第55話 オークが出て来ました
1時間くらい歩いた頃、俺達が歩いて向かってる方向から水の流れる音が聞こえ始めた。
これは……初めてこの森に来てさ迷ってた時に聞いた音だと思う。
「皆様、川が近いようです。……クレアお嬢様、川まで行けば休憩出来ますよ」
「……はぁ……はぁ……わかったわ。川まで頑張る……はぁ……」
「大丈夫ですか、クレアお嬢様?」
「……何とかね……はぁ……はぁ……」
クレアさんは森の中を歩くことに慣れてないのか、相当疲れてるようだ。
心配するヨハンナさんに、息を切らせながら答えている。
先頭を歩くセバスチャンさんと、その後ろにいるフィリップさん、ライラさんが露払いをしがなら邪魔になる蔦や草、枝なんかを俺に渡した物と同じショートソードで切って歩きやすくはしてる。
それでも、地面は平坦ではないし、枝や草が邪魔をする事もある。
屋敷での暮らしをしてたなら、こういう場所を歩く機会なんか無さそうだし、女性の体力じゃきついんだろうな。
しかも今回は一番軽い物だが、荷物も持てるせいもあるかもしれない。
俺の方は多少疲れて来てるけど、何とか息を切らせる事無く歩いてる。
このくらい、連日深夜まで残業させられたり、真夏に朝から夜までほとんど休憩する事無く外回しさせられてた以前の仕事に比べたら何て事無い。
外回りは本当、疲れたというよりも脱水症状でフラフラになったからなぁ……。
俺の横を歩くレオは、体が大きい分、セバスチャンさん達が露払い等をしていても、ガサガサと草木が当たってるが、気にする素振りも無くさっきと同じように機嫌良さそうに歩いてる。
さすがシルバーフェンリルってとこかな?
小さかった頃も外に連れ出して遊んでやったら、俺の方が先にへとへとになってたっけな。
……前から体力あったんだな、そう考えると。
「クレアお嬢様、もう少しです」
「……ええ……はぁ……はぁ……」
セバスチャンさんがクレアさんに声を掛けながら進む。
段々と水の音が大きく聞こえて来た。
後10分も歩けば川に着くかな……と思っていた時、横でレオが尻尾をピンと伸ばした。
「どうした、レオ」
「ワウ! ……ウゥゥゥゥゥゥ!」
「……何を唸ってるんだ?」
レオは一度吠えた後、唸り始める。
「セバスチャンさん、止まって下さい。レオが何か……」
「どうされました、レオ様?」
俺は先頭のセバスチャンさんに声を掛け、歩いてる皆を止めた。
レオはまだ唸りながら、俺達の進行方向を見て右側を睨んでいる。
「ワウワウ!」
「……わかった」
「……はぁ……はぁ……レオ様は……どうしたんですか?」
クレアさんがレオの様子を見つつ、不安げな様子で俺に聞いてくる。
あまり離れてはいないが、皆に伝わるよう少し大きめの声で伝えた。
「オークが近づいて来てるんだと思います!」
「……はぁ……ふぅ……オークが……」
立ち止まったおかげで、何とかクレアさんは息を整える事が出来たようだ。
「オーク……フィリップ!」
「はっ! ヨハンナ、ニコラ、わかってるな?」
「はい! クレアお嬢様達には指一本触れさせません!」
「承知!」
セバスチャンさんがフィリップさんの名前を呼んだ号令で皆が一斉に動き出した。
フィリップさん、ヨハンナさん、ニコラ(?)さんはレオの見てる方向へ並び、セバスチャンさんとライラさんはクレアさんを庇うように前に出る。
「ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
なおも続くレオの唸り。
レオが唸って睨みつけてる方向から、ガサガサと草木を掻き分ける音が複数聞こえて来た。
「ワーフ、ワウワウワウ! ガウ!」
最初のワーフはオークで、ワウが3回……3体、かな。
「オーク3体だそうです。気を付けて下さい!」
「はい!」
「ハッ」
「承知致した」
……一人……ニコラさんだっけ? さっきフィリップさんにそう呼ばれてた人だけ、返事が時代を感じる言葉だった気がするけど……今はそんな事を考えてる暇はないな。
護衛さん達はそれぞれ剣を抜いて構える。
レオの方もいつでも飛び掛かれる態勢だ、前足から鋭い爪を出してる。
俺も念のため、セバスチャンさんから受け取ったショートソードを抜く。
……初めて剣という物を手に持ったけど……
「意外に重いな……」
咄嗟の時、しっかり振れるか不安だ……。
オークの姿が木々の間に見え始め、皆に緊張が走る。
出て来たオークは、初めてこの森で遭遇した時と同じ、刃先がぼろぼろになってる槍を持ち、でっぷりと丸いお腹をしていて、やはり顔は豚の顔。
「ギュオオオオ!」
「ギュッギュッ!」
「ギュギギギ!」
豚の顔をしてるのに、鳴き声は豚とはかけ離れていた。
オークたちはレオの言った通り3匹。
それぞれ俺達を見て声を上げた後、持っている槍をこちらに向けて走り出した。
でっぷりとしたお腹が邪魔なのか、速度はあまり早くないが重量があるせいでドシドシと足音が大きい。
あの重そうな足音で突進されたら、軽い人間なら軽く飛ばされそうだ。
オーク達が向かって来るのを見たフィリップさん達が迎え撃とうと腰を低く構えた瞬間、護衛3人の間からレオが抜け出てオーク達に飛び掛かった。
「レオ!?」
目で追えるかどうかというスピードのレオは、人間が出せる速度じゃない速さでオークの目の前まで走り、下から掬い上げるように爪を伸ばした右前足を一閃。
1匹のオークが左脇腹から右腋まで斜めに切り裂かれ、二つに分かれた体は地面に落ちる。
レオはその間にも、左前脚を下から一閃。
1匹目と方向が逆なだけで、同じように切り裂かれたオークの体が二つに分かれた。
それを見ていた残る1匹のオークは、怯えた様子を見せ、逃げようとして身をひるがえそうとしたが……遅かった。
2匹目のオークを切り裂いた瞬間、レオがオークの喉元目掛けて牙を出して飛び掛かる。
「ガゥゥゥ!」
「ギュァァァァア!」
オークの悲鳴が森にこだまして、全てのオークが倒された。
護衛さん達も俺達も、レオの動きについて行けず、何もせずに見ているだけだった。
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