第65話 森の探索を始めました



「おはようございます、タクミさん」

「おはようございます、クレアさん、皆さん」


 朝、テントから出て川で顔を洗ったり等の身支度を整え、焚き火の場所まで戻ると、こちらも身支度を整えたクレアさんが座っていた。

 クレアさんの隣にはヨハンナさんが居て、ライラさんは既に鍋を使って朝食の準備中だ。

 フィリップさん、セバスチャンさん、ニコラさんは森の探索をどうするか相談中みたいだ。

 ……俺が一番起きるのが遅かったみたいだな……。

 クレアさんに挨拶を返しつつ、他の皆へ朝の挨拶をする。

 レオは俺より先に起きて、ライラさんの後ろで待機している。

 朝食を待っているようだ。


「タクミさん、昨日の薬草ありがとうございました。おかげ様で目覚めがすっきりとして、昨日からの疲れも全くありません」

「効果が出たようなら良かったです。俺自身でも試しましたが、ちゃんと出来てたようですね」

「クレアお嬢様、何ですかその薬草というのは?」


 隣に座ってるヨハンナさんが興味を示したようだ。


「昨夜寝る前にタクミさんに頂いたのです。疲れが取れる薬草との事でしたが……」

「実際はよく眠れる薬草ですね。熟睡出来るので前日の疲れが取れる物です」

「そんな薬草が……」


 その後、興味を示したセバスチャンさん達も含め、全員に薬草を分ける事にした。

 あんまり数を作ってないが、1回分ずつなら全員に分けるくらいある。

 何日ここにいるかはまだ決まってないため、疲れを取りたい時に食べるように言っておいた。

 皆に薬草を分けたところで、ライラさんの料理が完成。

 ライラさんにも薬草を分けながら、朝食を受け取る。

 朝食は昨日のオークの肉を使った物だ。

 早く食べないと悪くなっちゃいけないからな。

 朝食を食べ終わった後は、森の探索。

 レオが居れば魔物が襲って来ても怖くないとはわかったが、皆でぞろぞろ探索をするのは効率が悪い。

 なので、俺とレオ、クレアさんとセバスチャンさんが森の奥を探索。

 フィリップさんとニコラさんは野営地点の周辺探索、近づく魔物を追い払ったり、フェンリル等の痕跡があるかを調べるとの事だ。

 ライラさんは野営で焚き火の番、そしてヨハンナさんはライラさんの護衛となった。


「では、クレアお嬢様、タクミ様、レオ様、行きましょう」

「はい」

「ええ」

「ワフ!」


 セバスチャンさんを先頭に、俺とレオが続き、クレアさんが最後尾だ。

 俺とレオで露払いや草木を払っていけば、クレアさんも多少は歩きやすいだろう。

 ……主にレオの体の大きさのおかげだけどな。

 川から離れ、しばらく森の中を無言で進む。

 1時間程奥に進むと、木々が更に密集して日の光がほとんど届かないくらい暗くなった。


「……暗いですね」

「そうですね……これだと、何かが近づいて来ても見えないかもしれません。クレアお嬢様、大丈夫ですか?」

「私はまだ大丈夫よ。昨日みたいには疲れていないから」


 クレアさんの方は昨日と違って、何とかついて来れてるようだ。

 持っている荷物も少ないし、レオが体で邪魔な草や枝を押し除けてるから歩きやすいのもあるんだろう。


「……こう暗いと足元も危ないかもしれませんな。仕方ありません、何かあった時に備えて魔力は温存したかったのですが」

「……魔法ですか?」

「ええ。明かりの魔法を使います」


 そう言うとセバスチャンさんは邪魔な枝草を切るために持っていた、ショートソードを掲げた。


「ライトエレメンタル・シャイン」


 セバスチャンさんが呪文を詠唱すると、掲げていた剣の刃部分が光り始める。


「これで、辺りを見やすくなります」


 直視すると眩しいくらいの光が剣から放たれている。

 さっきまで足元もほとんど見えないくらい暗かった森が明るくなった。

 さすがに木々の無い場所程では無いが、森の奥までその光で見えるようになった。


「便利な魔法ですね」

「簡単な魔法ですよ。ただ光らせるだけですからね。練習すればタクミ様も使えるでしょう」

「魔法ですか……屋敷に帰ったら、教えてもらえますか?」

「構いませんよ」

「むぅ……魔法なら多少は私も教えられます……」

「ほっほっほ。クレアお嬢様に魔法の基礎を教えたのは私ですよ? タクミ様に教えるのは私の方が適任だと思いますが?」

「……私もあれから勉強してます。私でも教えられます!」

「ほっほ、ならクレアお嬢様に任せますかね。……良かったですね、タクミ様」

「……はぁ」


 最後の一言だけは俺に向かって小さく呟いた。

 何だろう……何故かセバスチャンさんは俺を誰かとくっつけようとしている節がある。

 セバスチャンさんはクレアさんの使用人なのに、良いのか?

 そういえばライラさんの時も同じような事があったな……一体どうしたいのだろう?

 そんな風に話しながら、森の奥へと進むが、この日は何も発見出来なかった。

 懐中時計で時間を確認し、日が暮れる時間までには野営地に戻れるようにする。

 帰り際、セバスチャンさんとクレアさんと相談しながら歩いていたが、明日はもう少し違う方角から探索してみようとなった。

 レオは何も無くただ歩いていただけなのにもかかわらず、終始楽しそうにしていた。

 この森に入った時、懐かしい気がすると言って機嫌が良かったから、そのおかげかもしれない。



 それから2日、探索は続けたがフェンリルの痕跡すら何も見付けられなかった。

 食料は、時たま遭遇するオークを倒してレオが捌いてくれたから困る事は無かったが、そろそろ野菜が無くなりそうだ。

 夕食後、皆で探索について相談する。


「探索を始めて今日で3日目森に入ってから4日目ですが……成果らしい成果は一つもありません」

「はい。私達も周辺を探索していましたが、オークと遭遇する以外は何も……」

「……」

「やはりこの森にはフェンリルはいないのでしょうか?」

「ワフ?」


 ヨハンナさんから上がる疑問。

 ここまで探索して何も見つからないんだ、当然出て来る疑問だろう。

 レオも首を傾げてる。

 昨日なんかは、いつもより野営地に帰る時間を遅く予定して探索を開始し、いつもより森深くまで行ってみたが、何も無かった。

 食料はオークで何とかなってる。

 水は川があるから万全だが、そろそろ皆の疲労が溜まって来ている。

 俺が分けた薬草は皆今日までに食べたようだ。

 何日もテントで寝泊まりしてたら疲れも溜まるから仕方ないな。


「明日、探索して何も無かった場合、諦めて屋敷に帰りましょう」


 皆で焚き火を囲んで相談している間、ずっと俯き加減で何かを考えていたクレアさん。

 ヨハンナさんの疑問がきっかけなのか、クレアさんが帰る決断をした。



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