第39話 ロエは大変高価で効果の高い植物でした



 セバスチャンさんはほんとに喜々として説明するなぁ。


「その効果の高さから、様々な人に求められる薬草ですが、群生する場所が定かでは無く、しかも数が少ないのです。つまり、希少な薬草というわけですな。希少で求める人が多いという事で高価な薬草となっております」

「希少……」


 日本だとアロエはそこらへんに生えているくらいだ。

 日当たりのいい場所に行けば見つける事も多かったし、自宅で簡単に鉢植えにして栽培してる家もあるくらいだ。

 効果といい、希少性といい、やっぱり日本のアロエとは違うのかもしれないな。

 それか、この世界がアロエにとって適してない環境なのかもな。


「備蓄の薬草が栽培出来ればと思っていましたが……こんな高価な薬草を栽培出来るとは……」

「……どのくらいの値段になりますか?」

「そうですね……タクミ様が栽培されたロエは10枚以上の葉を付けています。それだけで家が建つ程かと思われます」

「……家が……」


 そんなに高価な物だったとは……。


「これ、薬草を売って商売とか出来てしまいますかね……?」

「そうですね、ロエに限らず他の薬草も栽培出来るのではないかと思います。ギフトで簡単に栽培が出来るのなら元手のかからない商売が出来ますな」

「タクミさん、薬草を売って商売をするんですか?」

「……いえ……まだ商売をするかは決めていませんが、この世界に来てこのままクレアさん達のお世話になるだけじゃなくて、ちゃんと働かないと……とは考えてます」


 厚意に甘えすぎないようにしないとな。

 というより、お金も稼がずお世話になり続けるとか俺の精神が持ちそうにない。

 前の世界にいた時は、仕事しかしていないくらいの生活だったからな……何もせずにいるのは気が咎める。

 こういうのも、ワーカーホリックって言うのかな?

 のんびりしていこうとは考えてるが、働かずに生きて行こうとは思って無い。

 それに、この『雑草栽培』を使って薬草を売る商売が出来たら、少ない労力で稼げるだろう。

 これが能力を活かす事に繋がるのかもしれないな。


「……さすがにロエばかりを栽培していると価格は当然落ちて来ますし、大量にあると市場が混乱し兼ねませんな」

「そうね。……タクミさん、とりあえずこのロエは我が屋敷の備蓄する薬草としても良いですか?」

「え、ええ。それはもちろん構いません。元々、屋敷に備蓄出来る薬草を増やそうと思っていましたから」

「ありがとうございます。それと、もしタクミさんが『雑草栽培』を使って商売をなさるなら、教えてくださいね。私が良い方法を考えておきます」

「何かあるんですか?」


 ロエは価値は知らなかったが、この屋敷でお世話になってる家賃代わりにしてもらえれば良いかなと思う。

 それはともかく、商売に関してクレアさんには何か考えがあるようだ。

 俺は今まで、バイトはもちろん就職してからも接客を含めて商売とは縁遠い仕事をしていた。

 だからもしクレアさんが商売をするうえで良い方法というのを考え付いたならそれに任せるのも良いと思う。

 交渉とか苦手だしな。


「先程セバスチャンが、市場が混乱するかもしれないと言っていましたが、それは『雑草栽培』で大量に作り出して売った場合の事ですよね?」

「そうですね。急に希少な物が大量に出回ると混乱するというのはわかります」

「そうですな」


 確かにそうだな。

 今まで希少で高価だった物が、大量に売り出されたら、今まで薬草を扱っていた商人達が慌てるのは間違いない。

 セバスチャンさんもクレアさんの横で頷いている。


「そこで、です。私達リーベルト家がその薬草を売る商売を取り仕切るのです」

「リーベルト家って事は公爵家って事ですよね?」

「はい、そうなります」

「成る程……そういう事ですか」


 セバスチャンさんは一人で納得してるようだけど、公爵家で取り仕切るとどうなるんだろう?

 そもそも公爵の地位にある者が商売に手を出して良いのだろうか。


「我がリーベルト家は領内外問わず、多少の商売をしています。領主としての税では賄えない費用や、貴族の暮らしをするうえでの費用等……税は領内を統治する事や有事に備えるための軍隊を維持するので精一杯なのです。商売で得た利益によって私達は生活をしています」

「そうなんですか?」

「はい。もちろん、貴族によっては商売をせず税を上げ、その税を使って生活をする貴族もいるようですな。貴族によって商売をするしないは自由ですし、税をどれだけ取り立てるかも自由なのです。とは言え、民が生活するのも困難な程の税だと、王家から処罰が下りますが」

「まぁ、そこを上手く隠して民から税を搾り取って私腹を肥やしてる貴族もいるようですけどね」

「……成る程」 


 領内の税金の額は領主である貴族の自由。

 そして商売をするのも自由。

 早い話が、貴族として生活するうえでどのように費用を捻出するかは貴族次第って事だろう。

 行き過ぎると王家が介入するから注意は必要なんだろう。

 クレアさんの言うような私腹を肥やす貴族ってのはやっぱりいるみたいだけどな。


「我がリーベルト家では、税を出来る限り低くして民の生活を豊かにさせようと考えています。幸いな事に、歴代の当主や現在の当主……お父様と周りの側近は商才がありましたので、リーベルト家は十分な利益を得ています」


 こんな大きい屋敷を建てるくらいだもんな。

 それなりどころかかなり儲けているんだろう。

 もしかして、クレアさんの父親がクレアさんやティルラちゃんにお見合いの話しを頻繁に持って来るのは、商売を円滑にするためなのかもしれない。

 まぁ、会った事も無い人だから本当の所はわからないけど。

 政略結婚ってイメージあんまり良くないよな……俺の偏見かもしれないが。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る