第56話 『雑草栽培』で作った薬草はオークを運ぶために使いました



 オークを一瞬で倒したレオ。

 何とか目で追えるくらいの速度だったが、やっぱりレオって強いんだなぁ。

 目で追えるからって、人間にはあの速さは出せないだろうし、対処をする事も出来ないと思う……。


「ワフワフー」


 レオが簡単な作業を終えたような声を出しながら、俺の所へ戻って来る。

 セバスチャンさんを始め、俺以外の皆は口をあんぐりと開けてレオがオーク達を倒して戻って来るのを見ていた。

 レオが戻って来るまでに、俺は抜いていたショートソードを鞘にしまう。

 ……慣れない剣を振る機会が無くて良かった。


「ワフーワウ、ワフワフ」

「……ああ、偉かったなレオ」

「ワフフ」


 俺のところまで来たレオは、褒めて欲しそうに顔を下げて俺の手が届くところに持って来たので、しっかり頭を撫でてやった。

 それを見てる護衛さん達。


「俺達……何も出来なかったな……」

「はい……私達のいる意味って……」

「某はまだまだ未熟だ……」


 護衛さん達はレオの活躍に、ここにいる意味を見失いかけてる。

 ちゃんと人間の護衛も必要ですから、大丈夫ですって! ……きっと……。


「シルバーフェンリルの戦闘がこれ程とは……さすがは最強と言われる事はありますな」

「はい……あの可愛いレオ様が……」

「私を助けて下さった時もそうでしたが、やはりレオ様にとってオーク相手は一瞬で終わるのですね」

「ワフ? ワフワフー。ワフワーフウワウ」


 何やらオークを見て、食べるような口の動き……。

 レオはオークの事をただ単に食料としてしか見て無いようだな……。

 レオにとっては簡単な狩りをしてる気分なのかもしれない。


「タクミさん、レオ様は何と?」

「……オークは単なるおいしいお肉だって言ってるんだと思います……」

「ワウ!」


 そうだとばかりに頷くレオ。


「「「……」」」

「……オークは熟練の兵士でも油断すると危ない魔物なのですが……」


 クレアさんが、オークをお肉と言ったレオを驚いた表情で見ている。

 護衛さん達三人は、ショックを受けて言葉も出ないようだ。


「……とりあえず、川を目指しましょう。そこで一息つくと良いでしょう」

「ワフ? ワフワフー?」


 レオが倒したオーク達を見て何やら首を傾げてる。

 えっと……以前は倒したオークを食べたのに今回は食べないのか聞いてるのかな。


「……でもなぁ……3体はさすがに持って行けなくないか? セバスチャンさん、レオがオークを食べたいと言ってるんですが……どうしましょう?」

「そうですね……フィリップ、持って行けますか?」

「レオ様が真っ二つにしたやつなら、何とか持てるかと……」

「ふむ……それなら、引き摺って行きましょう。持つよりは楽だと思いますよ。それに、もうすぐ川ですからね」

「わかりました。ヨハンナ、ニコラ」

「はい」

「良い鍛錬になりそうです」


 護衛さん達三人は、レオが倒したオークの所に向かう。


「ワウ? ワフワフ」

「レオ、オークを持って行けるのか?」

「ワフー」


 レオもオークの所へ向かって、首に噛みついて倒したオークに近づく。


「ガフ」


 レオは全身が残ってるオークの頭を口で捕まえ、そのまま持ち上げた。

 ……オーク一体って、大きさは人間くらいだが、お腹が丸々太ってて結構重そうなんだけど、レオにとっては大したこと無いみたいだ。


「レオ様が運んでくれるなら、楽が出来そうですな」

「私達は残りのオークを運びます」


 残ったオークはレオによって引き裂かれ、二つになったのが2体で合計四つ。

 フィリップさんがそのうち二つの腕部分を、左右の手でそれぞれ掴み、運び始める。

 残った二つはヨハンナさんとニコラさんが足部分を引きずって運ぶ。

 三人共、荷物の入った袋を持っていて、さらに金属製の鎧を着てるのに、更にオークを運ぶのは結構辛そうだ。

 おぉ、そうだ……あれがあった。


「フィリップさん達、少し待って下さい」

「どうしましたか?」


 俺は、オーク達を運んで歩き出そうとしたフィリップさん達を呼び止めながら、持って来た荷物を漁る。

 お、あったあった、これだ。


「ちょっと怪しいかもしれませんが、これを食べてみて下さい」

「これは……?」


 俺が荷物の中から取り出して、三人に渡したのは、昨日『雑草栽培』の研究をしていた時に出来た植物の葉だ。


「多分、オークを運ぶのが楽になると思いますよ」

「……はぁ」

「……頂きます」

「……何やら奇怪な色をしていますな……」


 渡した葉っぱの色は青。

 花では無く、葉っぱが青色の植物なんて、薬草と知っていても食べるのは躊躇するだろう。

 それでも三人は俺を信用してくれたのか、思い切ってその薬草を口に入れた。


「これは……結構いけるな……」

「美味しいですね……」

「色からは想像が出来ない味ですな」


 お、味は好評だったようだ。

 味の方も気にして、『雑草栽培』を使ってみたからな。

 俺も端っこを少しだけ食べてみたが、ラムネっぽい味だった。

 植物からラムネの味ってだけでかなり怪しい物な気がするけどな………。


「ん? 何だか体が軽いような……」

「これは一体……」

「半分とは言え、オークを軽々と持ち上げられますぞ」


 薬草を食べた三人はすぐに効果が表れたようで、ヨハンナさんとニコラさんは、オークの下半身部分を簡単に持ち上げていた。

 フィリップさんの方は二つだからさすがに持ち上げなかったが、それでも運ぶのが楽になったようだ。

 良かった、ちゃんと効果が出たようだ。

 安全は確認してるが、実験みたいになったけどまぁ、大丈夫だろうと思う。


「タクミさん、これは?」


 三人の様子を見ていたクレアさんが、俺に聞いて来る。


「昨日裏庭で試してた事ですよ。『雑草栽培』でどんな事が出来るか、ですね」

「この薬草の事だったんですね、試してみたい事って」

「……んー、いえ。この薬草だけじゃないんですけどね。というかこの薬草は試してる段階で偶然出来た物なので、狙って栽培したわけじゃないんです」

「そうなのですか? それなら、本当は何を試したかったんですか?」

「まぁ、それは後にしましょう。今はまず川を目指して歩きましょう」

「……むぅ、わかりました。でも、絶対後で聞かせて下さいね」



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