第68話 レオが森の中で何かを察知しました



「おぉ、これなら探索が捗りそうですな」

「そうですね。明かりの魔法があるとはいえ、全て見渡せるわけではありませんでしたから」

「どうしても暗くて見えない場所がありますからね」


 セバスチャンさん達は、明かりが無くてもはっきりと見える森の中を見渡して感心してるようだ。

 そんな中、クレアさんだけ様子がおかしい。

 ……気付いたかな?


「タクミさん、私がおかしくなったんでしょうか……先程から森の生き物の気配や鳴き声までがわかるような気がするのですが……」

「クレアさん、おかしくなんてなってませんよ。それが2つ目の薬草の効果です」

「これが……」


 クレアさん達には、疲労を回復させる薬草を食べてもらった後、一緒に2つの薬草を渡した。

 一つは、セバスチャンさん達が感心してるように、ほんの少しの光でもはっきりと見えるようになる薬草。

 そして2つ目、クレアさんが今言ったように、周囲の気配と音を聞き取る力を強化する薬草。

 これならフェンリル達がいた場合、すぐに察知する事が出来るはずだ。


「ついでにレオにも……ほら」

「ワフ……モシャ……ワゥ……」

「不味かったか……すまないな」


 先程からずっと走り回っていたレオを呼び止め、薬草を食べさせる。

 しかしレオも味はお気に召さなかったようだ。

 顔を下げて不味そうな表情をさせながらも、一応薬草をそのまま食べてる。

 偉いぞ、レオ。

 レオが食べてる間、皆の様子を窺って見ると。


「これは……明かりが無くても周りが見えます。そのうえ森という視界を遮られた場所でも遠くの事が気配や音で察知出来るとは……」

「ニコラ……あっちにいるのは……多分オークだな。感覚が鋭くなるとここまではっきりわかるとは」

「そうですね。鼻息の音まで聞こえます。まるで見えるかのような感覚ですね」

「疲労が無くなり、森を探索するのに最適な薬草ですね。……この感覚があれば今日こそは何か見つかるかもしれません!」


 薬草の効能を実感しているようだ。

 セバスチャンさんは効果に感心し、フィリップさんとニコラさんは、自分たちの感覚が正しい事を確認し合ってる。

 クレアさんはさっきまでの疲れた表情は完全に無くなり、高揚した様子で、フェンリルやシルバーフェンリルに関する何かを見つけようと早速辺りを窺っている。


「ワフ!」


 お、レオが薬草を全部食べたみたいだな。

 クレアさん達に食べさせたのは森の中で行動をしやすくするためだ。

 でもレオは元々感覚が鋭い。

 オークの接近なんかもフィリップさん達より早く察知するくらいだ。

 その感覚を更に鋭くしてやると、何かを見つけられるんじゃないかと考えた。


「レオ……何かわかるか?」

「ワウ……ワウー」


 先程よりもキリッとした表情で顔を振り、辺りを見回すが、近くには何もないようだ。


「何かわかったら教えてくれ」

「ワフ!」


 レオは頷いて答える。

 

「さて、セバスチャンさん、クレアさん。この辺りには何もないようです。休憩も十分でしょうから、そろそろ探索を再開しましょう」

「そうですな。タクミ様のおかげで疲労が無くなりました。いつもより広い範囲を調べられそうですな」

「タクミさんの『雑草栽培』は凄い効果ですね。ロエを栽培した時も驚きましたが、こういう事にも使えるなんて思ってもみませんでした」

「ははは、先日裏庭を借りて研究をしっかり出来ましたからね。その成果ですよ」

「『雑草栽培』……もっと色々な使い道がありそうですね」

「そうですね」


 雑草という名前が付いてるから、取るに足らない植物を栽培するだけの使えない能力かと勘違いしそうだが、よく考えて使えば色んな事が出来そうだ。

 屋敷に戻ったら、裏庭を借りて色々研究してみよう。

 そして俺達はさらに奥へと歩いて進んで行く。

 途中、いつものオークを発見し、今回はフィリップさんとニコラさんが頑張って倒していた。

 何でも、感覚が鋭くなったおかげでオークがどういう動きをするのかわかるようになり、槍を避けるのも、剣で斬るのも楽に出来たんだそうだ。

 レオが俺の隣で、オークを狩りたそうにしてたが、今回は我慢してもらった。

 フィリップさん達は鋭くなった感覚を色々試したいみたいだからな。

 そうして、またしばらく奥に向かって歩く。

 しかし、感覚を鋭くしても、疲れを取っていつもより移動距離を伸ばしても、何も発見出来なかった。

 そろそろ日が暮れるため、そろそろ引き返さなくてはならない。

 木々が視界や光を遮るくらい鬱蒼としてる場所で野宿は出来ないからな。

 野営地にライラさんとヨハンナさんを残したままだし、明日には屋敷に帰る予定だ。

 『雑草栽培』があれば、疲労を考えずに探索をし続けられると思うが、さすがに森の中にいる日数が増えすぎだろう。

 ティルラちゃんも待たせているしな。


「……何も見つかりませんね……」

「……そうですね」


 クレアさんは気落ちした様子で呟いた。


「そろそろ日が暮れますな……仕方ありません、そろそろ……」


 引き返す。

 セバスチャンさんがそう言おうとしていたのは皆がわかっていた。

 だがその瞬間、セバスチャンさんの言葉を遮ってレオが吠えた!


「ガウ! ガウガウ!」


 俺達が進んでいた方向から左に向き、吠えている。

 吠え方がオークを見つけた時とは明らかに違う。


「……どうしたレオ!? 何かあったのか?」

「ワウワウ……ワフ……ガウ!」


 俺の声にレオが振り向いて答える。

 これは……魔物同士が争ってる?


「セバスチャンさん、この先……レオの見ている方向で魔物が争っているらしいです」

「魔物が……オークですか? しかし同族では争わないと思いますが……」

「ワウワウ! ……ガウ!」


 えーと?

 オークじゃない?

 それじゃあこの先にいる魔物は一体何だ?

 

「ワフワフ……ガウガウ!」


 レオは前足を挙げて挙手のような形を取った後一度首を振り、その後クレアさんに前足を向けた。

 んーと……レオはシルバーフェンリル。

 でも首を振ったから違う。

 クレアさんを示したという事は何か関係するはず……!

 フェンリルか!?

 シルバーフェンリルではないがレオに似た者で、クレアさんに関係する者という事なのだろう。


「クレアさん!」

「はい!?」

「フェンリルを見つけた……と」



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