第50話 『雑草栽培』の研究をしました



 『雑草栽培』を色々試しているうちに時間が過ぎ、いつの間にか昼になっていた。

 さすがにライラさん達はレオにずっと乗っていたわけではなく、1時間程で降りてまた俺の様子と裏庭を走るレオを見てた。

 セバスチャンさんが昼食の用意が出来た事を伝えに来たため、そこで一旦『雑草栽培』の研究は中断。


「結構、収穫があったな」


 どうやら『雑草栽培』は、俺が知ってる植物では無く、存在するかわからない物でも、俺の意志を反映させて植物を作り出す事が出来る能力なんじゃないかな。

 全ての植物と言うわけでは無く、やはり野菜等は栽培出来なかったが、それでも十分な成果だ。

 俺は昼食を食べた後、明日の準備をするクレアさんや勉強をするティルラちゃんと別れ、また裏庭に出て色々試行錯誤を交えながら『雑草栽培』を試して行った。

 その間、レオはほとんど裏庭で走り回ってた。


「……元気だなぁ、レオ」


 まぁ、途中休憩のためか、俺の所に来て伏せの体勢になったレオに昨日栽培出来た植物を上げると、喜んで食べてまた走り始めたんだがな。


「……レオが元気な原因は俺か……元気が無いよりは良いのかもな」



 日が沈み始めた頃、病に臥せっていた分の勉強を終わらせたティルラちゃんが裏庭に来た。

 走り回ってるレオを見て一緒に走ったり、レオに乗ったり、ただ単に顔を寄せ合ってじゃれ合ったりと、仲良さそうに遊んでた。

 しばらくして、森への出発準備を終えたクレアさんとセバスチャンさんが合流し、夕食の時間。


「タクミさん、まだ『雑草栽培』で何をしているのか教えて下ささらないのですか?」

「ははは、まだ研究中なんですよ……もう少し待って下さい」


 『雑草栽培』に対して、興味が尽きないクレアさんをかわしつつ夕食を終える。

 俺が追求を逃れるように誤魔化して、拗ね気味だったクレアさんは、デザートのヨークプディンを食べて笑顔になってくれた。

 食後の休憩の後、走り回ったティルラちゃんがお眠になったところで解散。

 クレアさんも部屋に戻り、俺もレオを連れて部屋に戻った。

 レオを部屋に残して、俺は一人で風呂へ。


「ふぅ……やっぱり風呂に入れるのは良いな」


 今日はほとんど外にいたから、しっかり体は洗っておかないと。

 レオも外で走り回ってたが、どうせ明日は森に行くんだ。

 また汚れるだろうから、レオの風呂は森から帰って来てからにしようか。

 風呂で体を綺麗に洗い、湯船に浸かってしっかり温まった後、部屋に戻って軽くレオの相手をしながら就寝。

 今日は『雑草栽培』をどう使うか考えてばかりだったから、体は疲れてないが脳が疲れてる気がする。


「明日は森……か」


 しっかり寝ておこう。

 ベッドの横で丸くなって寝息を立ててるレオにそっとおやすみの挨拶をして、俺はベッドに潜り込んだ。


――――――――――――――――――――


 朝、身だしなみを整えた後、森に行く準備をして部屋を出る。

 今日は珍しくティルラちゃんが部屋に来なかった。

 何でだろうと思ってたら、寝坊したらしい。

 朝食にはちゃんと起きて来たけど、俺やレオを呼びに来る時間は無かったようだ。

 朝食を終え、部屋に戻って荷物を持つ。

 セバスチャンさんに勧められて買った鞄が早速役に立った。


「レオ、行くぞー」

「ワフ」


 街で買った数着の服や小物を鞄に詰め込んで、レオに声を掛けて部屋を出る。

 玄関ホールに着くと、見送りのために使用人さん達が20人程並んでいる。

 クレアさん、セバスチャンさん、ライラさんが旅の装い……いつもより簡素な服と皮の鎧のような物を身に着けて待っていた。

 その他にも、街へ行く時に一緒だったフィリップさんとヨハンナさん、それにもう二人金属の鎧を着込んで武装した人がいる

 ……あれ? こんなに行くの?


「セバスチャンさんやライラさんも行くんですか? それに……護衛の人達も……」

「はい。タクミ様とレオ様が一緒とは言え、それだけの数でクレアお嬢様を行かせるわけには参りません。私とライラがお世話係として、フィリップを始め4人の護衛兵士で森へ参ります」

「まったく。セバスチャンったら、これ以上は人を減らせないと聞かないんです」

「ははは。まぁ、セバスチャンさんもクレアさんの事を思ってですから」


 さすがに公爵令嬢を、よく知らない男と犬……シルバーフェンリルだけで数日はかかるだろう所には行かせられないよな。

 あれ? そういえばティルラちゃんは?

 しばらくの間レオと一緒にいられなくなるんだから、必ず見送りに来ると思ってたんだけど……。


「姉様、タクミさん、レオ様お気を付けて! 早く戻って来て下さいね!」


 そう考えていたら、使用人さん達の間からティルラちゃんが出て来た。


「ティルラ、しっかり勉強して待ってるのよ」

「ティルラちゃん、出来るだけ早く戻って来るからね」

「ワフ……ワフワフ」

「はい……あ……レオ様……」


 本当は付いて行きたいだろうけど、危険が多少なりともある森に行くんだ、連れては行けない。

 その辺りの事はクレアさんから聞かされてるんだろう、ティルラちゃんは我慢しながら俺達を見送ろうとしてた。

 それに気付いたのか、レオが一度ティルラちゃんの顔を舐め、頬を擦り付ける。

 レオなりの挨拶だとわかったティルラちゃんは、笑顔になって送り出してくれた。


「それじゃあタクミさん、行きましょうか。」

「はい」

「ワフ」

「「「「「行ってらっしゃいませ、クレアお嬢様、タクミ様。ご無事のお戻り、使用人一同お待ちしております!」」」」」

「姉様、タクミさん、レオ様、行ってらっしゃいませー!」


 相変わらず、一斉に声を出すもんだからちょっと耳が痛い。

 使用人さん達とティルラちゃんに見送られ俺とレオ、クレアさん達は屋敷を出た。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る