第43話 お風呂上がりのレオは輝くような毛並みでした



 たっぷりと時間をかけて湯船に浸かって温まった後、風呂場から出て体をしっかりタオルで拭き、服を着た俺は脱衣所から出た。

 脱衣所を出てすぐの所でライラさんがいつものように待っていて、クレアさんとティルラちゃんが客間にいると聞かされたので、そちらに向かう。


「レオもそっちにいるんですか?」

「はい、そちらでお嬢様方と過ごされています」


 ちなみに昨日は部屋から風呂へ行き、その後自力で戻って来てるので、風呂と屋敷の位置関係は把握してる。

 だから今回はライラさんの案内は無しになった。

 何故か落ち込み気味のライラさんは「お茶を淹れて来ます……」と言い残して厨房へ向かった。


「……案内したかったんだろうか?」


 ここの使用人さん達は変わった人が多いのかもしれないな。

 そんな事を考えながら、一人で屋敷内を歩いていたらすぐに客間に着いた。

 客間のドアを軽くノックしながら中に声を掛ける。


「タクミです。お風呂から上がりました」

「どうぞ」


 ドアを開けたのはライラさん。

 え? さっき厨房に行ってたよな?

 とぼとぼと歩いて厨房に向かうライラさんの後ろ姿を見送ったはずなんだが……。

 ドアを開けたライラさんの横には、お茶を淹れたポットとカップの乗ったお盆を持っているゲルダさん。

 俺……この屋敷の移動にまだ慣れてないのかな……きっと俺は遠回りをしてここに来たんだろう……きっと……。


「タクミさん、レオ様のお風呂お疲れ様です。一人で洗うのは大変だったのでは?」


 ライラさんが俺より先に客間にいる事を驚きながら中に入ると、クレアさんから声を掛けられた。


「まぁ、レオは大きいですからね。それに嫌がってもいましたから、それなりに大変でしたよ」

「そうでしょうね。今度からは当家のメイドに任せますか? それなら数人掛かりで洗う事も出来ますから」

「んー……とりあえず何回かは俺が洗おうと思います。大変な事をメイドさん達に任せたくありませんから。それに、レオがここのお風呂に慣れるまでは俺が一緒に居た方が良いでしょう」

「メイド達は気にしないと思いますけど……。でも、そうですね。レオ様が慣れるまではタクミさんがいた方が良いでしょうね」

「私達はいつでもレオ様を洗う準備は出来ておりますので、いつでもお申し付けください!」


 何故かライラさんが意気込んでいる。

 もしかして……ライラさんってレオの事、というよりレオのフカフカな毛を触りたいとか?

 ティルラちゃんがはまるくらいだからなぁ、あれは確かに癖になるかもしれない。


「わかりました。レオが慣れたら任せる事にしますよ。慣れないうちはレオも嫌がって抵抗するかもしれませんから、あの大きな体で抵抗したら危ないかもしれませんからね」

「レオ様が抵抗……」


 ゲルダさんの方はレオが暴れる姿を想像したのか、顔を青ざめさせてる。

 レオが暴れたりしたら、細身なゲルダさんは簡単に弾き飛ばされるかもしれない。

 まぁ、レオは優しい子だからそんな事はしないけどな。

 ゲルダさんはまだ少しだけレオの事を怖がってる部分があるみたいだなぁ。

 少しずつ慣れて行けばいいか。


「タクミさん! その時は私も一緒に入って良いですか?」


 ティルラちゃんはどうしてもレオと一緒に風呂に入りたいようだ。

 レオもそうだけど、お互いすごい懐いてるなぁ。


「ああ、メイドさん達となら構わないよ。ですよね、クレアさん」

「ええ。ティルラ、メイドとなら一緒に入っても良いわよ」

「やったー!」

「ワゥ……」


 喜んでレオに抱き着くティルラちゃんだが、レオの方はさっきから風呂の話が続いてるからか、いつもの元気が無い。

 そんなレオに抱き着いてるティルラちゃんが、何かに気付いたように毛に埋めていた顔を上げる。


「タクミさん、レオ様の毛が凄く気持ち良いです!」

「ははは。さっきお風呂で洗いながら気付いたんだけど、レオの毛って結構汚れてたんだよ。丁寧にブラッシングして汚れと一緒に埃も落としたから、今ままでよりフカフカになってるはずだと思うよ」

「ふわー。レオ様って本当はこんなにフカフカだったんですねー。凄いです!」

「ワフー」

「初めて見た時よりも、毛が銀色に輝いて見えますね。これが本当のシルバーフェンリルの毛並みですか……」


 ティルラちゃんは感動しながら、レオの毛に顔を埋めてフカフカを楽しんでる。

 レオはそんなティルラちゃんを見て顔を寄せて頬を擦り付けてた。

 クレアさんの方は、レオを見て感心してるようだ。


「確かにレオの銀色の毛は凄く綺麗ですね」

「はい」


 俺もクレアさんと同じように感心してる。

 元々マルチーズだったレオは、白い毛並みだった。

 その時から綺麗な毛並みだったが、今の銀色は体の大きさもあって神々しくすら見える程だ。

 というか、毛も多少伸びてるみたいだな、今まで体の大きさにしか目が行って無かったが。


「シルバーフェンリル……この銀色の輝きを見ると、気高く何物にも従わないという伝説も納得できますね」

「そうですな、クレアお嬢様。私も文献では知っていましたが、本来のシルバーフェンリルが放つ銀の輝きがこれ程とは……今までも素晴らしい毛並みだとは思っていましたが……」

「そうね……伝説は過剰に言っている物と思っていたけど、これを見ると本当に正しかったのだと思わされるわ」

「そうですな」

「……セバスチャン、あの伝説が全て事実であるならもしかしてあの森は……」

「……伝説を信じるならば、そうなのかもしれません」


 何やらセバスチャンさんとクレアさんが二人でレオの毛を見ながら話をしている。

 どうやらシルバーフェンリルの伝説らしいが、俺はその伝説を聞いた事が無いので、何を話しているのかいまいち理解出来ない。

 聞いてみるべきかな? と思って声を掛けようとしたら、逆にクレアさんの方から声を掛けられた。


「タクミさん、最初に会ったあの森の事ですが」

「あぁ、はい。ラモギを探していた森ですね。あの森がどうかしましたか?」

「あの森は、我がリーベルト家初代当主様が通っていた森という伝説があるのです」



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