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第32話 夕食を作ってくれた料理長に感謝しました
第32話 夕食を作ってくれた料理長に感謝しました
クレアさんやティルラちゃんと和やかに話していると、食堂の入り口が開いてワゴンに乗せられた料理が運ばれて来た。
今日の夕食はソースのかかった肉のソテー、朝食の時より色が濃いドレッシングと一緒になったサラダ、白くて少しだけドロッとしたスープ……これはポタージュスープかな?
昨日は俺とレオの歓迎会とかで、量を多くして飾り付けに力を入れたって言ってたな。
多分、これがいつもの夕食なんだろう。
ちなみにレオの前にはソーセージが積まれてるが、昨日より量が少なく、サラダが代わりに置いてある。
テーブルの下、レオが直接座ってる床にはバケツサイズの入れ物に牛乳が並々と入っていた。
「クレアお嬢様、ティルラお嬢様、タクミ様、どうぞ召し上がって下さい」
料理が皆の前に配膳された後、食堂に入って来た料理人らしきコック帽を被った女性が促し、夕食が始まった。
まずはサラダを……朝のさっぱりしたドレッシングと違って、こっちのはちょっとこってりした味だ。
健康のためにしっかり野菜は取らないとな!
続いてメインのお肉。
牛肉っぽい食感と味、肉汁たっぷりでソースと絡めて食べるとさらにおいしい。
箸休め的にスープも一口。
口の中にあった油が洗い流されるようなさっぱりしたスープは、肉と一緒に頂くと味を引き立てる。
……この世界の料理って、どれも美味しい物ばかりだ。
米やみそ汁が無いから文化の違いはやっぱりあるけど、食べ物に不満を感じないだけでも先の不安は無くなるものだ。
「んー。やっぱり美味しいですね」
「ワウ」
「ありがとうございます」
レオと一緒に料理が美味しいと頷き合うと、コック帽を被った女性がお礼を言う。
「タクミさんも気に入ったようですね」
「それはもう。ここに来てからの料理は全部美味しいですから」
「フフフ。良かったわね、ヘレーナ」
「はい、クレアお嬢様。美味しいと言って頂く事が、我ら料理人にとって最高の喜びです」
「タクミさん、ヘレーナはこの屋敷の料理長を務めています」
「ヘレーナさん……美味しい料理、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、私共が作った料理を美味しいと言って頂いてありがとうございます」
ヘレーナさんとお互いお礼を言い合い、少しだけ変な雰囲気になった。
でもまぁ、美味しい料理を作ってくれた事に感謝、料理を美味しいと言って貰えた事に感謝、これって大事な事だと思う……多分。
それはそうと、見た目はまだ若い……20代かな……女性が料理長を務めるって、結構大変じゃないかな。
高級レストランとかで料理長になる人は大体40代~50代くらいの男性っていうのが俺のイメージだ。
イメージなだけで本当は違うかもしれないが、ヘレーナさんの若さで料理長というのは、やっぱりすごい事だと思う。
今まで食べた料理は全部美味しかったから、ヘレーナさんの腕が確かなのは間違いないな。
「ヘレーナ、今日の料理も美味しいです!」
「ありがとうございます、ティルラお嬢様」
ティルラちゃんは、ヘレーナさんの作った料理を食べながら満面の笑みだ。
昼寝をしたティルラちゃんは、元気いっぱいでニコニコしてる。
……これは、レオが寝るのは遅くなるかもしれないな。
食後のティータイム。
相変わらずライラさんが淹れてくれたお茶はおいしいな。
ソーセージをたらふく食べて、満腹になったレオは床に丸くなっている。
レオのお腹あたりには、ティルラちゃんが入り込んで触り心地の良い銀色の毛に包まれて幸せそうだ。
遊びたがると思ったが、意外にティルラちゃんがおとなしいな。
それだけレオの毛に包まれてるのが気持ち良いんだろう。
セバスチャンさん、ライラさん、ゲルダさんは後ろに控えており、お茶のカップが空になった時はすぐにお代わりを注いでくれる。
……ありがとうございます、美味しく飲ませて頂いてます。
ヘレーナさんは俺達が料理に舌鼓を打っている事に満足して、食器を持って食堂を出て行った。
このまったりしてる時間なら気兼ねなく聞けるかもな。
クレアさんの事をほとんど知らないからな。
「クレアさん」
「何でしょうか、タクミさん?」
「ええとですね……昨日は俺の事を話しましたが、今日はクレアさんの事を聞かせてもらえますか?」
「私の事、ですか?……そんな……私の事なんて……どうしよう……緊張して来たわ……」
俺は変な事を言っただろうか?
一度きょとんとした表情を見せたクレアさんは、小声で何か呟きながら顔を赤くしている。
小さく呟いたので、テーブルの向かいにいるクレアさんの声がはっきりと聞き取れなかった。
「……ええと、ですね。俺は昨日クレアさんと森の中で出会ったわけですが、クレアさんが何故この屋敷で暮らしてるのかとか、使用人さん達だけでなく街の人達からも敬われてるような感じだったので、何故かな……と」
「……そういう事ですか……わかりました。タクミさんの事を聞いておいて、私の事を話さないのはフェアではありませんものね……まったく、危うく勘違いしそうだったわ……」
ん? 何だろう……最後だけまた聞き取れなかったが……。
「クレアさん?」
「……いえ、何でもありません。ええと、私がどうしてこの屋敷で暮らしているか、でしたね」
「はい」
「端的に言いますと、私とティルラはお父様から離れるためにここにいるのです」
父親から離れるためとは穏やかじゃないな……その父親が何かしたのだろうか。
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