第51話 フェンリルの森へ出発しました




 屋敷の玄関を出てすぐの場所に、護衛さん達が乗るための馬が4頭と、馬車もある。

 今回もセバスチャンさんが御者を務め、俺とクレアさん、ライラさんは一緒に馬車へ。

 荷物は全て、馬車の椅子の下にある引き出しの中へ。

 結構物が入るんだな……。

 あまり大きくない馬車だから、三人が同じ場所に座るとちょっと狭い。

 ちなみに、俺、ライラさん、クレアさんの順番だ。


「……ちょっとライラさん……あまりこっちに寄ると色々と……」


 聞こえないように小さく呟きながら、体を小さくさせて座る。

 顔が熱くなりそうなのを誤魔化しながら、出発した。

 そんな俺を見て、何かを察したレオが溜め息を吐いてた。

 ……仕方ないだろ……今までそんな経験ほとんど無いんだから……。

 クレアさんもだが、ライラさんも十分に美人だし……むしろライラさんの方がクレアさんより肉付きが……これ以上は止めておこう。

 誤魔化せなくなるし、ライラさんにも失礼だ。


「それでは、出発致します」

「ワウ!」


 セバスチャンさんが俺達に出発を告げると同時、手綱を振るって馬車を発進させた。

 レオも答えるように一鳴きして、馬車の横を走り始める。

 護衛さん達は左右一人づつ、後ろに一人、先導するのに一人という配置になっている。

 そういえば、森までどれくらいかかるんだろう?


「セバスチャンさん、馬車で森まではどのくらいかかりますか?」

「そうですね……約3時間程でしょうか」

「どうかしましたか、タクミさん?」

「いえ……馬車に乗り慣れないものですから、長時間乗っていられるか心配になったんです」


 本当は、長時間密着するのと色々まずい気がしたからだが、こっちの方向で誤魔化そう。

 実際この世界に来るまで馬車どころか馬も写真や映像でしか見た事無かったから。


「以前はどうやって移動してたのですか? レオ様が大きくなったのはこちらに来てからとは伺いましたが」

「んー……何て言えばいいんでしょう……馬車もあるにはあったんですが、普通は乗る事なんてありません。その変わりに、鉄で出来た自走式の物に乗って移動していました」


 車の事って説明が難しいな……。

 生き物じゃないのは当たり前だが、この世界だと鉄の乗り物なんて無いだろうし……。


「それはどんな物なのですか!? 自走式……馬が曳かなくても動くという事なのですか? タクミさんの居た所は魔法が無いと聞きましたが……どうやってそんな物を動かすのでしょうか……」


 思いの外、クレアさんが食い付いてしまった。

 見れば、ライラさんも興味深そうにこちらを見てる……顔近いですって……。

 セバスチャンさんも、御者台に座ってるために前を向いてるけど、こちらの話が気になるのか、チラチラと顔を振り向かせてる。

 ……どうやって説明しよう……。


「えっと……そうですね……魔法ではありません。薪とは違って、液体の燃料を動力にして動かしています」

「液体の燃料……そんな物があるのですか?」

「はい。ただ、暖を取ったりするには薪の方が良いんです。でも液体燃料の方が良く燃えるので、それをエネルギーに変える技術が発達しています」

「燃えるエネルギー……鉄で出来ていると仰いましたが、相当な重さだと思います。……そんな事で動くのですか?」

「理論なんかはちょっと……専門外なので詳しくわからないんですけど、しっかり動きますよ」

「タクミさんの居た所は技術が凄いのですね」

「まぁ、魔法が無い代わりに、技術で生活を豊かにしようという所でしたから」


 以前、何かの本で読んだ言葉に、【十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない】という言葉があった。

 仕組みを詳しく知らない俺からすると、携帯だのテレビだのネットだのってのは魔法と言えるのかもしれないな……。

 以前の世界とこちらの世界との違いを話したりしながら、俺達を乗せた馬車は森へと走った。

 色々話してたおかげで、ライラさんの顔の近さが途中から気にならなくなった。

 慣れたというより、話しに集中できたおかげだと思う。

 ……集中しないと、クレアさん達に科学の事を説明するのが難しかったからというのが一番の理由だろう。


「こちらで一旦休憩となります」


 セバスチャンさんが、俺達に声を掛けながらポツンと一本だけ立っていた木の傍で馬車を停める。

 俺やクレアさん、ライラさんは狭い馬車に密着して座ってるから休憩しないと辛いというのもあったが、走り続ける馬も休ませないとばててしまうからな。

 レオは全力で走ってるわけでも無いからか、全然疲れを見せて無い。

 セバスチャンさんが馬に水をあげたりして休ませてる間に、俺達は馬車から降りて固まった体を伸ばす。


「んーっ。さすがに座る場所が少し狭かったですね」

「そうですね。おかげで体が固まってしまいました。んー」


 クレアさんも俺と同じように腕を上に上げて体を伸ばしてる。

 その動きが恥ずかしいのか、少し控えめに。

 ライラさんはレオに持って来た荷物の中から牛乳を取り出して皿に入れて飲ませている。

 疲れてる様子には見えないが、喉は渇いてるのかガブガブと勢いよく飲んでるな。


「セバスチャンさん、森まで後どのくらいでしょうか」

「ここは森から一番近い街道になります。屋敷からだと、半分を少し過ぎたあたりですね。これから街道を外れて森に向かいますが……おそらく1時間程で到着するでしょう」

「そうですか。それなら、俺は残りの道をレオに乗って移動しても良いですか?」

「レオ様にですか?」

「はい。……えっと……ちょっと良いですか?」

「……どうしましたか?」


 セバスチャンさんに近づいて、小声で内緒話。


「ちょっと……馬車が狭くてですね……ライラさんやクレアさんと密着してしまうんです……」

「それはそれは……ほっほっほ、若いですからな。それも良いのではないですか?」


 この人は何を言ってるのか……。

 ライラさんもクレアさんも美人だ。

 そんな二人(座り順で主にライラさんだが)に密着するのは恥ずかしいんだって!

 ……嫌じゃないんだけどな、うん。

 むしろ嬉しいくらいだが……やっぱり照れるし、そんな照れてる姿を見せるのも恥ずかしい。


「……残りの道はレオに乗って行きますね」

「仕方ありませんな。……良い思いをしたと思っておけばいいのではと思いますが……致し方ありません」


 この人は……結構アレだな……。



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