第42話 しょんぼりレオとお風呂に入りました


 

「ワゥ……」

「諦めろレオ。これからは定期的にお風呂に入って綺麗にしておかなきゃな」

「ワゥー……」


 下を向いてしょんぼりしながらついて来るレオ。

 川ではあんなに元気にはしゃいでたのに、何でこんなに風呂が嫌いなんだか……。

 お湯が駄目なのか? ……不思議だ。

 脱衣所で裸になり、風呂場へと入る。


「レオ、お湯掛けるぞー」

「……ワゥ」


 桶で湯船からお湯をすくってレオに掛ける。

 レオが少しだけ震えたが、瞼を強く閉じて我慢してるようだ。

 俺はレオの全身に何度かお湯を掛けて濡らした後、石鹸をタオルで泡立てて行く。

 泡立てた石鹸をレオの体に塗りたくるように付け、背中の方からしっかりゴシゴシと毛に擦り付けて汚れを落としにかかった。


「……結構汚れてたんだな……」

「ワゥ」


 レオに付けた石鹸は、見る見るうちに黒くなって行く。

 黒くなった泡をお湯で洗い流し、また石鹸を泡立てレオを洗う。

 何度かそれを繰り返して、ようやく背中が洗い終わった。

 ……結構重労働だな、これ。

 順番に洗って行き、最後はレオが一番嫌がる顔……というより目と口周り。

 目は多分、お湯や石鹸が入るのを嫌がってるんだろう。

 口周りは鼻が近いから石鹸のにおいがきついのかもしれない。

 しかし、レオが嫌がるからと洗うのをやめる事はしない。


「レオ、そのままでいろよー。次は顔を洗うからな」

「ワウ!? ワゥ……ワフゥ」


 何やら色々と諦めたようだ。

 レオは溜め息を吐くと、お腹を洗っていた時のまま仰向けになって、その状態で目と口をギュッと閉じた。

 俺は目や口、鼻に石鹸が入ってしまわないように気を付けながら、顔を洗ってやる。

 ……レオ、ミートソースを口周りに付け過ぎだろう。

 鼻の頭まで赤くなってるじゃないか。

 今度から、色が付きそうな料理の時は注意して見てやらないといけないな。


「ほらレオー。こんなに赤くしてると格好良い顔が台無しだぞー」

「スピー」


 レオが何か返事をしようとしたのか、鼻から面白い音を立てて息が抜ける。

 他の場所と同じように何度か石鹸を付けたり洗い流したりを繰り返してようやく汚れも色も落ちた。


「さぁレオ、洗い終わったぞ。もう立って良いからな」

「ワフ!」


 許可を出した瞬間、レオは背中だけの力で飛び上がって空中で一回転。

 スタッと床に降り立って、誇らし気な顔をしてる。


「レオ……そんな動きが出来るのは確かにすごいが……俺がびしょびしょになったじゃないか……」

「ワウ? ……ワフ」


 レオが一回転した時、まだ濡れていた毛から飛び散った水分で、俺は頭から水を被ったように濡れてしまった。


「まったく、次からは気を付けるんだぞ?」

「ワフー」

「それじゃ……次は……」

「ワウ!?」


 まだあるの!? とでも言ってるような表情で驚くレオ。


「次はこれだぞ」

「ワフ」


 風呂に入る前、ライラさんに言って貸してもらったブラシを持つ。

 毛に付いてた汚れは取れたけど、洗ってる時に絡まった毛を梳かしたり、石鹸じゃ取れない毛についた埃なんかを取り除かないといけないからな。

 それにレオはブラッシングなら大丈夫なはずだ。


「よーし、レオ、まずはお座りだ」

「ワフ!」


 おとなしく言う事を聞いてお座りの体勢を取るレオ。

 ブラッシングなら大丈夫というより、むしろ催促されてるくらいだな。

 レオってブラッシングが好きだったっけ……?

 ……あー……確か、たまに俺の膝の上で毛を梳かしてやるとリラックスして寝てたりしたよな。

 そういえば俺がブラシを持つと尻尾を振って近づいて来てたっけ。

 大体はブラシを持ってそのまま風呂に連れて行くから、しょんぼりする姿ばかり記憶に残ってる。


「レオ、気持ち良いか?」

「ワウー」


 背中から優しくブラシで梳かしてやってると、レオはリラックスしてるように息を漏らす。

 洗う時と違って、これなら抵抗されないから楽でいいな。

 まぁ、大きくなって面積が広いから、これも結構な重労働だけどな。

 大きな体をブラシで梳かしてたら結構な時間がかかってしまった。

 これで、毛に付いた埃なんかも取れたはずだ。

 最後に……。


「もう一度お湯で流すぞー」

「ワフ!?」


 お湯を掛けられるとは思って無かったレオが驚いて鳴くが、それに構わず桶からお湯をレオに掛ける。

 何度かそれを繰り返して、レオのお風呂終了だ。

 お湯を流し終わったレオが今度は体を震わせて、体に付いた水気を飛ばした。


「……レオ……俺が近くにいるのにそんな事をすると濡れるだろう……」

「ワ……ワゥ」


 すまなさそうに鳴くレオ。

 まぁ、後で洗えばいいかと考え、水気を切ったレオと風呂場の外へと向かう。

 俺はレオを風呂場の外に連れて行き、扉越しにライラさんへと声を掛けてレオの体を拭くのを任せる。

 俺だけは風呂場に戻って体を洗い始める。

 まだ俺が風呂に入って無かったしな。

 しっかり石鹸を泡立てて体を洗う。

 石鹸を洗い流した後、思いっきり足が伸ばせる湯船へと浸かった。


「ふぁー」 


 お湯に浸かる時、声が出てしまうのは仕方ない事だと思う。

 やっぱり、運動した後の風呂は最高だなぁ。

 思ったより、レオの体を洗うのは重労働だったからな。

 俺はお湯に浸かってリラックスしながら、動かし疲れた腕をしっかりマッサージして、しっかりと風呂を堪能した。



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