第34話 公爵家とシルバーフェンリルの関係を知りました



「王家は何者にも負けない国の象徴として、シルバーフェンリルを模した紋章なのです。それに対し、リーベルト家の紋章は牙と爪を表す事で、何者をも倒す象徴としています。それと……随分古い伝説なのですけど、リーベルト家は初代当主様がシルバーフェンリルと懇意にしていたとの伝説があるのです」

「シルバーフェンリルと懇意……ですがクレアさんは最初、何者にも従わないと言っていましたよね?」

「ええ、従えていたわけではないようなのです。初代当主様とはあくまで対等な立場だったという言い伝えです。実際の所は詳しくわかりませんが、シルバーフェンリルと懇意にしていた事で助けられ、多大な戦果を挙げた事で公爵という爵位まで授かったのだと伝わっています」

「多大な戦果……」

「はい、その頃はこの国も盛んに戦争をしていた時期らしく、初代当主様が戦争に赴くと何処からともなく風のように現れ、初代当主様を救ってくれたそうなのです」


 戦争をしてたら最強のシルバーフェンリルが助けてくれるって事か。

 シルバーフェンリルが強いのはわかるし最強と言われてるのは聞いたが、戦争でどれだけの戦果を挙げたのだろう。

 まぁ、最終的に王家の次に偉い公爵にまでなってるんだから、その戦果は目覚ましい物だったんだろうと推察出来る。


「戦争で多大な戦果を挙げ、国を勝利に導いた事から、リーベルト家ではシルバーフェンリルを何者をも倒す象徴としたのです。それからのリーベルト家では代々、シルバーフェンリルを敬う事を義務としています」


 つまり、シルバーフェンリルのおかげで公爵にまでなれたのだから、シルバーフェンリルさんありがとうって代々感謝を伝えろって事かね。

 ソーセージをたらふく食べて、床で丸くなってるレオがそのシルバーフェンリルと同じとはあまり思えないんだが……。


「ワウ?」


 俺がそんな事を考えながらレオに視線をやると、顔を持ち上げて「何か?」とでも言ってるように鳴いた。

 頼りになる相棒だよ、お前は。

 視線だけでレオにそう伝えた……伝わったかどうかはわからないけどな。


「リーベルト家が領主を務める地域の街や村ではシルバーフェンリルの事を知っている人が多いのです」

「公爵家の言い伝えがあるから……ですね」

「はい。今日も街でエメラダさんに声を掛けられましたが、私が一緒に居る事も、シルバーフェンリルだと考える理由になったようです」


 そういえば言ってたな。

 確か……『銀色の毛並みにクレア様と一緒に居られる事』だったか。

 クレアさんが公爵家で、その象徴がシルバーフェンリルだと知っていたから、クレアさんと一緒に居たレオがシルバーフェンリルだと思ったんだな。

 それに見た目や牙の特徴もあったから、わかりやすかったのか。


「なので、私達リーベルト家は、タクミさんとレオ様を歓迎致します。……それに、個人的にも助けてもらいましたしね、ふふ」

「ははは、助けたのはレオですよ」


 最後には笑って話を終えたクレアさん。

 やっぱり美人さんは笑った顔も素敵だねぇ。

 セバスチャンさんやメイドさん達、ティルラちゃんも朗らかに頷いてるのを見て、本当に歓迎されてるんだなと実感した。

 歓迎されてるのはわかってはいたが、部屋を用意してもらったり、身の回りの物を買うためのお金を出してくれたりするのは少し気後れしてたからな。

 とは言え、これからもずっとクレアさん達の厚意に甘え続けるわけにもいかないだろう。

 さしあたって俺のギフト『雑草栽培』、何か役に立つ事があるかじっくり考えないといけないな。


「……タクミ様、少しよろしいですかな」

「……何ですか、セバスチャンさん?」


 ふと今までクレアさんの後ろで控えていたセバスチャンさんが近づいて来て小声で話しかけて来た。

 セバスチャンさんは美形の老紳士だが、男と顔を寄せ合う趣味は無いんだけどな……。


「例の物をお嬢様方に渡すのはどう致しましょう? きっとお二方とも喜ばれると思いますが……」

「例の物……あぁ!」


 思い出した。

 二人に買った物があったんだった。

 思わず大きな声を出してしまった俺をクレアさんとティルラちゃん、メイドさん達は何事かと見ている。

 二人に買ったとはいえ、お金はセバスチャンさんの貸しにしてもらったから、あまり恰好は付かないが、渡すなら今が良いだろう。


「……セバスチャンさん、今渡しても大丈夫でしょうか?」

「お互いの素性等を話し合った事ですし、今が一番良いタイミングかと存じます」

「わかりました」


 部屋に荷物は置いて来たが、これだけはちゃんと持って来た。

 俺は二人に買ったプレゼントを取り出しテーブルに置いた。


「クレアさん、ティルラちゃん」

「何でしょうか?」

「何ですか?」


 二人は返事をしながらも、テーブルに置かれた物が気になるようだ。


「えっと……色々とお世話になってるお礼というか……二人に似合ってると思ったからというか……まぁ、立て替えてもらった物なんですけど……その……」

「……タクミ様、しっかりなさって下さい」


 どう渡すか考えて無かったため、何を言おうかとしどろもどろになっていた俺を横からセバスチャンさんから発破をかけられる。

 メイドさん達も、俺が何をしようとしてるのか分かったのか、応援するような目で見てるな。

 多分……食堂に集まる前にセバスチャンさんから伝わったんだろうな……クレアさんとティルラちゃんはまだわかっていない様子で首を傾げている。

 慣れてない事をするもんじゃないなぁ、なんて思いつつプレゼントを渡すために適当な言葉を探す。


「その……何と言うか……お世話になってる、感謝の印……です。……どうぞ」


 もっと良い言葉が無かったのか俺……。

 俺の慣れてない物言いは置いておいて、まずは近くにいるティルラちゃんに銀色の狼を模したネックレスを渡す。

 レオに懐いてるから喜んでくれるかな?



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