第67話 『雑草栽培』で探索に役立つ物を作りました



 俺がいきなり大声を出した事に驚いた皆が見ているが、それに構っていられる余裕は無い。

 むしろ、これまでそんな便利なギフトを忘れてた事を謝りたい。

 ……なんで忘れてたんだろう……『雑草栽培』で作った薬草を皆に分けたりしてたのに……。

 ここは森の中。

 当然地面は土だ。

 薬草を栽培する事が出来るはずだ。

 これが出来れば後は簡単。


「すみません、クレアさん、皆さん」

「どうされたんですか、タクミさん?」

「どうしました、大きな声を出したりして?」


 クレアさん達からは俺がどうしたのかという視線。

 皆に向かって頭を下げる。


「肝心な事を忘れていました。本当にすみません。俺にはこれがあったんですよ。『雑草栽培』が!」

「……確かにタクミさんのギフトは『雑草栽培』ですが、それがどうかしましたか?」

「これがあれば皆の疲れも、探索ももっと楽に出来ると思います!」

「……本当ですか?」

「……タクミ様。タクミ様の『雑草栽培』は薬草を栽培するものでしたよね? ロエ等……頂いた疲れの取れる薬草もありましたが……」

「それなんですが、実は以前からちょっした研究をしていまして。それで出来たのが以前渡した疲れの取れる薬草なんです。しかも、その薬草は形や効果なんて、元々知らなかった物なんです」

「どういう事ですか?」

「んー……詳しい説明は時間が無いので今は省きますね。とりあえず、ここで『雑草栽培』が出来るのか試させてください」

「……はい」


 そう言うと、皆黙って俺の動向を見守る事にしたようだ。

 俺は思い出させてくれたレオを撫でつつ感謝しておく。


「ありがとうな、レオ。おかげで肝心な事を思い出せたよ」

「ワフー」


 レオは嬉しそうに尻尾を振りながら、どういたしましてと言ってるように鳴いた。

 ほんと、どうしてこんな肝心な事を忘れてたんだろうな……研究までしてたのに。

 俺のうっかりが原因だろうとは思うが、それを後悔するのは今じゃない。

 俺は『雑草栽培』を実行するために、地面に手を付いた。

 ……まずはここで本当に栽培が出来るかどうかだ。

 頭の中ですぐに思い浮かんできた薬草を栽培するように『雑草栽培』を使う。

 すると、数秒程で俺の手の隙間からロエが顔を出す。


「よし、ここでもちゃんと栽培出来るな」

「これが『雑草栽培』……タクミ様のギフト……」

「何もない所から生えて来るとは……」


 初めて俺の『雑草栽培』を見たフィリップさんとニコラさんが驚いて見ているが、本当に驚くのはこれからだ。

 この世界に来て初めて、俺は自分のこの能力を生かせる事に高揚しながら『雑草栽培』を使うために集中した。

 ここ数日、森の中を探索しながら、こういった薬草、こういった効果がある物があれば便利だなと考えていた物を栽培させるために。

 ……そこまで考えていながら何で『雑草栽培』を思い出せなかったのか、数日前の自分を殴りに行きたいくらいだ。

 とにかく、今は『雑草栽培』に集中しよう。

 中途半端に変な薬草が出来ても困るからな。

 俺は頭の中で考えていた薬草達を思い浮かべ、木々の間の地面へ次々と植物を生やして行った。


「出来ました」

「こんなにいっぱい……」

「タクミ様これはどういった物なんですか?」


 俺は『雑草栽培』で出来た植物達を、皆に手伝ってもらって摘み取った。

 さらにそこからそれぞれの摘み取った植物を手の中で薬草として効果のある物にするよう変化をさせた。

 『雑草栽培』はその植物が持つ最も効果の高い状態に変化させる事が出来るのが以前の実験で分かっていた。

 ラモギを手の中で乾燥させられたのを知っていたのが大きかったな。

 研究中に試してみたら、一瞬で瑞々しかった植物が乾燥したからな。


「えーと、どうぞ。クレアさん、セバスチャンさんとフィリップさんにニコラさん。食べてみて下さい」

「……大丈夫なんですか?」


 クレアさんは俺が渡した薬草を手に、食べても良い物かどうか悩んでいる。

 他の皆も同じような反応だ。

 それも無理は無いだろう。

 渡した薬草は緑色の葉っぱなのだが、その葉っぱには紫のまだら模様があり、一見すると毒草のようにしか見えない。


「大丈夫ですよ。ほら……んぐ」

「「「「……」」」」


 見本を見せるようにまずは俺が自分で食べる。

 あまりおいしいとは言えないが、何故かレオも欲しそうに見ていたのでレオにも分けてやる。

 俺が食べるのを見て納得したのか、皆が一斉に口に含んだ。

 あまりおいしくはない葉っぱに、皆眉をひそめていたが、飲み込んで数秒した頃には表情が変わっていた。


「これは……凄いです! 今まで感じていた疲れが全部取れました!」

「本当ですね……タクミ様、凄い薬草を栽培されましたな」

「これは……凄いな……」

「今からでも訓練が出来そうなくらいです!」


 クレアさん、セバスチャンさん、フィリップさん、ニコラさんがそれぞれ驚いた顔で動き始めた。

 ……疲れが取れたのは良いけど、そんなに動いたらまた疲れないかな?


「ワウワウ!」


 レオも疲れが取れたようで、密集してる木々を器用に避けながら俺達の周囲を走り回ってる。

 ……元々あんまり疲れて無かったよなレオ?


「効果が出て良かったです。それじゃあ次はこれと……これを」

「まだ何かあるんですか?」


 俺から薬草を受け取りながらクレアさんが聞いて来る。

 

「ええ。探索に役立つ薬草ですよ。……あ、それを食べる前にセバスチャンさん、フィリップさん、明かりの魔法を消してもらえますか?」

「……周りが見えなくなりますがよろしいのですか?」

「はい、お願いします」


 俺の言葉にセバスチャンさん達は明かりを消してくれた。

 『雑草栽培』で栽培した薬草の効果はさっきので十分実感出来たんだろう、俺の言葉に従ってくれた。

 良かった……この薬草を食べてあの明るい光があったらかなり辛いと思うからな……。


「「「「ん……ゴク」」」」


 皆が一斉に渡した薬草2つをいっぺんに食べる。

 こっちはさっきより見た目はマシだが、味は不味いの一言だ。

 皆顔をしかめてるが、しっかりと咀嚼して飲み込んだ。

 おっと、俺も食べないとな。


「……タクミさん……これは……暗くて見えないはずの辺りが見えます!」

「森の中が明るい? いえ……明るく見える効果……ですか?」

「正しくは、暗くてもほんの少しの光で周りがはっきり見える薬草ですね」

「すごいな」

「そうですね……」


 フィリップさんとニコラさんはお互いの顔を見て、はっきり見える事に驚いて頷き合ってる。

 驚くのはまだ早いんじゃないかな? 薬草は2種類食べたんだから。



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