第40話 公爵家と薬草売買契約をした場合の利点を聞きました



「貴族が商売をする。これは一種のブランドなのです」

「ブランド……」

「領主である貴族が商売をした時、その領内に住む民は、領主が売り出した物だから買うという民もいます。これは領主が領民に信頼されているかどうかによって違いますが、領民から愛されてる領主貴族の売り出す物は、一般の商人が売り出す物よりも売れるのです」

「質の良し悪しというのもありますな。まぁ貴族であるなら質の悪い物を売り出さないだろうとの信頼はもちろん、貴族としても粗悪な物を売って信頼を失うわけには参りません」

「つまり領民と領主の信頼で成り立っている商売がブランドになる、と?」

「そういう事です」


 貴族がブランド品を売る……高級ブランドかな?

 信頼されてる貴族が売るという事がブランドなわけか。

 クレアさん達公爵家は利益をかなり出してるという事は、領民からの信頼は厚いるようだ。


「私が考えているのは、タクミさんの栽培した薬草をリーベルト家のブランド品として売り出す事です。公爵家が取り仕切る事で、確かな物であるとの信頼を得る事が出来ます。もちろんタクミさんには、責任を持って我がリーベルト家から相応の報酬が出る事になります」

「ふむ」

「市場を混乱させないために、公爵家が取り仕切り、タクミさんには薬草の栽培をしてもらう。さすがに何でもかんでも大量に栽培して売るわけにも行きませんから、そこは実際に売る商店の方で調整してタクミさんに栽培してもらいます」


 公爵家が持つ商店で販売する代わりに、生産する量は公爵家や商店から指示が来る……という事で良いのかな?


「もちろんタクミさんが、公爵家に頼らずご自身で商売をなさりたいのであれば私は止めません。報酬はしっかり用意するよう考えていますが、ご自身で売られた方が利益は出しやすいでしょう」

「んー……そこは気にしてませんね。俺が主体になって商売がしたいわけではありませんから」


 俺からすると、薬草を指定の数生産して公爵家に卸す。

 それで得たお金で生活基盤を築けるだけで十分だ。

 右も左もわからないような世界、実際に売るのは任せてしまった方が得策だろう。

 利益が自分で売るより下がるのは仕方ないが、知らないうちに使えるようになった能力だしな。

 能力使用も労力として大したことは無いのだから、ほとんど楽して儲けるようなもの。

 かなりの好条件だと思う。


「俺は、クレアさん達公爵家に任せたいと考えます。……俺には商売の才能はあまりないでしょうからね」

「わかりました。とは言え、草案のようなものです。本来公爵家の現当主はお父様です。許可も無しに薬草を追加したり、タクミさんを雇うに近い形で生産してもらうわけには行きません」

「クレアさんの……という事は今すぐには?」

「ええ。一度お父様と話す必要があります。おそらく許可が取れない事は無いでしょうが……」

「ん?」

「……お父様と会って話す時、必ずお見合い話しをされるのが億劫だな、と……」

「それは……確かに……」


 昨日散々愚痴った程だ、よっぽど父親からのお見合い話は多いんだろう……確かほとんど毎日って言ってたっけ。

 そんな父親と離れて暮らしてるクレアさんが久しぶりに会うんだ、絶対お見合いの話は来るだろうなぁ。

 少しだけクレアさんに同情した。


「お父様に会うまでにタクミさんとの契約内容等、色々考えておきますね。タクミさんも、もう一度よく考えて契約を結ぶかを決めて下さいね。……お見合いの断り文句も考えておかないと……!」

「……わかりました」


 最後の一言に一番力が入ってたな……。

 お見合いの件にはあまり触れないようにしよう。

 その後、俺は本を見ながら色々な薬草を、『雑草栽培』で栽培出来るのかを試した。

 本に載ってる薬草はほとんど栽培出来たが、中には出来ない物もあった。

 ネーギという、どう考えても日本で言うネギと同じ物だ。

 使い方の一つに首に巻くと病を鎮めるなんてのがあった。


「どこの民間療法だ……」


 それはともかく、ネーギは『雑草栽培』では栽培出来なかった。

 セバスチャンさんに聞いてみた所、ネーギは食用として流通してるようなので、農業用の植物として能力が効かなかったのだと思う。

 一体誰が雑草と農業用とで判別してるのか気になったが、考えてもわからないので気にしない事にした。


「……ふぅ」


 昼食の時間まで、色々と『雑草栽培』を試してみた。

 色んな薬草が栽培出来て、今裏庭はちょっとした薬草畑になってる。

 ただ、本に載ってる薬草を栽培していく中で一つだけ本にも載ってない、今まで見た植物の記憶にもない物が栽培された。

 その植物に関する情報が一切無いのに栽培出来てしまった植物だ。



「……頭に思い浮かべた植物が栽培されるんじゃなかったのか?」


 これが出来た時は何を考えていただろうか……。

 確か……レオとティルラちゃんが裏庭を走り回って遊び始めた姿をぼんやりと見ながら、あれに混じったら疲れるだろうなぁと考えていたと思う。

 その後、栄養ドリンクの事を思い出して、疲れの取れる物ってないかなぁとか考えながら地面に触れたはずだ。

 気付いたら、土から茎のない紫色の葉っぱが1枚だけ顔を出していた。

 一応それを摘んだけど、効果のわからない物を使ったり売るのは怖い。

 クレアさんやセバスチャンさんにも見せたが、知らないとの事だったので、部屋に持ち帰る事にした。


「とりあえず、ここに置いておくか」


 見た事のない植物をとりあえずと部屋にある机の上に置いておき、俺は食堂へと向かった。

 さすがにもう行き方は覚えたので、今回はライラさんに案内してもらわずに済んだ。

 今日の昼食は、パスタだった。

 日本で言うスパゲッティのような細く長いパスタでは無く、平麺で幅が数センチある麺だ。

 ヘレーナさんの作る料理は美味しい物ばかりだから、これも美味しいんだろうな、なんて考えながらお皿の横に置いてあるフォークを手に取った。



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