第66話 森探索最終日になりました
「よろしいのですか? クレアお嬢様」
「ええ。これ以上この森にいても成果は挙げられないのかもしれません。皆が疲労で動けなくなる前にここを引き揚げて帰るべきです」
「確かに、そうなのですが……」
クレアさんの決断に渋い顔をするセバスチャンさん。
いや、セバスチャンさんだけでなく、フィリップさん達護衛さん、ライラさんまでもが苦渋の表情だ。
本来、この森を探索する事に反対していたセバスチャンさんやライラさんがこんな表情をするのには訳がある。
以前、俺とクレアさんが見張りをしている時に話した内容が全員に知れ渡ってしまってたからだ。
クレアさんはその事を知らないが、薄々気付いている。
ちなみに、俺が言いふらしたわけではない。
フィリップさんが護衛さん達に伝え、そこからヨハンナさんへ、さらにライラさんへという風に伝わって行ったようだ。
テントで休む時、入れ代わり立ち代わり、皆からクレアさんが悩んでいた事は本当かと俺に聞きに来た時はどう答えたものかと悩んだ。
結局、セバスチャンさんがクレアさんの悩みを解決するため探索に力を入れるという事で落ち着いた。
皆、クレアさんが悩んでいる事を真剣に何とかしたいと思っているようだ。
使用人達に愛されてるな、クレアさんは。
「これ以上、私のわがままに皆を巻き込むわけには行きません。明日、何も見付からなければ、屋敷へと帰る事にします」
「……わかりました」
セバスチャンさんを筆頭に、皆落胆した表情で頷いた。
俺ももちろん残念だ。
クレアさんから直接悩みを聞いてるから尚更だ。
何かしら、フェンリルやシルバーフェンリルに繋がる物を見付けられたらなぁ。
そう願っていても見付からない物は見付からない。
その場はクレアさんの意見で話が纏まり、明日を最後の探索日にして就寝した。
見張りは、日によって順番は変わるが、最初の日と同じ組合わせで毎日行われてる。
一度、深夜にオークが襲って来た事があった。
まぁ、見張りがヨハンナさんとライラさんの時で、寝ていたはずのレオが起きてさっさと倒して食料になったんだけどな。
俺は明日に備えて、残っていた最後の安眠薬草を食べて寝た。
皆に分けた時、自分のためにと一つだけ残していたやつだ。
これで、明日は何かしら成果がある事を期待しよう!
翌日、俺達は朝食を終えた後、ライラさんとヨハンナさんを残してその他全員で森の奥へと足を延ばした。
野営地に帰る予定もいつもより遅めにして、出来る限り調べるつもりだ。
ちなみに探索の時、昼食のためにいちいち帰って食べる時間が惜しいので、ライラさんがオークの肉を香草を使って焼いた物を持っている。
それで昼は適当に済まし、探索を終えて帰って来た後に夕食でしっかり食べるというわけだ。
今日の探索は昨日までと違い、川を渡った場所から森の奥へと入る。
川は太ももくらいまでの深さしかないため、足を滑らせないように気を付ければ楽に渡れる。
もちろん、濡れるから今まで避けてたんだけどな。
クレアさんが屋敷への帰還を決意した現状、もう足元が濡れるからと躊躇してる場合じゃない。
クレアさんも濡れるのを構わず川を渡って探索に加わってる。
まぁ、川を渡る前に、野営地から行ける場所で探索出来る範囲全て調べたわけじゃないが、どうせ最後なら真新しい場所に足を踏み込んでみようとフィリップさんから出た意見だ。
川を渡って数時間、木々が密集してる場所を歩く俺達。
セバスチャンさんとフィリップさんが明かりの魔法を使って辺りを照らしながら進む。
「……何も、見つかりませんね……」
「そうですね……」
「……一度、休憩を取りましょう。連日の探索で皆疲れています」
何も見付からない事の確認をフィリップさんと俺がしていた時、セバスチャンさんがクレアさんをチラリと見ながら言った。
俺は昨夜薬草を食べて寝たから疲労は溜まってないが、歩き通しで疲れては来ている。
それに、クレアさんもそうだが他の皆も一様に疲れた顔を見せ始めている。
一旦休憩して、昼食を取った方がいいかもな。
近くに開けた場所なんて無い中、適当に土の上に座り、ライラさんが用意してくれた昼食を各自食べ始める。
「クレアさん、大丈夫ですか?」
「……ええ、何とか。疲れは確かにありますが、ここ数日の探索で森の中を歩く事には慣れました」
「まだ、歩けますか?」
「はい、大丈夫です。最後の探索です、何としてもフェンリルの痕跡を見つけないといけませんから」
とは言えフェンリルの痕跡は今の所何も見付からない。
慣れたと言ってるが、これだけ連日森の中を歩き続けてるんだ、相当疲れが溜まってるだろう。
セバスチャンさんなんて、足が痛いのかマッサージのように揉み解しながら食事してるくらいだ。
いままで疲れも見せなかったセバスチャンさんでもこうなんだ、クレアさんは相当なやせ我慢をしていそうだな……。
「どうしようか、レオ」
「ワフ?」
「このままだと、何の成果も無いまま屋敷に帰る事になるんだ。それじゃクレアさんが強引に森に来ようとした事が無駄になるからな……何とかしたいんだけどなぁ」
「ワウ……ワフ? ワフワフ!」
「ん?どうしたレオ?」
隣にお座りの体勢で持って来たソーセージを食べていたレオに呟くように言っていると、何か考え込んだレオが急に騒ぎ出した。
どうした……魔物か?
「魔物でも出たか?」
「魔物ですか?」
俺がレオに問いかけると、それを聞いたセバスチャンさんが反応した。
「ワフワフ」
レオは違うというように首を横に振る。
それを見てセバスチャンさんを始め、フィリップさん達は安心したようにまた昼食を食べ始めた。
「それなら何なんだ、レオ?」
「ワウー……ワフワフ」
レオが俺の手に顔を寄せて一舐めし、その後すぐに地面に鼻を付ける仕草をした。
……えっと……?
「ワフワフワウワウ」
何だって……? 『雑草栽培』?
…………!
「忘れてた!」
そうだ、俺には『雑草栽培』があるじゃないか。
あれは、魔法と違って魔力を消費する物じゃない。
詳しい仕組みなんかは全くわからないが、『雑草栽培』をつかって疲労を感じたりすることは今まで無かった。
これを使えば色々と便利な事が出来るじゃないか!
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