第15話 クレアさんの妹さんが乱入しました



「魔法を行使するためには魔力を使う。これは当たり前の事ですが、魔力があるだけでは魔法は使う事が出来ません。魔法を使う上で一番重要なのは呪文です。これは体内にある魔力を集め、目的の魔法へと変換するためのものなのです」

「呪文で魔法を使う、と」

「呪文は魔法によってある程度決まっています。火の魔法、水の魔法、風の魔法、土の魔法等各種に対応した呪文があり、さらにそれらの属性をどのように発動するかを決めるものです。以前文献で読んだのですが、大規模な魔法の行使には呪文を一昼夜唱え続けて発動させたというものもありましたな」

「一昼夜も……」


 長ったらしい呪文をひたすら唱え続けるのか……それはさすがに辛そうだ。


「呪文には属性の決定、発動時の動作決定の効果があります。効果が高い魔法ほど細かく動作を決めなければならず、呪文が長くなるため発動までに時間がかかります」

「ちなみに一番簡単な魔法ってどんな呪文なんですか?」

「ふむ……実演してみましょう。よろしいでしょうか、クレアお嬢様?」

「ええ、構わないわ」

「では……ファイアエレメンタル・キャンドル」


 セバスチャンさんが呪文を唱え終わったと同時、指先から蝋燭の火くらいの大きさの火が出た。

 おぉ、これなら火を付けるのにライターいらずだ。

 どっちが便利かは何とも言えないけど。


「このように、呪文で魔力属性を火に変換し、蝋燭の火のような炎を出しました。これで出来る事と言えば、実際に蝋燭や薪に火を付けたりする程度ですな。一般の家庭では広く使われております」


 ライターの魔法って感じだな。


「先程の呪文ですが、もっと効果の高い魔法を使う場合は2倍にも3倍にも長くなります。ですがタクミ様、魔物等と対峙した時に魔法を使おうとなると長すぎると思いませんか?」

「……そうですね。戦うとなると悠長に呪文を唱えてる時間があるかどうかわかりません」

「そうです。戦闘で最初から最後まで長々と呪文を唱えるなんて時間があるかどうか怪しい。だとしたらどうするのか……それを可能にしたのが無詠唱呪文です」

「無詠唱?」


 無詠唱って事は、呪文を唱え無いって事か?

 でも、呪文を唱えないと魔力が変換されないから魔法が使えない。

 なんか矛盾してるな……。


「無詠唱とはその名の通り、呪文を唱えずに魔法を使う極意です。これは主に訓練をする事で使えるようになります。どれ程の魔法が無詠唱で出来るかは、使用者の資質次第です。さて、本来呪文を唱えなければ魔法は発動しないのに、無詠唱で魔法を使うというのは矛盾していますね」

「そうですね。呪文を唱えないといけないのに唱えなくても良いというのはよくわかりません」

「そうでしょう。ですがこれにも法則がありまして。どのように無詠唱で魔法を使えるようになるかと言いますと……」


 セバスチャンさんがそこまで言ったところで、客間の入り口がノックされた。

 ……誰だろう、今から良い所なのに……。


「どうぞ」


 クレアさんがノックの主に許可を出すと同時に、客間の扉が勢いよく開いて、小さな体の人が飛び込んできた。


「ワフ!?」


 レオはリラックスしている時に、人が飛び込んで来た事で驚いた声を出していたが、その人はそれに構わずクレアさんの所へ向かう。


「姉様!」


 姉様?

 姉様って事はクレアさんの妹さん?

 クレアさんの妹さんって確か熱を出して寝込んでたんじゃなかったっけ?

 ラモギの薬を飲ませて快方に向かってるとは聞いたけど。


「ティルラ!?」

「はい姉様。姉様の妹のティルラです!」 


 客間に入って来た勢いのまま、クレアさんに抱き着いた妹さんは歳の頃10歳くらいだろうか。

 クレアさんと違って赤色をした髪が燃えるような艶やかさをしていて、こちらも綺麗だ。

 小学生くらいの身長と幼さの残る顔は、しっかりクレアさんに似ていてとても美形だった。

 ……将来美人になるんだろうなぁ。

 というかやっぱりこの世界って美形しかいないの?


「ティルラ、どうしたの? 寝てなくてもいいの?」

「はい姉様。薬のおかげで元気になりました!」


 クレアさんの問いに元気いっぱいで答える妹さん。

 子供は元気が一番だな、うん。


「タクミさん、すみません。話の途中に……」

「いえ、構いませんよ。説明はまたいずれ聞かせてもらいますから。ティルラさんでしたか、元気になって良かったですね」

「姉様、この方は?」

「ティルラ、お客様よ。タクミさんという方で、オークに襲われていた私を助けて下さった方なの。それに、ティルラの飲んだ薬……ラモギを見付けて下さった方でもあるのよ」

「そうなんですか!」

「初めまして、広岡巧と言います。クレアさん達と同じくタクミと呼んで下さいね」

「はい、タクミさん。ティルラ・リーベルトです。私の事はティルラと呼んで下さい」

「はい、ティルラさん」


 お互い挨拶をしたところで視線をずらすと、説明が途中で中断されたセバスチャンさんが少し落ち込んでいた。

 ライラさんがそっと近づき励ましてる。

 そんなに説明したかったのかセバスチャンさん……まぁ、これから盛り上がるような部分だったのは確かだけどな。


「でもティルラ、貴女は病み上がりなのよ? ちゃんと寝てなきゃ駄目じゃない」

「すみません、姉様。でも熱が出てる間ずっと寝てばかりだったので……」

「あぁ、確かに病気の時寝て過ごした後、元気になったらすぐには寝れませんよね」

「そうなんですタクミさん!」

「もう……」


 少し困った顔のクレアさんだが、ティルラさんを見る目はとても優しい。

 クレアさんと見比べると結構歳が離れているように見えるが、だからこそそんな妹が病で寝込んでるのを見過ごせず、森に行ったのだろう。

 妹をかわいがる良いお姉さんだ。

 俺も、妹か弟が欲しかったなぁ。


「ワフ」


 レオがティルラさんを見て一声吠えた。

 それを聞いてレオを見たティルラさんの顔が、輝くような笑顔になった。


「姉様、あの犬は何!?」

「ティルラ、駄目ですよ。あの方はシルバーフェンリルなのです。ティルラも知っているでしょう? とても強い魔物なのよ」


 まぁ、実際犬で合ってるんだけど……。

 今では立派なシルバーフェンリルだ、とても強くて怖い魔物らしい。


「あれがシルバーフェンリルなんですね。……でもシルバーフェンリルは誰にも従わないと聞きましたが、何故ここに?」

「あのシルバーフェンリルはレオ様と言って、タクミさんに従ってここにいるのよ」

「そうなんですか!? タクミさんってすごい方なんですね!」


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