第17話 着替えや小物がない事に気付きました



 朝食のために客間へ行く前に準備をしようか、顔を洗ったりとかな。

 その前にレオからティルラちゃんを離さないと……レオは俺から離れないようだから、このままだと朝の準備する俺をティルラちゃんに観察されてしまう。

 別に変な事をするわけじゃないけど、子供とは言えずっと見られているのは恥ずかしい。

 男の朝の支度なんて楽しいものじゃないと思うしな。


「ティルラちゃん、これから皆で朝食を食べるんだ。レオもそうだけど、ティルラちゃんもこのままレオにくっついていたら食べられないよ?」

「……それは……困ります。お腹空きました」

「そうだね。だから、まずは朝食を食べよう? その後は裏庭で遊んで良いってお姉さんにも許可を取ってあるから」

「そうなのですか、姉様!?」

「ええ。ただし、ちゃんと朝食を食べてからよ」

「わかりました。今すぐ食べます!」


 レオと食後に遊べるとわかったからか、ティルラちゃんはレオから離れると走って部屋から出て行った。


「まったくティルラは……ですが、ここまでレオ様に懐くとは思いませんでした。すみません、タクミさん、レオ様」

「いえいえ、良いんですよ。子供は元気なのが一番ですからね。それにあのくらいなら可愛いものですよ」

「ワフワフ」


 俺の言葉に同意するようにレオも頷いている。

 今更ながらに思ったけど、頷くって結構器用な事してるよな。

 シルバーフェンリルになったからか? まぁこれくらい細かい事か。


「ではタクミさん、私はこれで。客間でお待ちしております」

「はい、すぐ準備して向かいます」

「ワウ」


 クレアさんが部屋から出て行くのを見送って、ベッドから降りて朝の支度を始める。

 とは言っても、着替えを持ってるわけではないので着替える物がない。

 レオの頭を撫でながら考えたけど、無い物は仕方ないか。


「スンスン……多分、匂いとかは大丈夫……だよな?」

「ワフ?……ワフ……ワウ!」


 レオにも嗅がせて確認したけど、大丈夫そうだ。

 ……レオ嗅覚が鋭いのは当然としても、人間の嫌な臭いをどう感じるかまではわからないけどな。

 とりあえず今日はこのままで、明日からはどうしよう……。

 さすがににおいとかは大丈夫だとしても、ずっと同じ物を着続けるわけにはいかない。

 セバスチャンさんあたりに後で相談してみよう……。


「何とか着れる物があれば良いけどなぁ……」

「ワウ」


 体格的にはセバスチャンさんと同じくらいだが、貸してくれるだろうか?

 執事服しか持って無いとか言われたらどうしよう……着たくないわけじゃないが、俺が着るとどうなるかちょっと想像出来なかった。

 着替えの事を考えるのは止めておいて、まずは顔を洗うか。

 俺が寝てる間にいつの間にか新しくなっていた、ベッドの横に置いてあるお湯とタオルで顔を洗い、念のため体も軽く拭いておく。


「ライラさんが用意してくれたのかな? もしかしてさっき起こしに来てくれたクレアさんかもしれないな……後でお礼を言っておこう」

「ワフ」


 髭剃りもしたかったが、さすがにそんな物はここに無い。

 これも後でセバスチャンさんに聞こう。

 この世界が中世ヨーロッパくらいの文化レベルだった場合、電動はもちろん、T字の剃刀すら無いかもしれないが、何かしらの方法で髭を剃るはずだ。


「まぁ、なんとかなるか。……この際髭を伸ばしてみるのも面白いかもしれないな。ダンディでいいかも……」

「……ワフ……ワフワフ」


 レオからどことなく、やめとけ的な雰囲気がする。

 声もちょっとそれっぽい感じに聞こえた。

 ……髭を生やしてダンディな男……なれないかな……職場では童顔って言われてたから無理か……はぁ。


「おっと、早く客間に行かないとな」

「ワウ」


 身だしなみを出来る限り整え、俺はレオと一緒に部屋を出た。

 部屋のドアを出てすぐ横に、ライラさんとゲルダさんが待機していたので、朝の挨拶をした後二人に案内されて昨日の客間へ向かう。

 部屋を出てすぐ壁を背にして立ってたから驚いた……。

 そんなにきっちりしなくても、大丈夫なんですよ?

 あと、昨日も行った客間に案内されたのは、俺がまだこの屋敷を把握しきれてないからだ。

 広すぎるせいもあって、部屋から客間に行くにはどうするのかまだ覚えてない。

 トイレだけは、しっかり覚えたけどな。

 客間に行く途中に一回寄っておいた。

 ライラさん、ゲルダさんお待たせしてすみません。



「お待たせしました」

「タクミさん、改めておはようございます」

「タクミさん! おはようございます! レオ様もおはよう!」

「おはようございます。セバスチャンさんもおはようございます」

「ワフワフ!」

「おはようございます、タクミ様。昨夜は良く寝られましたでしょうか?」

「はい。あんなに良いベッドと広い部屋を使わせて頂いて、ありがとうございます」


 入った客間には既にクレアさんとティルラちゃんがテーブルについていて、俺の到着を待っていた。

 ティルラちゃんが早く食べたそうにしてるな……結構待たせちゃったかな?

 セバスチャンさんと、メイドの二人はテーブルにはつかず、後ろに控えてる。

 皆と挨拶を交わしつつ、俺もテーブルについた。

 レオは俺の隣に椅子を使わずお座りの体勢。

 これで顔がテーブルの上まで来て、物を簡単に食べられるくらいなんだから、やっぱ大きいよな。

 テーブルの上にはパンとサラダ、ソーセージ等の肉類が入ったスープが既に用意されていた。

 もちろん、レオの前には大量のソーセージが皿に乗っている。

 ……朝から豪勢だなぁ。

 俺とレオだけの時は朝食なんて総菜パンと牛乳だとか、シリアルに牛乳だけなんて事もあった。

 時間が無い時は、ブロックの栄養食品を栄養ドリンクで流し込むなんて無茶な事もしたもんだ。


「それでは皆揃った事ですし、頂きましょう」

「頂きます」

「はい!」

「ワフ!」


 俺だけ手を合わせて食事の挨拶をしていて、他の皆はそんな事をしていない。

 レオは仕方ないとしても、クレアさんとティルラちゃんはそういう文化が無いのだろう。

 日本の文化だからな、この世界の宗教がどうなってるのかは知らないが、海外のような神への祈りを捧げるという事はしないようだ……まぁ、異世界だしな。

 皆で一斉に食事へ手を伸ばし、食事を始める。

 レオは首を伸ばしてソーセージを勢いよく口に入れた。

 俺はフォークを手にして、まずはサラダから頂こうと手を伸ばした。

 野菜は大事だよな。



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