第38話 『雑草栽培』を試してみました



「しかし『雑草栽培』で薬草を、ですか……」

「どうかしましたか、セバスチャンさん?」

「いえ、もし薬草類が簡単に入手出来るのであれば助かる、と思いまして」

「そうなんですか?」

「はい。この屋敷には今、薬草の備蓄がありません。ラモギは比較的入手しやすい薬草のはずなのですが……それすらありませんでした。なので、それらを栽培して頂きますと、何かあった時に使えるかと」


 成る程、薬の備蓄のためなんだな。

 確かに、誰かが唐突に病気になった時に使える薬が無いと不安だ。

 俺も必ず風邪薬は切らさないようにしてた。

 風邪程度で仕事を休んだら怒鳴られるからな……。


「まぁ、実際どんな薬草が栽培出来るかわかりませんからね。本を見て試してみます」

「お願いします」

「タクミさん、私も見ていて良いですか?」

「ええ、危ない事は無いと思いますので大丈夫ですよ」


 危ない事……無いよな?

 ただ植物を生やす事が出来るか試すだけだから、大丈夫だと思う。


「それでは、タクミさんが『雑草栽培』をするところを見せてもらいますね」


 何やら期待してる様子のクレアさん。

 少しだけ緊張して来た……。

 そんなに期待されても俺の『雑草栽培』が上手くいくとは限らないんですよ?

 まぁ、ラモギの時は無意識とはいえ、上手く行ったけど。

 その後しばらく、紅茶を楽しみつつまだじゃれ合ってるレオとティルラちゃんを眺めて和やかに食事休憩の時間は過ぎて行った。


「こちらに、薬草の詳細が書かれています」


 食後の休憩が終わった後、本を持って来たゲルダさんから受け取り、俺とレオ、クレアさんとセバスチャンさんは裏庭に出た。

 ティルラちゃんは……レオの背中に乗ってるのか。

 昨日遊んだ時に乗ってから気に入ったのかな?

 裏庭に出た俺は、少しだけ皆から離れて本を開く。


「ふむ……色んな薬草があるんだな……」


 本を見てる俺を皆が注目してるのがわかる。

 真剣な目で見てるクレアさんとセバスチャンさんの期待なのか何なのかわからない視線が刺さって来るように感じるから……。

 ……ちょっとやりにくいけど……


「よし、この薬草にしよう」


 俺は本に載っていた薬草の一つロエという植物に決めた。

 ロエは外傷や火傷に効果があり、葉っぱが肉厚で太くその先には棘があって少し硬い。

 葉の内部がゼリー状になっていて、食用にもなるが葉を切り開いて傷口に当てる事で傷を癒す効果が有る、と書いてあった。


「……これって、アロエかな?」


 小さい時、近所に住んでたお婆さんが、転んで怪我をした傷口にアロエを貼ってくれたのを覚えてる。

 ゼリーっぽい葉の中といい、固めの棘がある事といい、アロエって事で良いんだと思う。

 知ってる植物なら頭に思い浮かべやすい。

 俺は本を閉じて右手に持ち、頭の中でアロエ……ロエの形を思い浮かべながら左手を地面に付けた。


「使いますよ……」

「……はい」

「……どうぞ」

「ワフ」

「ワクワク」


 皆からの期待の視線が強くなった気がする……。

 少し緊張するが、集中を乱さないように気を付けながら、頭に浮かべたロエを意識する。

 えっと……何か言った方がいいかな……。


「『雑草栽培』」 


 ちょっと恥ずかしいが、ギフトの名前をそのまま言ってみた。

 皆からの視線がちょっと痛い。

 変な目で見られてるわけじゃないんだろうけどなぁ。

 俺が名前を言って数秒……地面から手を押される感覚がした。

 成功か?

 左手を地面から離してみると、そこからにょきにょきと緑色の植物が伸びて来た。


「まぁ!」

「おぉ!」

「わぁ!」

「ワフ!」


 俺が触れていた地面を見て、皆が感嘆の言葉を漏らした。

 生えて来た植物を観察していると、その植物は葉を伸ばして棘を生やし、しばらくしてその成長を止めた。

 俺が思い浮かべた植物、アロエにそっくりな物が出来上がった。

 どうやら成功したようだな。


「これは……ロエですか?」

「あの葉の棘といい、おそらく間違い無いでしょう」

「そうです。本に書いてあったロエの特徴を思い浮かべながら『雑草栽培』を使いました」

「凄いです、タクミさん!」

「ワフ! ワフ!」


 クレアさんとセバスチャンさんは驚き、ティルラちゃんとレオは喜んで声を上げた。


「タクミさん……ロエを栽培……出来たんですね」

「まさかロエとは……」

「確かに出来ましたけど……ロエに何かあるんですか?」


 アロエ……いや、ロエは日本だとよく見かける植物だ。

 驚く程の物でもないと思うんだけど……。


「……タクミ様はそのロエがどういう物か知って栽培したのですか?」

「えっと……本に書いてある内容は読みました。それに、俺がいた世界では同じような植物があって、見た事があったので思い浮かべやすかったのでこれにしました」

「……そうですか……クレアお嬢様?」

「……そうね……セバスチャン、ロエの事を説明してあげて」

「わかりました」


 セバスチャンさんによるロエ講座が始まるようだ。

 ロエを見た驚きはまだ続いているようだが、説明する事に喜びを感じてるのが伝わって来る。

 やっぱり説明爺さんだ……。


「ロエについてですが……タクミさん、効果の方は?」

「ええと、本に書いてあったのは外傷や火傷を癒す……でしたね」

「そうです。ロエは体に付けられた傷を癒す薬草です。その効果は素晴らしく、葉を切って内部のゼリー部分を出し、それを傷に当てただけで治す事が出来るのです」

「はぁ」


 その辺りはアロエと一緒だな。

 まぁ、貼る部分によってはゼリーの感触が嫌だったりする事もあるけどな。

 小さい頃貼ってもらった時は、絆創膏より治りが早かったと思う……気休めかもしれないけどな。


「ロエは傷に当てた瞬間、傷を癒す事が出来るのです」

「……当てた瞬間……って事は、貼ったりはしないんですか?」

「ええ。貼る事はありません。ゼリー部分を傷に当てただけで治療は終わるのですから。致命傷までは癒せませんが、骨まで届くような深い傷ですら跡形も無く癒します」

「……」


 ……効果が高すぎないか?

 俺の知ってるアロエは、傷の部分に貼ってしばらくそのままにしておかないといけない。

 それに、本来ある人間の自然治癒力を多少高めるくらいで、跡形も無く治す事なんて出来ないはずだ。

 俺の知ってるアロエとは違う物なのか?

 ……でも、見た目はアロエと同じだ。

 アロエと似たこのロエにそんな高い効果があったなんて……

 俺はセバスチャンさんの話に驚きながら、地面から生えてるロエを見た。



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