第54話 森の中へ入りました
セバスチャンさんとレオが作り出した水を使って、木の皿を洗っている時にちょっとだけ魔法について聞いてみた。
飲み水も魔法で作る事が出来るが、魔法で水を作るのはその場の大気中から水分を寄せ集める事になるらしい。
だから空気中の物も混じる事があるため、飲み水はあまり魔法で用意しない方が良いとの事。
「そういえば、飲み水だとかの事を忘れてたな……」
セバスチャンさんやライラさんが付いて来てくれて良かった。
アウトドア的な用意を何もしてなかったから……着替えや小物は持って来たんだけどな。
この森の中を流れる川は、人が飲んでも大丈夫だからその川をまずは目指し、その後は川を起点に探索すれば大丈夫だろうとの事。
念のため、いくつかの革袋を水筒にして持って来てはいるそうだ。
まずは水を確保できる川を起点にする事で、持ち歩く水を少なく出来るし、水の補給も出来る。
「成る程な……飲み水の確保は、最優先で考えないといけないんだな」
こういう知識は今まで馴染みが無かった。
アウトドア生活なんてした事が無いうえ、日本だとどこかへ行くのに飲み水の心配をする必要が無いから、仕方ないと言えば仕方ない。
この世界で森以外の場所に行く事になるかどうかはわからないが、念のためだ。
木の皿や鍋を洗い終え、荷物の確認。
俺も一応、着替えや小物の確認をした。
それぞれが持って行く物を分け合って、確認を終えたら出発だ。
「タクミ様、クレアお嬢様、森の中に入る前にこれを……」
「これは……」
セバスチャンさんが袋の中から取り出し、俺とクレアさんに手渡して来たのは、小さい剣だった。
小型のショートソードとでも言ったらいいかな?
片手で軽く持って振る事が出来そうだ。
まぁ、俺は剣どころか竹刀すら持った事が無いので、本当にちゃんと振れるかは怪しいが……。
しかしセバスチャンさんは、どうしてこれを俺とクレアさんに渡したんだろう?
「森の中は何があるかわかりませんからな。もしものための備えですよ。それに、歩くのに邪魔な蔦等を切るのにも使えます」
「成る程……ありがとうございます。こういう武器は使った事がありませんが……念のために持っておきます」
「ありがとう、セバスチャン」
俺もクレアさんも剣を受け取り、鞘に付いてる留め具を腰部分に取り付けた。
「ワフ?……スンスン」
レオが腰から下げた俺の剣に顔を寄せてにおいを嗅いでる。
多分、俺が見慣れない物を身に着けたから珍しかったんだろう。
軽くにおいを嗅いだ後はすぐに顔を離した。
「さて、それでは皆様、これより森の探索を開始します。準備はよろしいですかな?」
「はい」
「ワフ」
「大丈夫よ」
「いつでも行けます」
「「「安全は我らにお任せください」」」
セバスチャンさんが皆に声を掛け、それぞれが返事をした。
フィリップさんを含む護衛さん達が特に意気込んで返事をしてる。
この一行のリーダーがセバスチャンさんになったかのような統率だけど、一応リーダーはクレアさん……という事になってるはずだ。
年の功なのか、色々経験して来てるセバスチャンさんは知識面ではかなり頼りになるから、こうなるのも仕方ないけどな。
屋敷から一緒に来た護衛さんのうち一人を馬の番として残し、俺達はセバスチャンさんを先頭に森の中へ入った。
並びは、セバスチャンさんの後ろにフィリップさんとライラさん。
さらにその後ろに、クレアさんとヨハンナさんがいて、その後ろが俺とレオの並びだ。
最後に名前をまだ聞いてない護衛の一人が最後尾で後ろの警戒をしてるようだな。
ちなみに、持って来た荷物は、セバスチャンさんが鍋類、ライラさんがクレアさんを含めた何人かの着替えや小物。
護衛三人は、フィリップさんが野営のための道具類で、ヨハンナさんがライラさんが持ちきれない着替え類、最後の一人が食料を持って歩いてる。
俺は自分の荷物と飲み水を担当した。
レオにはさすがに何も持たせていない……もしかしたら背中に括り付けるようにしたらもてるかもしれないな……今度どこかへ行く時は考えてみよう。
クレアさんは、自分が使うための小物類と他の人に持たせられないと言って着替えを少し、クレアさんの身長には少し不釣り合いな革袋を肩から下げている。
他の人に持たせられない着替えって……もしかして……いや、下手な詮索は辞めておこう……。
「まずは森を突っ切って川を目指します」
「はい」
水の確保のためだな。
川を起点に森の中を探索する予定だ。
川という大きな目印があれば、視界が遮られる森の中でも迷う事を減らす事が出来る。
迷子になって皆がバラバラになるなんて事態は避けないといけない。
どこかのホラー映画のようになってしまうからな。
「ワウーワウー」
「どうしたレオ、森の中に入った途端、機嫌が良くなったな」
レオが鼻歌でも歌っているのかと思えるくらいリズミカルに声を出してる。
「ワフワフ。ワウー」
懐かしい気分で心地良い森だって?
「懐かしい……でもレオ、俺と初めてこの森に来ただろ? そんなに時間は経ってないのに懐かしいもんか?」
レオは歩きながらも器用に木々を避けつつ、俺に意思を伝えようと表情と声で答える。
「ワウー? ワウワフワフ、ワウーワフワウ」
今回は移動しながらだから少し難しいな、えーと……何故だろう? 理由はわからないけど、なんだか懐かしい感じがした……かな。
「そうか……もしかすると、ここがフェンリルの森って呼ばれてるせいかもしれないな」
「ワウ?」
首を傾げながらレオは俺を見下ろす。
レオの方が大きいから、顔の位置が高いんだよなぁ。
以前は俺を見上げる側だったのに。
「もしかすると、だけどな。ここはクレアさんの祖先の人がシルバーフェンリルと会った場所らしいからな。シルバーフェンリルになったレオが感じ取るものでもあるのかもしれないな」
「ワフワフーワフー」
レオにも理由ははっきりわからないようだが、確かにレオの機嫌は良いんだろう。
モサモサした尻尾が、小さくだがゆらゆらと揺れている。
移動してるだけなのに、レオが尻尾を揺らしてるのは機嫌が良い時だ。
鼻歌っぽいのも漏れてたし、やっぱりこの森に何か感じるものがあるんだろうな。
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