第35話 プレゼントを渡しました
「わぁ! レオ様だ! ありがとうございます、タクミさん!」
歓声を上げて受け取ったティルラちゃんは、笑顔を浮かべてネックレスの飾り部分、狼を見てる……良かった、喜んでくれているようだ。
「それで……次に、クレアさん。……どうぞ」
クレアさんに対しては殊更緊張しつつ、白い花の髪飾りを渡す。
……手が震えてないかな……大丈夫か俺……。
でも、何でクレアさんには特に緊張するんだろう……ティルラちゃんにはここまでじゃなかったのに……。
「これは……綺麗ですね……。タクミさん、ありがとうございます。嬉しいです!」
「ははは、喜んでもらえて良かったですよ」
クレアさんは受け取った髪飾りを見て嬉しそうに微笑む。
ティルラちゃんも可愛い笑顔だけど、やっぱり美人さん達の笑顔は良い物だな。
少しだけクレアさんの頬が赤いのは何でだろう?
まぁ、無事にプレゼントを渡せたから良いか。
「……似合いますか?」
髪飾りをライラさんに付けてもらったクレアさんが、俺に感想を求める。
「ええ、凄く似合ってますよ。綺麗な人がさらに綺麗になりましたね」
「!?……そんな……綺麗だなんて……」
俺の言葉に瞬間的に真っ赤になったクレアさんが俯く。
あれ、俺今……!
………何で俺、あんな事をサラリと言えたんだ!?
自分が言った事の意味を自分でも理解して、顔が焼けるように熱い。
俺もクレアさんと同じように真っ赤になってるんだろうか……?
「姉様、タクミさん、どうしたの?」
「……な、何でも無いのよ、ティルラ」
「……そ、そうだよ。何でも無いからね、ティルラちゃん」
不思議そうな顔をしたティルラちゃんに尋ねられるが、どうにか誤魔化した。
……ティルラちゃん、首を傾げてまだ不思議そうに見てるな……誤魔化せてないか……。
「若い人達は良いですなぁ」
「そうですね」
「ライラさんも十分若いですよ」
「ワフワフ」
クレアさんと二人で真っ赤になって俯いたり、ティルラちゃんからの追求を何とか逃れようとしている俺達。
セバスチャンさんやメイドさん達からは、微笑ましいものを見るような目で見られていた。
レオも笑うように声を漏らし、俺達の事を見ている。
しばらく赤い顔のままだった俺達は皆を楽しませるようにあたふたしていたのだった。
……ティルラちゃんだけは最後まで不思議そうにしてたけど。
――――――――――――――――――――
「ふぅ」
「ワフ」
「ただいま、レオ」
見世物になった食堂での一幕の後、遅い時間という事でお開きになった。
部屋に戻ろうとしたところで、ライラさんにお風呂を勧められて、入って来たところだ。
中世っぽい文化の異世界、ちゃんとしたお風呂があった。
しかも湯船に浸かれたのだから驚きだ。
これだけ大きい屋敷を構えるだけあってお風呂場も大きかった。
浴槽には多分、10人入っても足を延ばす余裕があるんじゃないだろうか。
しっかり体を洗って、お湯に浸かり、体を温めて出て来たからポカポカだ。
「レオも近いうちに風呂へ入らないとな」
「……ワゥ」
風呂と聞いただけで小さく鳴いて離れてしまった。
体が大きくなっても風呂嫌いは相変わらずなのか……森の中では喜んで川に入って遊んでたのに。
「せっかくの綺麗な銀の毛がくすんだりしたら嫌だろ?」
「クゥーン……」
「甘えても駄目だぞー」
「……ワフ」
しょんぼりした雰囲気でレオはベッドの横で丸まってしまった。
拗ねたかな? まぁ明日になれば機嫌は直るだろう。
レオが拗ねてしまったので、俺はベッドに潜り込みながら考える事にする。
「『雑草栽培』……か」
雑草と聞くとそこら辺に生えてる草を思い浮かべる人が多いんじゃないだろうか。
俺もそうだ。
名前も知らない、道端に生えて誰にも顧みられず、たまに通行人に踏まれたり……あまり良いイメージじゃないな。
名前だけ聞いたら、役に立たない能力だと思うかもしれない。
……実際俺も最初はそう考えた。
けど、よく考えてみたらラモギのような薬効のある植物を栽培する事が出来たんだ、何にも役に立たないという事はないだろう。
これからのために、能力がどういう物かをベッドの中で考える。
「発動条件は……」
無差別にそこらに雑草を生やすわけじゃない。
今までこの能力が発動したのはラモギだけだ。
ラモギの事を考えながら地面に触れていたら、その触れた場所から生えて来た。
つまり、俺が触れた場所に、俺が考えた植物が生えて来るんじゃないかという事。
「そういえば、ラモギを一瞬で乾燥させた事もあるな……」
これも生やした時と同じく、乾燥状態を思い浮かべながらラモギに触ったらいつの間にか乾燥して薬に使えるラモギになっていた。
ここから考えられるのは、何も考えていない時は特に発動しないが、植物の事を考えながら地面に触れると植物が生えて来る。
植物にこうなって欲しいと考えながら、対象の植物に触ると変化が起きる。
要は考えながら触れる、という事なんだと思う。
「俺が触れた物に雑草が……か」
確かイザベルさんが、農業等に使える植物、野菜とか以外の植物を生やせるって言っていた。
だから野菜を栽培する事は出来ないんだろう。
「……もし出来たら農業に活用出来たんだけどなぁ」
農業はやったことは無いが、畑を耕したりする事に少し興味を持った時期がある。
でも、この能力だとその農業の邪魔になる雑草を生やしてしまう。
雑草は野菜を栽培するための栄養を土から取るって聞くからな。
無差別ではないが、農業用の植物を栽培してる時にうっかり雑草を生やしてしまってもいけないだろう。
「農業に便利なら能力だったら、この世界での仕事に出来たんだけどな……」
まぁ使えない事を考えるのは辞めておこう。
今はこの『雑草栽培』をどう使うかだ。
ラモギは生やす事が出来た。
それなら薬草に使える植物には使えるのかもしれないな。
どの植物には使えて、どの植物には使えないかを知る事が大事だと思う。
それと、ラモギを乾燥させたように、植物に対する変化はどういう物なのかも試したい。
単純に、その植物が薬等の使える状態にするものなのか、それとも考える内容によって自由に変化させることが出来るのか。
……色々試したり調べたりする事が多いな。
「……のんびりとやって行こう、なぁレオ」
拗ねたレオからの返事は無かった……ちょっと寂しい。
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