを見て、遅かったとでも言いたげな声を上げた後、その場に座った。

 周りを見ると、他の場所より少しだけ開けている。

 頭上から、傾きかけた日の光が入っているのがわかる。

 その場所で、レオを中心に5体のトロルドだと思われる物が転がっていた。

 それぞれ切り裂かれたり、焼け焦げたりしている。

 中には一体だけ、腕を振り上げたまま氷漬けになっているのもあった。

 全部、レオがやったんだろう。

 トロルドの見た目はセバスチャンさんの言っていた通り、3メートルはあるだろう巨体で、太い腕に人間の大きさくらいある棍棒を持っている。

 この巨体で大きな棍棒を振り回されたら危険だろうなぁ。

 ……レオにはあまり関係無かったみたいだが。

 レオの動くスピードを考えると、人間くらいの大きさとはいえ、棍棒をレオに当てる事は出来ないだろうな。

 俺達は全てのトロルドが倒されてる事を確認しつつ、走って乱れた息を整えながらレオが座ってる場所に近付く。

 しかし、レオはそこから動こうとしない。

 いつものレオなら俺達が近づくと誰かの所に寄ったりするんだけどな……今回は座ったままだ、どうしたんだ?


「レオ……どうしたんだ?」

「……レオ様、フェンリルはどうなりましたか?」

「ワフゥ……」



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