第49話 ティルラちゃんは勉強をする事になりました



「……タクミさんのいた所にもあったんですか?」

「はい。あまり広くは知られていませんでしたけど」

「そうですか。初めて食べました……こんなにおいしいデザートがあるなんて……」

「今日はデザートでしたが、本来は肉料理の付け合わせのための料理らしいですよ」

「そうなんですか……ヘレーナが考えて作ったんでしょうね。後で感謝しておかないと」

「はい。いつも美味しい料理を作ってくれるヘレーナさんには感謝、ですね」

「ワフー」

「私も感謝―」


 俺達の会話にレオとティルラちゃんも乗って来る。

 おいしい物を作ってくれる人にはちゃんと感謝しなきゃな。

 デザートを食べた後すぐに、セバスチャンさんやライラさん達によってお茶が用意され、食後のティータイムとなった。

 ちなみに、ヨークシャー・プディングはこちらではヨークプディンと言うそうだ。

 今度からは同じ料理が出て来たら、その名前で呼ぼう。


「タクミさん、今日は何か予定はございますか?」 

「そうですね……ちょっと『雑草栽培』で試してみたい事が出来たので、それを試させてもらえると……今日もまた裏庭を使っても良いですか?」

「構いませんよ。『雑草栽培』の事もあります。タクミさんでしたら、これからは裏庭を自由に使って頂いて構いません」

「ありがとうございます」

「『雑草栽培』で何を試すんですか? 薬草に関しては昨日色々と試した様ですが……」

「あー、今日のは昨日よりちゃんと出来るかわからないので、今は内緒にさせて下さい。危ない事ではありませんよ。もし考えてる通りに成功したら、教えますから」

「……わかりました……」


 俺に内緒と言われたからか、少しだけ拗ねた様子のクレアさん。

 昨日、レオが正体不明の植物を食べた事で思い付いたんだけど……隠すような事じゃないが、今は我慢してもらおう。

 上手く説明出来るかわからないしな。

 とりあえず、『雑草栽培』で試して成功させてからだ。

 単なる思い付きのようなものだが、何となく、これは成功すると思ってる。


「ワフ!」

「お、レオも来るか?」

「ワフワフ」

「私もレオ様と行くー!」


 レオが俺と一緒に裏庭に出たいようなので連れて行こうと思うが、ティルラちゃんもレオと一緒に行きたいそうだ。

 まぁ、裏庭で遊んでてもらえばいいかな。

 そう思っていたけど、今日は珍しくクレアさんからストップがかかる。


「ティルラ、駄目よ。昼までは勉強の時間のはず。昨日までは病が治ってすぐだったから見逃していたけど、今日からはしっかり勉強をしてもらうわ」

「えー、姉様……勉強嫌いです……」

「嫌いでもちゃんとした知識を身に着けていないといけないわよ」

「……はーい。わかりました……」


 ティルラちゃんの事を甘やかしてるように見えたクレアさんだが、勉強に関しては厳しいようだ。

 ティルラちゃんはレオの事をチラチラ見ながら、食堂から出て行った。

 まぁ、あのくらいの歳なら遊ぶことが楽しくて、勉強はしたくないよな。

 俺も勉強が嫌いで、遊んでばかりいたっけ……。

 ……少しだけ昔が懐かしくなった。


「ワフ?」

「……何でもないよ」


 昔の事を思い出してたら、レオが心配したのか、大きい顔で俺の顔を覗き込んで来た。

 心配してくれたレオの頭を撫でながら、ふと思い出してクレアさんに声を掛ける。


「そういえばクレアさん。昨日話してた森に行くというのはいつになりますか?」

「そうですね……セバスチャン」

「はい。……本当は行かせたくないのですが……んんっ! えー、森に行く準備ですが……今日一日準備をし、明日には出発出来る手筈になります」

「そう……なら、明日に出発ね。それで良いですか、タクミさん?」

「はい。『雑草栽培』の事を試したりする以外は他にやる事もありませんしね。明日、森に行きましょう」

「ワフ」


 レオも承知したと言うように頷き、これでフェンリルの森に行くのは明日に決まった。

 まだこちらの世界に来て数日、森に行くのが久しぶりという程ではないが、少しだけ懐かしい気分だな。

 あの森では起きたら目の前に大きくなったレオがいたし、魔物とも遭遇した。

 それに、お世話になってるクレアさんとも出会った場所だ。


「……色々あった場所だけに、感慨深いのかもしれないな」


 誰にも聞こえないよう小さく呟く。

 明日の予定も決まり、準備をするというクレアさんとセバスチャンさんは食堂から退室。

 俺はお世話係のライラさん、ゲルダさんと一緒にレオを連れて裏庭へ向かった。

 着いた裏庭で早速とばかりに、レオが走り回る。

 はしゃいでるのか、運動のためか……。

 ライラさんとゲルダさんも一緒だし、良い機会かもしれないな。


「ライラさん、ゲルダさん。一度レオに乗ってみますか?」

「良いのですか?」

「……大丈夫でしょうか」


 ライラさんは前から乗ってみたかったのか、少し嬉しそうだ。

 ゲルダさんは元々レオが少し怖いようだから、乗っても平気か心配なようだ。


「大丈夫ですよ。レオ、こっちにおいで」

「ワフ!」


 走り回っていたレオに声をかけ、こちらに来てもらった後、ライラさんとゲルダさんを乗せる事を伝える。

 人を乗せるのが好きなのか、ライラさんとゲルダさんを見て尻尾を振ってる。

 ライラさんは以前からレオの事を気にしていたから大丈夫だろうけど……ゲルダさんは……。

 近づく事には慣れて来てるようだが、レオに乗るのは初めてだから体が固まってしまってる。


「ゲルダさん、大丈夫ですから。怖がらずに……ライラさん、お願いします」


 ライラさんにゲルダさんを押してもらってレオに乗せ、後は任せて裏庭を走らせた。

 初めて乗る二人に気を遣ってるのか、レオはティルラちゃんを乗せてる時よりもゆっくり走ってる。

 ライラさんはレオの背中に乗れてはしゃいでるが、ゲルダさんはまだ緊張してるようだ。


「ライラさんがはしゃぐ姿は初めて見たな……」


 ゲルダさんは……まぁ、慣れるためという事でこのままレオに乗っていてもらおう。

 元気に走り回ってるレオを見ながら、俺は地面に手を付き、昨日考えた『雑草栽培』の使い方の研究を始めた。

 確か昨日の植物が栽培出来た時、植物自体の形とかは考えて無かったな……。

 試行錯誤しながら、頭の中で色々思い浮かべて『雑草栽培』の研究に没頭した。



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