第16話 クレアさんに起こされました
ティルラさんが尊敬の眼差しで俺を見ているが、そんなに凄いもんじゃない。
ただ道端で拾った子犬を育てたら懐いてくれて、一緒にこの世界に来たらこんなに大きくなってシルバーフェンリルだと言われるようになっただけだからな。
「ワフ……ワフワフ」
「ん? あぁ、大丈夫だと思うぞ。クレアさん、ティルラさんをこっちに」
「え? ……はい。ティルラ?」
「はい!」
クレアさんは抱き着いたままだったティルラさんを離し、俺のところまで背中を押してやる。
初めて見るシルバーフェンリルに驚いてるのか恐れてるのか、気をつけの姿勢で俺とレオの前に来た。
「ワフー。ワウ!」
「きゃ!」
レオは少しティルラさんを窺うようにしながら顔を近づけ、ティルラさんの顔をぺろりと舐めた。
「ティルラさん、このレオは子供と遊ぶのが大好きなんです。思い切り遊んでやって下さい。あ、でも物を壊したりしては駄目ですよ?」
「……姉様、良いの?」
「タクミさんが良いと仰られるのだから大丈夫でしょう。それにレオ様はとってもかわいらしい方なのよ?」
「そうなんだ! ……えっと……レオ様?」
「ワフ! ワウワウ」
「きゃ! あはは、レオ様ー!」
恐る恐るレオを呼んだティルラさんにレオがまた顔を寄せ、その銀色に輝くフカフカな毛を押し付けるように頬ずりした。
くすぐったかったのか、笑いだしたティルラさんはそのままレオの体に抱き着き、銀色のフカフカな感触を楽しんでるようだ。
「ありがとうございます、タクミさん」
「いえいえ、レオは本当に子供と遊ぶのが好きですからね。ここは部屋の中なのでさすがに走ったりはさせられませんが、ティルラさんを喜ばせる事が出来たようで良かったです」
「はい。ティルラが私以外の方と接している時に、あんな風に笑うのは滅多に無い事なのですが……レオ様にも感謝ですね」
クレアさんは本当に優しそうな視線をティルラさんとレオの方へ向ける。
ふと見れば、セバスチャンさんもメイドさん二人も朗らかな顔でレオとティルラさんを見守っていた。
ティルラさん、クレアさんもそうだけど使用人さん達にも愛されてるんだろうな。
「クレアさん、明日にでも裏庭でレオを遊ばせたいんですけど、良いですか?」
「ええ、構いませんよ。その時はティルラも一緒になって遊びそうですね、ふふ」
「そうですね」
クレアさんと笑い合ってしばしの間、暖かい雰囲気が流れる中でレオと遊ぶティルラさんを見守った。
少し時間が経って、遊び疲れたのかそれともまだ完全に元気になっていなかったのか、レオの銀色の毛に包まれてティルラさんは眠ってしまった。
さすがにこのまま寝かせておくわけにもいかないと、ゲルダさんがティルラさんを抱きかかえて部屋へ寝かせに向かう。
レオに抱き着いたままだったので、引き剥がすのに少しだけ気を使った。
「タクミさん。今日はもう遅いですし、お休みになられてはいかがでしょうか?」
「そうですね。今日は色々ありましたから、さすがに疲れました」
「部屋の用意は出来ております。タクミ様、こちらへ」
「はい、ありがとうございます」
「ライラ、よろしくね」
「はい、畏まりました。クレアお嬢様」
「では、タクミさん。お休みなさい」
「クレアさん、お休みなさい。セバスチャンさんも」
「はい。お休みなさいませ」
クレアさんとセバスチャンさんにお休みの挨拶をして、ライラさんの案内で用意されてるという部屋へレオと一緒に向かった。
部屋に入ると、ベッドの横にお湯とタオルが置いてあったので、今日はそれで体を拭いてベッドに倒れ込んだ。
森の中をさまよったりもしたからな、体が汗や埃で汚れてるのを綺麗に出来てさっぱりした。
レオはベッドの横で丸くなって寝るようだ。
ベッドはかなりの大きさだが、レオはそれよりさらに大きくて乗れないからな。
満腹なのも手伝って、今日の疲れと共に意識が薄らいで来てやがて眠りに入る。
夢から覚める事も無く、やっぱりここは異世界なのかと諦めながら……。
ちなみに、案内された部屋は元の世界で俺が住んでいた10畳1Kの自宅が3個くらい入りそうな大きさだった。
やっぱり、豪邸って部屋も広いんだなぁ。
――――――――――――――――――――
「ワフワフ!」
レオの声が聞こえる……。
朝か……?
「ワウ、ワフワフ」
「……もうちょっと寝かせてくれ……」
「ふふ、タクミさんは朝が弱いんですね」
「!」
レオだけかと思ってたら、女性の声がした。
はっとなって起き上がり、眠い目をこすりながら周りを見る。
「……ワフ」
俺の顔の近くで溜め息を吐いたレオ、そのレオに抱き着いて離れようとしないティルラさん。
それと、ベッドの脇に立ってこちらを笑顔で見ているクレアさんがいる。
「クレアさん!?」
「はい。タクミさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
「……おはようございます。おかげさまで良く寝られました」
このベッド、今までこんなベッドがあったなんて知らなかったと言いたいくらいにフカフカなのだ。
寝転がると優しく包まれてるようで、今までに無かったくらい気持ち良く寝られた。
挨拶を交わして改めてクレアさんを見ると、窓から差し込む朝日に照らされて輝いてるように見えた。
神々しいとはこの事なのかもしれない。
綺麗な金髪が朝日で輝きを増して眩しいほどだ。
……というかレオ、クレアさんが来てたならもう少し早く起こしてくれよ、さすがに恥ずかしいじゃないか。
ん? もしかしてさっきのレオの溜め息は俺が起きなかったからか?
……まぁ、このベッドが気持ち良過ぎるのが悪いんだ、そういう事にしておこう。
「タクミさん、朝食の準備が出来てますので昨日の客間まで来て下さいますか?」
「はい、わかりました。すぐに向かいます」
「急がなくても構いませんよ。朝の準備もあるでしょうから。ほらティルラ、行くわよ」
「姉様、私はまだレオ様といます!」
「いけませんよティルラ。レオ様も困っているわ」
「ワフ」
「ははは、ティルラさんは本当にレオが気に入ったんだね」
「はい! レオ様は優しい方です!」
レオが優しいとわかるとは、この子見る目があるな。
見た目は怖い狼だからな……すぐに優しいと見抜けるのは凄いと思う。
「それとタクミさん、私の事はティルラと呼び捨てて構いません」
「良いのかい?」
「はい。タクミさんの方が年上ですし、レオ様を従えてる凄い方ですから!」
「……凄い方ではないんだけどね。じゃあ……そうだね、ティルラちゃんで」
「はい、それで構いません!」
ティルラちゃんの要望で、ちゃん付けで呼ぶ事になった。
子供をちゃん付けで呼ぶのは結構久々だな。
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